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素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。41

 その後も、三人でたわいもない話をしていうちに、デザートが出た、柿とジェラートをあつらえた凝ったもので、運ばれてくるなり南村が珍しく声を上げて喜んだ。
 早々に、デザートを食べ終わった、南村が
「ごめん、ちょっと煙草吸ってくるね。」
そう言って、席を立った。大津がすっと席を空けて彼女を通す、南村は場所を店員の女の子に聞いているようだが、どうやら店内には、喫煙できる場所は、ないらしく、階段を上って店の外へ出て行った。
有美は、ここで、大津に聞いてみたい事を思い出した、ちょうど南村が中座したタイミングで、思い切って、大津に聞いてみようと思った。
 
  有美は南村が外へ出ていくのを確認すると、大津の方に向き合って、少し居住まいをただすと、デザートを食べている彼に向かって、有美は、大津へ、少し聞きたいことがあるんですけど、断ってから
「なんか、プライベートに立ち入るようで、聞きにくいのですが、部長は、南村さんのこと、今は、どう思っているのですか?」
 と、聞いてみた。
唐突に投げかけられた質問に、大津は少し戸惑いの表情を浮かべて、食べるのをやめた。
「それって、俺がまだ、あいつを好きかってこと?」
「はい」
 有美はすこし、眼差しをきつくして、睨むように、大津を見据える。大津は有美の視線に少し圧倒されたのか、俯くようにして、有美からの視線を逸らした。
「結論をいうと、もうそんな感情は僕にはない、彼女は・・・茉優は、頼りになる部下だし、信頼のおける友人の一人にしかすぎないよ、付き合っていたころとは、もうお互いちがうし、自分でもしっかりとけじめをつけているつもりだよ。たぶん、性格からして、茉優だってそうだろうし。」
 大津は意外にも、澱むことなく、はっきりとそう言った。
「南村さんもそうでしたけど、部長もそうして、今でも、そうして下の名前で呼んだりするんですか?」
 有美は南村と同様この二人が、互いの名前で呼び合うことが少し気になった、
「二人だけであうときだけだね、けど君は俺たちのこともうよく知っているからね。ついつい口が滑っちゃったよ。」
 少し恥ずかしそうに、目を細めてそう言った。
「すみません、なんか立ち入った事を聞いてしまって。」
 有美が少し申し訳なそうにすると、気にするなと、言った後、大津は、
「なんか今夜は、二人に真っ裸にされた気持ちだよ。」
 そう言って、笑った。
 
 暫くすると、階段を下りてくる姿が有美から見えて、南村が帰ってきた、外の風にあったて、気分がよくなったのか、幾分青ざめていた頬が、薄いピンク色になっていた。
 南村は、席に着きながら、二人の様子を伺いながら、
「二人で、なんかいい事、話してたの?」
「内緒だよ。」
 大津がそう笑顔で返した。
 
三人が、デザートを食べ終わって、最後のお茶とおしぼりが出でてくると、今度は大津がちょっとと言って、席を外した。すると、南村が、急にテーブル越しに有美の方へ体を寄せてきて、上目遣いに、
「この後、何か予定あるの?」と小さく呟くように聞いた。
別にないと有美が答えると、
「じゃあ、孝之にどこか、飲みに連れて行ってもらいなさいよ。」
「南村さんは?」と有美が聞くと、
「あたしは、これから別の予定があるからね、二人で行っておいでよ。」と、少し悪戯な目をして、そう言った。
 どうして、南村が唐突にそんな事をいうのか、有美に少し不思議に感じたけれども、有美にしてみれば、大津とさっきの話の続きもしたかったし、もう少しゆっくりお酒を飲んでいたかった。
「部長は、もう帰るんじゃないですか?」
 有美が南村にそう訊ねると、南村は笑って、
「あいつが、この程度のお酒で満足はする訳ないよ、たぶんまだまだ飲み足らない顔をしているわ・・・それにね・・・」
 と、途中まで言ったところで、案外早く大津が席に戻ってきたので、二人のだけの会話はそこまでとなった。
 有美は、南村何を言おうとしたのか、少し気になったけれど、大津が帰ってくると、それまで柔和な顔を有美へ見せていたのに、急にいつもの硬い表情へ戻ったのに驚いた。
 
「さぁ、そろそろ行こうか。」
大津は、戻ってくると二人にそう声をかけた、どうやら支払いをもう済ませてきたらしい。
有美たちは、そそくさと支度をすると、席を立った。店の女の子たちが笑顔で、見送ってくれる。有美は少し手間取って店を出たので、階段を上ると、二人が有美を待っていた。
 

 外へ出ると、昼間に比べて熱気は和らいでいたけれど、またまだまとわりつくような暑さが漂っていた。
 有美は、大津に改めてごちそうさまでしたと礼をいうと、
「すごくおいしかったです。」と、大津の方に向けて笑顔でそう応えた。
 大津も笑顔でよかったというと、今度は南村の方へ顔をむけて、
「どうする?これから」と訊ねた、
「あれっ? 決めてなかったの?」
 意外そうに、南村は、目を見開いて返事をした。
「うん、何も決めてないんだ」
大津は、少し困ったような表情を見せる。南村は少し、あきれたような表情を一瞬だけ浮かべると
「うーん、私はもう少し飲んで帰るわ。」
 大津に視線を背けるようして、小さく呟くように返事をする、南村の大きな目が少し潤んでいるように、有美には見えた。彼女のシルバーのイアリングが、少し揺れている。
「じゃあ、一緒に行く?」
 と大津が誘う、けれども、南村は少し間をおいて、
「ありがとう、けど今夜は一人で飲んで帰るわ、ご馳走様でした、ここ久しぶりだったけど、相変わらずおいしかったわね、それじゃまた、月曜日ね、 おやすみなさい。」
 南村はそっけなく、そう答えると、二人に手を振って挨拶すると、さっさと歩き出した。
 暫くは、二人して南村の後ろ姿を眺めていたが、大津が、有美の方へ振り向いて、
「一杯だけ、飲んで帰るか。」まるで、独り言の様にそう言うと、今度は南村の方向とは、逆の方向へ歩き出した。
 有美は、あわてて、大津の背中を追っかけて行った。


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今宵も最後までお読みいただきありがとうございました。

三人で食事したり、会話したりするシーンを描くのは難しいですね・・・

段々と、大津が気になっていく有美・・・

お話はもう少し続きます。

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