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「分をわきまえる」:店を始めたい人へのメッセージその10

人には「分」があります。


店を作るとき、皆大なり小なり夢を見ます。
仕事に対する思い入れが強ければ強いほど、理想の店にしようと思えば思うほど、店舗工事費は増大し、設備は増え、そして高級化していきます。
まずは思いの丈を詰め込んだ創業計画書を作ってみてください。
完成したら、いちど立ち止まってよく考えてみて下さい。

それは「分相応」な計画ですか?

そこまで高額な店舗工事費は必要ですか?

そこまで高級な機材は必要ですか?

それ自己資金で賄うことはできますか?

賄うことができたとしても、運転資金は残っていますか?

賄うことができないとすれば、どの程度の融資を必要としますか?

融資を受けられたとして、その融資金額、本当に完済できますか?

月々の返済のために、返済がない場合に比べ、1日いくらの売り上げを上乗せしなければならないか計算しましたか?

その売り上げを達成するために来店客を何人増やさなければならないか計算しましたか?

目標というよりも、返済のための義務を果たす自信ありますか?

その自信に根拠はありますか?

もし、目標通りの売上に達しなければ・・・どうしますか?

もし、交通事故で大けがを負ったり大病に倒れたりしたら・・・どうしますか?

予定通りに行かないのが人生です。

人にはそれぞれに「分」があります。「器」と言い換えることもできます。
「器」の容積以上に水を注いでも溢れてしまうように、「分不相応」な計画はきっと頓挫します。

過大評価はいけません、過小評価もいけません。
自分の「分」を客観的に正しく評価してください。
そして「分相応」な計画に修正してください。

私の開業計画時の話をします。

私は、開業計画の当初、日本政策金融公庫に800万円の融資を申請していました。
しかし公庫の担当は首を縦には振ってくれませんでした。
具体的な金額は明示しませんでしたが、開業資金の内訳をもっと精査しなさい、という回答。

自己資金を増やすために開業時期を遅らせるという選択肢はありませんでした。(その理由については伏せます)
そして運転資金を削るという選択肢もありません。
あとは、削りに削った店舗工事費をさらに削ることと、機器備品をできる限り中古品に置き換えること、そして、一番したくなかったことですが、焙煎機のサイズを小さくすることくらいしか思いつきませんでした。

私が欲しかった焙煎機はマイスター5(最大5キロ焙煎可能な半熱風式焙煎機)でした。
本当にこのマシンが喉から手が出るほど欲しかったのです。
しかし、これをマイスター2.5(最大2.5キロ焙煎可能)にスケールダウンすれば200万円減額できる。
焙煎容量は下がっても、焙煎機の性能が下がったわけではありません。
そして2.5キロあれば、豆売り中心の営業もこなせるだけの容量ではあります。
マイスター5を欲しい気持ちをぐっとこらえてマイスター2.5に変更しました。
いつかマイスター5どころか、マイスター10を隣に据えてやるぜ!

そう自分に言い聞かせて、300万円マイナスの融資額500万円に修正した創業計画書を提出しました。

「掛け合ってみます」
そのときの担当者の笑顔が忘れられません。

そして程なく申請が通りました。

嬉しいよりも悔しかったです。
50歳も過ぎて、800万円の融資すら受けられない自分の今の「身の程」を思い知らされた気分でした。

自分の「分」を受け入れることは時に大きな苦痛を伴います。しかし現実を直視し、受け入れる勇気が必要です。

幸いなことに「分」は生涯変わらないものではありません。
努力を積み重ね、実績を積み上げてゆくことで大きくなっていくものだと思います。

そう信じて、まずは「分相応」の店で実績を積み上げてください。

そうすれば、きっとあなたの「分」も大きくなっていくはずです。

頑張ってください。私も頑張り続けます。

追記:今月、その融資を完済します。
5年間でした。
融資額が500万円で本当に良かった。
分相応だったのだと思います。


サポートは謹んで辞退させて頂きます。お気持ちだけで十分幸せです。