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ある朝、わたしの心に訪れたのは…

素晴らしい音楽が、やってきた。

それはふと緩んでできた隙間にそろりと流れ込み、

いつの間にか心の器を満たして一滴づつ外へと溢れ出していった。


秋の気配に少し乾きがちだった私の小さな器は、

その朝ゆらゆらとした黄金の液体で満ち満ちて驚くほど潤っていた。

溢れ出した一滴は涙となって乾いた秋の世界へと溶け込んでいく。


以前行ったことのあるパナマという場所。

そこの空気や色をダイレクトに届けてくれた音楽は、

ただの音の組み合わせではなく確かにパナマという大地の記憶だった。


世界を旅するのに音楽は欠かせない。

昔からそこにある音によってその土地を深くから感じることができる。

DNAにまで響いてくる音声版の案内システムのようなものだ。

そんな案内者に導かれながら見知らぬ路地をさまよい歩く。

たどり着いた先は来たことのない初めての場所なのに、

身体はもうしっくりと馴染んでいた。

そうだった。私はここを、知っている。


足は軽やかに、一歩一歩とステップを刻みながら踊るように歩く。

風に混じって美味しい匂いがやってくる。

どこかのラジオから聞こえてくるラテンの愛情味ある音楽。

頭の中では幻想のようにひたすら繰り返す風景、

着飾った女の人たちが大きなスカートを広げながら踊り続けている。


いつの間にか私は、パナマにいた。


ちょうどいま目が覚めたかのように、静かに瞼を開いてみる。

ぼんやりとした思考は私の部屋でいつもの風景を捉えていた。

深く染み込んだその音楽は流れ終わった後でもまだ、

体の奥深くの芯を握ったまま熱のある温度を保ち続けている。

どうやらこのまま外の街を歩き始めても、

忍び寄る冷えた気配に取り込まれることなく世界を楽しめそうだ。


安心して窓を開け、部屋中に風を通し大きく深呼吸をする。

「ようこそいらっしゃいました」と、

澄んだ笑顔ですんなりと秋を招き入れることができた秋のはじまり。


突然に訪れた今朝の来客は形を持たずに、

未だゆらゆらしたまま黄金の記憶を私の中に流し続けている。












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