ツノがある東館　#毎週ショートショートnote

「あの日の一閃がここを変えた」

東館は感慨深げに言う。
ホテルTARAHA東館は、系列の中で一番冴えないホテルだった。

「趣がある南館」は正統派高級旅館として富裕層に人気で数ヶ月先まで予約が取れない。
対して「クセがある北館」は内装やスタッフ、出てくる料理など全てに一癖あってニッチな客層から一定の支持を得ていた。
「羽がある西館」なんて夜になると空高く飛び、客室から望む夜景ツアーが大人気。

東館は中でも西館が羨ましくて仕方がなかった。
ずるい、そんな飛び道具があったらうちだって人気になるのに。
そう思って羽がウケるのならばとユニコーンのように一本ツノを生やしてみたのだが。
ツノがあったところで、空が飛べるわけでも何ができるわけでもない。東館には相変わらず閑古鳥が鳴いていた。

転機が来たのはある大雨の日。
ゴロゴロと雷が鳴ると周辺の客が皆一斉に東館に逃げ込んだ。
それ以来、東館は一番安全な「ツノがある東館」として一躍有名となった。

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