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「風呂酒日和」第四話 お酒編:ゑん重 #創作大賞漫画原作部門

【風呂酒日和(フロサケびより)】
どこかで銭湯を見つけると、つい寄り道したくなる。
銭湯から出ると、つい一杯飲みたくなる。
そんな私がふらりと立ち寄った、心と体とお腹を満たす、銭湯と居酒屋をまとめたマガジン。


宇宙から帰還した私は居酒屋検索を始める。
目指すは豆腐居酒屋。昭和感の漂う筆文字っぽい立て看板を発見。
うん、今日はここな気がする。

扉を開けると目の前にカウンター席。
1人ですと言ったが声が届かなかったらしく、店主がカウンターのおじさんに「連れ?」と聞いた。「いえ、全然違います」と答えるおじさん。なんか全然違くて、すみません。


連れではないおじさんの2つ隣のカウンター席に着席。瓶ビールを頼む。
早速ビールとお通しが到着。ビールを注ぎながら壁に貼られた手書きのメニューを見る。む、パリパリ油揚げとみょうがのおひたし…いい。即決で注文。

お通しはほうれん草の胡麻和え。いわゆる胡麻和えとはちょっと違って醤油ベース程よいしょっぱさが美味しい。

向こうの壁に貼ってあるホワイトボードを首を伸ばして見ていると、隣のおじさんが手元のメニューを渡してくれてた。おじさん、いい人。
おつまみは豆腐料理と看板に書いてあっただけあり、豆腐メニューが多い。
気になったものを聞いてみることに。

「春巻き豆腐っていうのはどういうのですか?」

「海鮮と豆腐を巻いて揚げるんだけど、牡蠣とホタテが入ってて美味しいですよ」

とっても魅力的。それにしよう。

「普通2本だけど1本がいいかな?」と奥さん。「どれくらいの大きさですか?」と私。「大丈夫大丈夫2本食べれるよ!」と店主のおじさん。
なんだか親子になったみたいに3人で話す。


しばらくすると油揚げとみょうがのおひたしが到着。
薄い油揚げとみょうが、ねぎ、大葉が和えられている。もう見ただけで美味しそう。さっそく一口。
あぁ…罪深い。うますぎる。美味しさが大罪。
さすが豆腐料理を出す居酒屋さんの油揚げ。こんがりパリパリで、薬味とベストマッチ。

隣のおじさんは湯豆腐を注文。なんと…湯豆腐があったのか。カセットコンロがセットされ、鍋が運ばれてくる。
1人用の小鍋にわんさかと具材が乗っている。ぎゃあ!うまそう!
大ぶりの豆腐に油揚げ、鱈と春菊だろうか。溢れんばかりの具がコンロの上でくつくつと踊り出した。見ているだけで最高の光景。

私の前には春巻きが登場。
おぉ、大きい。一緒に来たタレは…ソースだろうか。
すごく熱いから気をつけてねと言われ、おそるおそるソースをつけ一口。
ザクッといい音。そしてお主は...牡蠣!春巻きの中からじんわりと磯の風味が溢れてくる。あぁ、うまぁ。あまりの美味しさに間髪入れずもう一口。
今度はホタテ。しっかりした木綿豆腐にも海鮮の味が染みていて、それをソースにつけてからりと揚がった衣と共にザクッと味わう。
うーん、うまい!新しい豆腐の世界。


お店の電話が鳴った。どうやら来店予約のようだ。
「すいません、こちらにずれてもらってもいいですか?」と聞かれて、おじさんの右隣から左隣へ移って、ついでにハイボールを頼む。

「話しかけてもいいですか?」

濃いめのハイボールを楽しんでいると、おじさんから声をかけられた。この辺が職場で、今日初めてここに来店したとのこと。
しかし、おじさんの横にはキンミヤのボトルが置いてある。そして今は湯豆腐に合わせて日本酒を飲んでいる模様。ほうほう。

「ボトルを入れたということは、リピーター確定ですね」

「いやぁ美味しいし居心地いいなと思って。また来る姿勢を示しました」

なるほどなるほど。
大人の居酒屋の流儀?を聞いたような気がしてふむふむと納得する。

「カミさんが飲まないから僕も家では飲まないし、飲みたい時は大体1人で店に行くんですけどね。そこで広がる会話も好きで。この場だけの関係っていうのがいいよね。しがらみのない他愛のない話をするのがいい」

普段は話しかけられるとちょっと萎縮してしまうのだが、お子さんの話や介護をしているお母さんの話、最近山に登り始めた話などを聞いて、お子さんと私の兄妹構成が一緒だったこともあり、"お兄ちゃんと妹あるある話”に花が咲く。私もしがらみのない楽しい会話にリラックス。

「山登りもね、4時とかに起きるんですけど。いいですよ。朝の空気も気持ちよくて」

「確かに早起きすると1日たっぷり楽しめますよね」

「そうそう日がまだ昇ってない時に準備してね。それに山に登ると介護もいつもよりいい気持ちでできるんですよね不思議と」

「山に登ると、ですか?」

「自然を見て癒やされるのもあるし、もう僕もいい年だけど健康に山登りなんてできてるし、幸せだなって。そう思えると普段バタバタと介護してる時よりも、健康に生んでくれてありがたいなぁって思って、母にも優しくなれたりするんですよね。やっぱり自分の心に余裕がある方が人にも優しくできるというか」

「なるほど...素敵ですね」

ひとしきり話をして、じゃあまたここで乾杯しましょうなんて言って私たちは同じタイミングでお会計をして店を出た。
連れではないおじさんは、店を出る頃にはちょっと連れっぽいおじさんになった。

【ゑん重 】
住所: 〒170-0005 東京都豊島区南大塚2-43-4
電話:03-3945-4135
アクセス: JR山手線「大塚」駅下車、徒歩3分



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