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小説『引越物語』㉒お願いされたから

凪は声をあげて泣いていた。


三日かけて書き上げた敬愛する作家の全集後記。


とても良いねと担当編集者から返信を無事にもらい、昨晩は久しぶりに五時間ぐっすり眠った。


今朝メールをチェックしたら、同じ編集部から再度の依頼が来ていた。


もう一度、練習にどうですか

練習…。仕事ではなかったのか。
凪は震える手で返信した。


大きな仕事につながると思う
任せて

平行線のままだ。これは断るしかない。
叩きつけるようにして送信する。


そんなこと言って大丈夫なの笑



涙は出ても出てもなくならないものだと知った。

足元を見てみれば、土砂降りの雨のせいで水たまりができている。


凪は、その水たまりが深いものだと知らなかった。





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