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対話する時間を <考えるパンKOPPEができるまで> 最終回(前編)

※この記事は、富山県氷見市IJU応援センター・みらいエンジンで連載中の<考えるパンKOPPEができるまで>の記事をnoteにてマガジン化したものです※

掲載日:2020年6月17日

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皆さん、こんにちは。写真家の北条です。

県内の緊急事態宣言が解除され早1ヶ月が経ち、少しずつ日常を取り戻しつつある中、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

6月に入ってからは、新しいお店がオープンするなど明るいニュースが届き始めた一方で、慣れ親しんだ街のお店が閉店されるという悲しいニュースも見受けられ、当たり前だった日常が目まぐるしく変化する様相を、肌で感じる今日この頃です。

さて、今回お送りする記事は、連載企画<考えるパンKOPPEができるまで>。過去3回に渡りお届けしてきましたが、今回をもって最終回となります。

<過去の記事>

街中の明日を「考える」。

街の変化と共に。

蕾がひらく頃

今回はこれまでの内容と異なり、考えるパンKOPPE・竹添あゆみさんとの対談をお送りしていきたいと思います。

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※対談日:2020年4月12日※

2020年3月19日、無事にプレオープンを迎えられたKOPPEさん。これまでの時間を振り返るとともに、昨今の情勢を踏まえ、お互いが今考えていることを、ざっくばらんに話し合いました。

初めての対談企画ということで、読み苦しい部分も多々あるかと思いますが、お楽しみ頂けたらと思います。それでは、ご覧下さい。

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写真家・北条巧磨(以下、北条) 今回は、対談という形でお送りしていきたいと思います。よろしくお願いします。

考えるパンKOPPE・竹添あゆみ(以下、竹添) よろしくお願いします。

北条 これまでの経緯を踏まえて、オープン時やオープンしてからの心境を、まず最初に聞いてみたいなと思います。本格的に工事が始まったのは、去年の10月くらいからですかね?色んなことがあったと思いますが、振り返ってみてどうですか?

竹添 そうですね。去年の10月くらいの時はまだ、「本当にオープンできるのかなあ?」と思いながら過ごしました。「1ヶ月2ヶ月後?想像できないなー」と思いながらも過ごしていましたね。工事が遅れていたので、大好きなパン屋さんへお手伝いに行ったりしていました。

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竹添 年が明けてからは、DIYのリノベーションを始めたり、仕入れやオペレーションを具体的に決めたりと急に走り出しました。でも、動けなかった去年の年末のうちは、「本当に大丈夫だろうか?」と心配で色々と考えてみたり、「本当に実現するのかなあ?」と思っていたのを記憶しています。 

北条 確かに年末までは、「本当に完成するのだろうか?」みたいな印象が自分にもありました。期待もありつつ心配もあったり。でも年明けてからは、とんとん拍子でしたね。

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竹添 3月からですね、実際にパンを焼き始めたのは。1月2月は、引越し作業と内装工事屋さんになったみたいな(笑)。そっちの作業にかかりっきりでした。

北条 つい最近になって、パンのメニューを考えるみたいな感じですね?

竹添 そうそう。でもパンのメニューは、ずっとずっと何回も練っていて。時間が経ってしまったから、メニューを考え直したりとかグルグルしていました。頭の中ではシミュレーション出来ていたのですが、やっぱり実際は違いますね。タイムスケジュールとかルーティンとかは、オープンした今もまだまだ試しながらです。様子を見ながらやっています。

北条 分からないですよねー。実際にどうなるかは。

竹添 そうなんです。心の中では準備していたけど、やっぱり始まってみてみないと分からないですね・・・。

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北条 お店を開く前に抱いていた、ご自身の”お店”に対するイメージとか。実際にお店を開いてみて、”お店をやること”のイメージは変わりましたか?

竹添 お店のやること・・・うーん。

北条 思い描いてたお店像みたいな感じですね。

竹添 そうですね。今までもパン屋さんでアルバイトさせてもらって、その時のイメージを持っていていたので、そんなにギャップはなかったです。色々な方が来て下さってパンを選んだり、そのパンについて説明したり。自然にできていますね。これまで経験してきたお店が、地に足のついた良いお店だったんだと思います。

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北条 なるほど。マルシェ時代とお店時代を比べての変化とかはありますか?

