【本棚①】『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子著
本との出会いも、縁だ。
ある日、街中を歩いていると仕事の電話が突然あり、
メモを取るために急いで近くのベンチに座った。
電話が終わりふと横を見ると、
裏表紙が上になった状態で1冊の本が置かれていた。
まるで私を待っていたかのように、ベンチに置かれていた。
それが、『エンド・オブ・ライフ』という本だった。
私が本屋へ行っても巡り合わないタイプの本が、
「読んで!」と言わんばかりに置かれている。
周りには誰もおらず、私はその本を手に取った。
ノンフィクションライターの作者が在宅医療で出会った
終末期のがん患者の人々の物語だった。
入院した直後、弟はノートに
「おうち」
と書いた。
家に帰りたかったのに、叶えてあげることができなかった。
在宅介護はできなかった。
苦しかった。
知的障害があるゆえ、
弟の病気の辛さを私がどこまで分かってあげられているのか認識できず
どうしてあげたらいいのか手探りだった。
いや、手探りというより、行き当たりばったりに近かった。
元々温厚で我慢強い上に、自分の言いたいことをうまく伝えられないため
自分から「痛い」とさえ言わない。
「どこか痛いの?言っていいんだよ。」というと、
やっと胸のあたりを手でさするくらい。
どんな痛みなんだろうか。
主治医は医療データから、私は弟の些細な仕草から
それを読み取るしかなかった。
がん患者って何を思うのだろうか。
結局、色んなことが最後まで分かってあげられなかった私は
もし弟が意思表示を明確にできたなら
何を思っていたんだろう、何を伝えたかったんだろうと
モヤモヤとした気持ちを引きずっていた。
そんな時に出会ったこの本の中に、
終末期のがん患者のリアルが書かれていた。
「亡くなる人は、遺される人に贈り物をしていく。」
まさしく、そうだった。
信じられないような話だけど、
ダウン症の弟は、死際にダウン症の仮面を剥がし
父親そっくりの顔をして永遠の眠りについた。
弟を守らなければと思い、ずっと生きてきた。
でも、守られていたのは私の方だったのだと
父親そっくりの死顔を見て初めて気づいた。
そして、
何をさせてもイマイチな私が弟に、ある約束を誓った。
あちらの世界で再会する時に
「約束を果たしてきたよ!」と胸を張って言いたいことができた。
それが私のライフワークになっていくと信じている。
私が怠けないように、ずっと見張っていてね。
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