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「スタンポンの穴」 第一話

 【あらすじ】二年の四宮部長率いるおおぞら高校科学部は、夏休み前に全校を巻き込んだ「動線視覚化実験」通称「スタンプ・オン」を開始した。 はじめはお祭り気分だった校内。だが、開始早々に副部長の成島みずきが不思議なデータの『穴』を見つける。 その時から、いや、実はそのずっと前から「すたんぽんの穴」の恐怖は、始まっていた。
(ホラー 文字数概ね34000文字)

※動線視覚化についてのアイディアは、ネット検索で拝読した関西大学・矢田勝俊教授のEkahau位置情報システムからおおもとのヒントをいただきましたが、物語内でのシステムを含め団体名個人名等、もろもろについては完全なるフィクションです。ご了承ください。

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「ちょっと見て! ここ、何かヘンじゃないですか?」
 成島みずきがそう叫んで画面を指さした日。

 落合エレンが楽しげに
「すたんぽんの穴、見に行きましょうよ~」
 そう言った時、

 すでに、
 僕たちは
 底なしの穴の縁に立たされていた――地獄の入口。そう
『すたんぽんの穴』の。

 七月始めのこと。
 システムは大まかに完成して、生徒や教員に配布するWi-Fiタグも発注済みで手元に届いていた。
 後は実験を、始めるだけだった。

 しかし惨劇は、実はもっと前から始まっていたのかも知れない。


【三月二八日午前十一時新着 『全国キキカイカイ ~奇々怪々特報~サイトより】

 巡査長、パトロール中謎の行方不明! 失踪? 誘拐?

 ◎◎県◎◎市原川交番の青木二郎巡査長(41)が、二十六日深夜のパトロール中に行方不明となり連絡が取れなくなった、と同行の高村卓巡査(26)より通報があった。

 県警によると、青木巡査長と高村巡査は10日深夜11時半過ぎ、無線で不審者を見かけたとの110番通報で◎◎市北新町の◎◎バイパス鈴沢インターチェンジ近辺に急行、巡査長が現場近くで不審者を発見した。巡査長が車から降り、不審者に声をかけて近づいていったものの、しばらくしてから青木巡査長は高村巡査に向かって車内で待機するよう指示、そのままその人物について高架下の道路をくぐり抜け、姿を消した。
 現場は原川交番から北に二キロ離れた、人通りのほとんどない田園地帯。
 県警は捜査員三百人態勢で巡査長の行方を追い、捜査を続けている。
 青木巡査長は拳銃を所持していたが、拳銃の行方も分っていない。


―― 知り合いなのかな、と最初思いました、はい。車内で巡査長が
「あれ、アイツ」
 そう言って、窓を開けたんです。側道に立っていた人物は、こちらを向いてはいませんでした。でも、巡査長は誰だか判ったように
「おい、何だ、どうしたんだよ」
 そう、声をかけました。普段でしたら、けっこう丁寧な口調で話しかける人で、例え相手が不審者でも
「だいじょうぶですか?」
 とか
「どうされました?」
 みたいな口をきく人でした。それが、案外ぞんざいな口調だったのが印象的でした。
 しかも、意外そうでしたが、どちらかというと嬉しそうに。
 それからすぐに車を止めて、と僕に言って、止まったと同時に外に出て行きました。
 誰なんですか? と訊ねようとした時には、小走りにその人物の元まで行ってしまっていて。話している間も、巡査長は時々笑顔を見せていました。
 相手は、全くこちらから顔が見えませんでした。男なのか女なのかも、はっきりとは。たぶん男だったかな、と。はい、成人だろう、という程度です。巡査長より背は高そうでしたし。
 心配になって僕も車から降りようとドアを開けました。それに気づいて巡査長は、あわてて手を振りました。追い払おうとするような手つきでした。
 口が『くるま』と動いたように見えたので、てっきり車内で待つように、という合図かと思い、車に戻り、ドアを閉めて待ちました。
 巡査長は話しながら相手について行って、高架になった道路をくぐったきり、それで戻って来なかったんです。

 その時飲んでいたか?
 冗談でしょう? 僕はもちろん素面でしたし、巡査長が真面目な方だったのは、皆さんご存知かと。


【四月二日 『◎◎新聞朝刊<事件・事故>より】

 本日午前六時五二分頃、◎◎市公園内で犬を散歩させていた主婦が、大噴水裏手の草むらに不審なものが落ちている、と一一〇番通報した。
 警察が付近を捜索したところ、付近から金属片と、人間の体の一部のようなものが発見された。
 金属片は、警察が更に調べたところ、拳銃の部品の一部であり、普段警察官が所持しているものと同一のものであると判明した。
 警察は、事件の疑いもあるとみて、公園付近を引き続き捜索している。
 また、先月二十六日より、拳銃を持ったまま行方不明となっている巡査長の件と関連がないか、慎重に捜査が続けられている。
 現場は青木巡査長が行方不明となった現場から南西におよそ三キロ程の閑静な住宅地内で、近隣住民からは「日頃から治安が良い場所なのに」と、不安の声が上がっている。


―― ええ、銃なんて見たことありませんし、最初は誰かがこんな所にゴミを捨てて、と思っただけですのよ。レモンちゃんがずっと匂いを嗅ぎまわっていて唸り声を上げたんですの、それで、何かくわえようとしたのであわてて引き離しました。
 まさかそれが、人の歯と爪だったなんて……私、恐ろしくてもうあの場所には行きません。
 他に、血とか、何かあったか、って? まさか私がそんなにまじまじとその場所を眺めていたのだなんて思っていらっしゃらないでしょうね? そんな気味悪い場所。
 いいえ、血などぜんぜん。その場所だけ、草は乾いて丸く枯れていましたのよ。ぺたんこになって。ただ、まあるく。

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