竹添 いやー分からないですね。マルシェの時は結局、マルシェの肩書きを借りての自分だったので、自分のお客さんではなくて、そのマルシェのお客さんという捉え方でした。人気のあるお店が出店して下さっていて、ついでにうちのを見てってくれるみたいなつもりでいたので。でも自分のお店を開くと、「自分のお店のためにここに来て下さっているんだなあ、お客さん。」と思いますね。気恥ずかしいやら(笑)、嬉しいやら。

北条 確かに(笑)!

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マルシェ時代のKOPPEさん

竹添 まあでも最初なのでね、それが継続するかはこれからなので、まだなんとも分からないですけど、「自分のお店に来てくれるお客さんなんだ。」という心持ちは違いますね。

北条 なるほど、確かに心持ちは違ってきますよね。自分の感覚としては、KOPPEさんのお名前が、例えばヒミイーツに掲載されているのを見て、「おっ、ついにお店になったんだ!」と実感しました(笑)。

竹添 お陰様で(笑)、はい。

北条 ロゴの雰囲気もちゃんとデザインされていて、KOPPEさんのイメージと合っていますよね。どう表現しましょうか。なんかこう、「お店として、ひとり立ちしたなんだなあ」と感じました。

竹添 でも最初は、マルシェだけの出店に満足していたので「工房だけを作ろうか」という気持ちもあったのですけども、まあでもやっぱり、”考える”というところをしっかりやるには、お店という場所を作って良かったなあと思います。

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北条 そもそも、どういった経緯でお店を開くことになったのですか?工房だけでも良かったと先ほどは伺いましたが。

竹添 ここの場所を紹介してもらって。ここが良いなと思ったら、とんとん拍子ですね。

北条 それでお店を開くってなんか・・・どう言えばいいですかね。いやー、自分のお店を開くというのが、そもそもすごいなことだなあと率直に思いました。

竹添 確かにそうですね。でも、お店を開く前にも、色々考えましたやっぱり。移動式のトラック販売だけにしようとか、どこかマルシェの出店だけにしようとか。卸しだけにしようとか色々。色々な形態を考えて、でも商店街がいいな。この物件がいいなと思ったし、そしたら、お店を開くのが自然だったので。その流れにのって、開かせてもらいましたという感じですね。

北条 なるほど。

竹添 一人で週に2日の営業だけですし、綿密な資金繰りとか、雇用の手続きとか、そういうのはやっていないので。たぶん一般的にお店を開くということよりも、かなりハードルが低いと思います。

北条 そうだったのですね。

竹添 実家も自営業だったので、なんだかんだ長いあいだ開いてるし。まあ、「自分のお店もなんとかなるでしょう。」って思いました。

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北条 この建物でなかったら、お店を開いていなかったとかありますか?たまたまですよね、この物件に巡り会ったのは?他の物件だったら、このような(職住一体の)お店自体無かったのでは?とか勝手に考えたり・・・。

竹添 本当に良いところを教えてもらいました。農村とかでぽつんと、パンを作っているというもの憧れだし、そんなスタイルのお店も良いなあと思います。でも私は、そんなに広い土地を管理できなさそう・・・。商店街で、元々ここにお店があって、次に新しいお店ができたというのは自然ですから、ラッキーです。お店があると思って、人が通っていて、お店があるわけなので。

北条 街中に新しいお店ができて、やっぱり何か変わりましたよね。お店がひとつ有ると無いとでは、街の雰囲気が全然変わります。

竹添 まだまだ最初なので分かりませんが、人が笑顔でいるってのは嬉しいですよね。

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北条 過去の記事でも書いたのですけど、街中を歩く度に、木材の香りや工事中の匂いが、お店の少し手前くらいから香ってきて、それだけでも街の雰囲気が違う印象がありました。こうして遂にお店が完成して、街中の雰囲気がまたさらにガラリと変わったなあと感じました。

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北条 KOPPEさんの客層って、家族連れの方とかだったり、あんまり偏っていないじゃないですか。老若男女、特に家族連れのお客さんが来られるのって良いなあと。そういったお店が街中にあるっていうのが、個人的に嬉しいです。

北条 あと、お子さん連れの方が多くいらっしゃることって、本当に街の未来や希望だなあと思います。なんかこう、KOPPEさんと共に、彼らも育って行くんだろうなあと思いました。

竹添 それはそれは(笑)。

北条 どの立場から言ってんだってのはありますけど(笑)。

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竹添 いやでも、昔はみんなそうだったのかもしれないですよね。今は静かだけど、昔はもっと賑わっていたわけだし。

北条 イートインスペースが完成すると、また雰囲気は変わるだろうし、プレオープン当日も、パンを食べる人がいたり、本を読んでいる人がいたりだとか、すごく多様的でしたよね。こんなことは、他のパン屋さんでも、あまりないのでは?と思いました。その光景が、すごく嬉しく印象的でした。

竹添 色んなことが落ち着いたら、そういうゆったりとした流れができていくと思うので、もう少し楽しみに待ちたいですね。

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北条 ちなみに、あゆみさんの想いとしては、”パン屋さん”をやられたいのですか?それとも、”考えるパンKOPPE”とあるように、議論とか”考えること”をメインにやられたいのですか?

