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#旅する日本語 #六月柿 (ろくがつがき)・・・トマトの別名、古名。

「おい、イタリアのトマト祭りに行くぞ!」

あの人は唐突に言い出す。私は本気にせず、適当に聞き流す。

あの人はいつもそうだった。

私がこしあんの饅頭を好んで食べていると
「お前知らねーのか。こしあんってモンはだな、つぶあんの饅頭が一週間売れ残った残りモンをこね直して作るんだぞ」

自分のキライなニンジンがカレーに入っていると、こっそり私の皿に移した。それをとがめると
「お前知らねーのか。ニンジンには不死身の薬が入ってるんだぞ。せっかく分けてやってるのに、まったく」

あの人はいつもそんな調子でほらを吹く。

トマト祭りがイタリアではなく、スペインのお祭りだということを私が知ったのは、随分あとのこと。

それから10年以上の月日が流れたけれど、未だにトマト祭りには行けていない。

「だって、六月柿(トマト)、キライだったじゃん、お父さん・・・」

ほら吹きのあの人が、空のずっと向こうへ旅立ってから、もうじき7年になる。


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