中級者向け プロット・ストーリーを軸にした物語構成バリエーション クリエイターの為の批評コラム

前回はこちらですが、ここからの繋がりで。

物語制作中級者向け、ストーリーやプロットが物語や作品とどう関わるかなどの、特徴や分析。


大塚英志がその作劇術で使用した事で有名になった「依頼と代行」というモチーフ。主人公自身に何か目的があって自身で解決に乗り出す、という形とは別の、何かが必要だが自力でそれをする事が出来ない為に誰かに頼もう、という役柄がおり、それを主人公が請け負うタイプの類型です。探偵物が有名ですが、スペシャリストが主人公の場合はこのパターンが使いやすいでしょう。特殊技術が必要なので雇いたい、という具合で。

物語にしようとすると、意外性が必要ですから、ストーリーに起伏なく物事がすんなりといってはいけません。突発的なアクシデントや思わぬ事態の発生、あるいはミス等を経由し、解決したり、意外な展開を迎えたり、更に混迷の度合いを増していったりと、解決するか複雑化するかさせる。アクシデントやミスも一見ストーリーと関係ないように見えながら実は伏線、という方向で生かす手があり、その辺りを上手に繋げるとシンプルでありきたりな民話的構造であっても「魅せる」作品に出来ます。

例えば『EAT-MAN』。プロットは民話で言うと「困っている王様を助けてお姫様をゲット」もしくは「無理難題を解決して仕事にありつく」同様の方式。主人公は金で仕事を請け負うタイプで旅をしていて、世にトラブルは絶えないので行く先で何か困り事があれば出番。但し、プロ故に領分と矜持がある。大体そういう特徴のキャラクターが依頼を遂行する中で妨害や障害に見舞われながらも乗り越えて目的を達します。あるいはそれが偽の目的や真の目的の為の前段階だったり、別の目的の為に仕組まれた一部だったり。するとここで決着をつける事になりますが、その仕方で主人公のキャラクター性が際立つ訳です。

抽象的にするとパターンが味気なく見えますが具体化する時に魅力的な物をきちんと選べばちゃんと通用します。これはあらゆるパターンに言える事ですので構造的なパターンを使う事そのものを嫌わず、バリエーションをどう工夫するかを意識すると良いと思います。御存じの方もいらっしゃるでしょうが、上記の説明では『EAT-MAN』の良さはほとんど伝わっていません。スナック感覚でネジを噛み砕き嚥下する「世界一の冒険屋」ボルト・クランクが、ある時は辺境の村で蘇る魔物と戦い、ある時はメガロポリスの大企業間抗争に傭兵として雇われ、またある時は王国のお家騒動に巻き込まれ、剣と魔法、飛行艇とアンドロイド、伝説と天使、銃弾と陰謀、ファンタジーとSFとメルヘンとサスペンスが溢れ返る、その全てを一言で言い表せば「冒険屋稼業」。「食った物を手から出す」主人公・ボルトはただそれだけで「只者でなさ」を十分に見せつけ、思いがけないやり方で「仕事」をこなす。そして勿論、ボルト自身にも謎が……。

これが『EAT-MAN』のキャラクターと世界観の魅力です。こうした面が創意工夫の見せ所であり、どのように意外な展開、意外な結末を演出するか、どんな伏線を何によって張っておくか。プロットとしてある技術的なそれらをキャラクターや世界観でどう魅力的に見せるのか。作者である吉富昭仁はボルトに埋め込んだ特徴から意外な解決、意外な展開を用意し、様々な世界観によって意外性を生み出す舞台と状況を設定し、定番のプロットを魅力的に具体化する事で人気を得ました。それはキャラクターから始まったものなのですが、彼の中に魅力的な物語のプロットがなければ決してこうはならなかったでしょう。

魅力的なキャラクターはプロットを魅力的に具体化する可能性がありますが、キャラクターの魅力を最高に魅力的に演出するのはプロットと世界観なのです。どちらからでも良い作品は出来ますけれども、このコラムは今プロット、定番の展開を軸に書いてますので、そこに立ち返ります。