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(写真提供:考えるパンKOPPE)

竹添 そうですねえ。”パン屋さん”も”考えること”も両方です。どっちか偏るのがイヤですね。今は考えるイベントは開けていないけれど、昨今の情勢を受けて考えることは絶え間なくあります。ただ、週に2回パン屋さんを開くために、仕込みをする時間もありますから。そのふたつが両輪で走る、車か自転車かみたいなイメージです。それが生活ですから、どっちか偏るというのは避けたいですね。

北条 なるほど。パン作りと考えることの両立ですね。

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竹添 やっぱり今回、これだけコロナウィルスのことで、飲食業の人たちが困っている、他の方々もみんな。でも私たちが今まで、政治に声を上げてきたかとか、政治に対してチェックしてきたかというと、たぶんそうじゃないですよね。

北条 うんうん。そうですね。

竹添 前、東京にいた時に、一時期働かしてもらった飲食のお店は、仕込み量が多くて忙しいし、朝から晩までお店を開けているしで、とてもそんな暇は無かった。そんな状態の中で、社員さんは「選挙とか行っている場合じゃない」と言っていました。そんな積み重ねがあって今、権利行使できない立場に追いやられている。ですからやっぱり、考えることをやめてはいけない。でも労働も大切だから、忙しくしすぎないで、考えることや行動に移すことを見失わない働き方をしなければいけないと思うのです。それがまあ、自分の場合は、『育児×パンを作る×考える』というのを、バランス良く無理なく行うことが自分にとって大事なので、「考えるパンKOPPE」もそうであって欲しいですね。いつも忙しく一生懸命とか、生産量を増やすことも良いのかもしれないですけど・・・。

北条 そうですね。考えることをやめてしまっていますもんね・・・。ただ、毎日忙しく暮らしているとそうなりますでも・・・。

竹添 そうだと思います。そうそう。

北条 何かを考えていても、意見を言う場が無かったりとか。そんな背景もあって、考えることをやめている人が多いのかなと思ったりします。やっぱり、会社や組織の中にいると、自分の思っていることが言えない社会になったりしているので、考えて対話する場があるというのは、すごく良いですね。

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竹添 そうですね。偏った考えや強い意見ではなくて、色んな立場や年齢の方のお話を聞きたいです。同じ人でもその時々で考えって変わるものだから、それをみんなで話し合ったり、受け入れたり、色々質問し合ったり、そういうやりとりがフェアに出来る場所が良いなと。

北条 とても良いですね。今回の企画も、誰かと”対話をしたい”という想いから始まりました。議論よりも”対話”。色んな価値観を持った人が、自分の意見を言って対話するということを、これから特に意識しなきゃいけないなと感じていました。自分はある種、対話がなされていない現状に危機感を持っていますね・・・。考えることを止めている社会だし、そういう文化を自分たちから伝えていかなきゃならないなあと、特に氷見から。そういった流れのなかでも、KOPPEさんは貴重な存在であると気付かされます。

竹添 やっていることは大したことではないですけど、まあ意識的に続けていければということで。

北条 普通のことをやるってだけでも、本当にすごいことだと思いますよ。

竹添 ですかねえ。まあでも、今のところ、”考えること”の方には興味を持たれにくいかな・・・。たまにお会いして、「気になっていたんです!」と言ってくださる方はいらっしゃるのですけど。

北条 今はパンブームということもあって、最初の方は、『新しいパン屋さんができました!』という見出しが出て・・・そうだと思います。パンをお目当てに来られる方が、多いですかね。”パン屋さん”であり”考える場所”であるということを、ちゃんと伝えていかなければならないですよね。

竹添 伝えるのは難しいですよね・・・。自分自身が、わかりやすい表現や断言することを好まないのでなおさら。

北条 本当にそうですよね。最近思うのは、伝えることをやらないと本当にまずいと感じます。自分の考えとか、写真に対する考え方だったり、そういうのをちゃんと伝えないとダメだなあと、すごく危機感を持っていますね。受け取り方は人それぞれ違うものだし、写真に対する考え方も人それぞれなので。「”北条”という写真家が撮る写真は、こうなのですよ。」というのをちゃんと伝えたいというのはあります。

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竹添 でもどうですか?芸術家さんの中でも、自分の作品に対して説明をする方と、作品だけ発表して一切説明しないっていう方が、たぶんいらしゃったりすると思うのですけど・・・。

北条 あーそこは難しいですよね。自分は、作品を読み取って欲しいのですよ。自分から直接的に伝えることはあまりせずに。作品を通したりとか、展示方法とか伝達媒体を通して汲み取って欲しい。そんなタイプですかね。でもなかなか、それを出来るリテラシーがまだまだ浸透していないのかなと・・・。

竹添 観る側の方にですよね。観賞の仕方だったりとか。

北条 そうです。それは別に、富山や氷見に限ったことではなくて、それは日本全体の問題というか、教育の問題とかにあると思います。やっぱり、ヨーロッパへ行くと、美術館とか博物館とかが沢山あって、観る人の教養が養われていると思うのですけど、やっぱり日本だとまだまだ・・・。

竹添 対話しながらよりも、「静かに観なさい。」という注意が先に立ちがちですね。展示に見に行っても。

北条 そうなんですよね・・・。

竹添 創作も大事だけど、読む力とか読み取る力は大事ですよね。

北条 やっぱり、自分の想いや意志とかを作品に込めるので。それは伝達媒体が、写真にせよ文章にせよ動画にせよ。そういうのを、汲み取って欲しいなと。自分ももっと努力しないといけないですけど・・・。

竹添 そうですよね。よく、谷川俊太郎さんとかも、川島小鳥さんの写真集に詩を載せるとか、そういうのもありますよね。たぶん、その二人の間には多少の齟齬はあるんだろうけども、でもそれが1冊の本になった時に面白い。第三者を入れて語ってもらう、みたいな方法も良いですよね。

北条 そうですね。伝える方法は、工夫しないといけないですよね。

竹添 自分が語りすぎるもの、難しいですよね。芸術家さんはその辺きっと。

北条 そこは悩みますね。なので、自分の活動としても、これからは”伝えること”を大切にやりたいなと思っています。氷見の暮らしの良さをちゃんと伝えるとか。そういうところに重きを置いてやりたいなと。ただ写真を撮るだけではなくて、その先のこともー、というのが今思っていることです。自分の課題というか使命として。やっぱり氷見の良さも、ちゃんと伝わりきれていないじゃないですか?

竹添 まあ大丈夫よ。わかるわかる(笑)。

北条 いやーどうなんですかね(笑)。あゆみさんは、氷見へ移住されていますよね?どうですか?外側から見て氷見は。少し話は変わりますけど。※後編へ続く※

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<前編のあとがき> 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。ここでは、前編のあとがきとして、少しだけ付け足しをしたいと思います。

この記事の構成を考える上で最初に思い浮かんだのは、雑談のような取り留めのない話から、ふとした気付きや発見が生まれれば良いなということでした。例えば、温かいお茶や珈琲を飲みながら話した時の記憶というのは、どこか頭の片隅に残っていることってありませんか?そんなリラックスした雰囲気のなか、肩肘張らないで、またインタビューのように一方的なやりとりだけでは終わらずに、異なる価値観や考えを共有し合える機会を作りたいなと考えました。それが、この企画のあらましです。

対談を終え、収録音声の文字起こしや校正作業の為、約2ヶ月後の公開となりましたが、その間にも様々なニュースが駆け巡りました。コロナ関連のニュースはもちろんのこと、誹謗中傷問題や人種差別問題などなど。こういったニュースが届けられる度、「現代の私たちは、対話することを本当に行えているのだろうか?」という不安や危機感が募りました。ただ一方的に誰を批判し傷つけたり、双方の意志や価値観の共有がなされていないまま、出口なき対立が生まれているように感じたのです。

そういった最中で、今回の企画を皆さんに届けることは、影響力は微々たるものでも何かしらの意味はあるのではないか?と思い、文章を積み上げていきました。

この記事をご覧頂き、隣にいる身近な誰かと対話するきっかけが生まれたならば、筆者としても嬉しい限りです。

後編では、氷見での暮らしのことや、教育・文化、戦争について対話していきます。引き続き、お楽しみ下さい。

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