同じ「依頼と代行」プロットでも物語らしさを生む「逆行する感じ」をどのように仕込むか、その違いで印象を変える事が出来ます。「依頼を果たせそうにない→でも果たす」という状況は、やる気がなさそう、的外れな事をしているように見える、依頼内容が物凄い難問、ライバルが手強そう、などが考えられます。「依頼は果たした→でも終わってない」というパターンでは、それは真の解決策ではなかった、別の目的の為のカモフラージュだった、依頼を果たした結果別の問題が発生した、など。「依頼は受けた→でも失敗する」なら、先に受けていた別の依頼内容の一部としてこの依頼を受けた、約束が違うので反故にした、とか。

それぞれのパターンでどんなキャラクター性や世界観の特徴を絡めるかも重要です。その作品の売り(同時に作者の売りでもある)になるポイントが
印象に残るよう、インパクトのあるアイテム・個性・関係性などを演出できるように仕掛けていきたい所ですね。『EAT-MAN』では毎回別の国や別の星でさえあるようなSFだったりファンタジーだったりという世界観なので、読者が(恐らく作者も)飽きないバリエーション豊かなシーンが作りやすかったのかもしれません。

同じプロットでも異なる作品として成立しているものが数多くある事からも明らかなように、キャラクターと世界観によって面白さや読み応えが変わり、雰囲気も楽しみ方もまた違ってくるものですが、『EAT-MAN』の場合は特に主人公・ボルト自身が謎めいている事が作品に彩りを添えています。ボルトの特殊能力がどう生かされるのか、それが漫画としてどう描かれるのか。絵の巧さ、コマの運び方、科白の決まり方、それらの印象も含めて作品を見せる。作品の、メディアとしての特徴をどう生かすのか、そうしたチャレンジによっても作品は輝くものです。漫画は特に絵柄という面での自由度の高さというか幅の広さというか、メディア的な特徴が小説などに較べれば個性を追求しやすい面もあって、プロットを変にいじるよりも絵の勢い、パワーで押し切ってしまう方がいけるケースがあります。説得力や面白さは魅力なので、使える魅力はどんどん使って、磨いていくべきでしょう。

小説だとそれは文体、アニメなら動画やカット割り、カメラワークや各種の効果、声優の演技などがあり、実写ではロケーションが、特撮では多様な特殊効果が挙げられます。プロットが比較的大まかなパートとなるような細部の具体的シークエンスでの良さをどう見せるか、それとプロットそのものとは相補的な関係を作る事が出来、決して一方がもう一方を際立たせる為の添え物のように扱うだけが有効なのではありません。場面の、キャラクターや世界観やそのジャンルで定番の魅力をしっかり伝える為だけでなく、より一層魅力的にできるプロットの使い方があるはずです。同様に、プロットから名場面を生じさせる細部の設計や演出もあるはずで、どちらも、どちらからでも良い作品に出来るよう、知恵を絞り、力を尽くす事が成長を促すのだと思います。

思いがけずメディアの固有性や細部の事にまで話が及んでしまいましたが、キャラクターも世界観も、具体化する際には表現するメディアの限界・領域を越えられないので、そのメディアの内部をフル活用する心構えがバリエーションを得る為に必要かもしれませんね。


今回のテーマ「依頼と代行」はプロップの「31の機能」の1つで、略称は正式なものとは違いますが、これからこの「31の機能」を軸に、複数の物語制作法から得たプロットのパターンをどう利用すれば面白くなるか、やってみようと思います(多分今回同様、具体例を挙げつつキャラクターや世界観、ジャンルのお約束やメディアの特徴などを絡めつつ毎回似たパターンでやっていくでしょう。これが構造というものであって、パターンは同じでもバリエーションで見せる、テーマと細部の違いで飽きさせないようにする、という事なんでしょうね)。

続きます。



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