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オフィスひめの通信 9号

執筆:西澤真生(ひめのともみクリニック医師)
発行月:2010年11月

-効果の検証について-

 効果があるかないかはどうやって決められているのでしょう。実際に飲んでみて期待するような症状の改善や数値の改善が見られれば「効果がある」わけですが、全く新しい薬を試す時には「やってみたけれど駄目だった」という  場合があまりに多くては困りますし、重大な副作用が出たら取り返しがつかないこともありますね。
 そこで現在承認されている薬は安全性と効果について臨床試験が行われてから認められることになっています。新しい薬の承認にはこれまでかなり慎重でしたが、海外ですでに実績のある薬については承認を早めようという動きがあることはみなさんご存知の通りです。
 臨床試験では無作為二重盲検試験という方法がとられることが多いです。これは条件を満たすある集団に対して「薬を使用するグループ」と「偽薬(薬が入っていない錠剤)を使用するグループ」に分けて効果を比較するものです。バイアスを除くためにグループは出来るだけ偏りがないように分け、試験中は薬を投与する側も 飲む側もどちらを飲んでいるかわからない状態にします。薬以外の治療法の効果比較にも用いられており試験を受ける人数が多いほど信頼度の高い検査と考えられています。このような試験は  「より多くの人に効果が認められましたよ」と いうことを保証しています。
 さて、ここで問題です。栄養療法のサプリメントについて無作為二重盲検試験を行ったら「効果あり」と判定されるのでしょうか「効果なし」と判定されるのでしょうか。
 栄養素についてはすでにたくさんの論文がありますが、集団の選び方やサプリメントの量、組み合わせによってまちまちの結果が出ています。そうなるのはある意味必然です。ここまで一緒に栄養医学について学んでくださった方は二つの キーワードを覚えているでしょう「個人差による至適量の違い」そして「複数の栄養素は一つのチームとして働く」。この条件を満たす無作為二重盲検試験を設定するのはほとんど不可能です。
 分子整合栄養医学者はいち早く無作為二重盲検試験を取り入れ、そしていち早くその限界に気づきました。そこで新しい効果判定方法―― 治療前、治療中、治療中止後の比較により効果を判定する――という方法を編み出しました。栄養療法では判定のための数値指標が存在しますので治療効果については客観的に随時知ることが出来ます。この効果判定方法の最も優れた点は「集団ではなくその人についての効果」を判定することが出来る点です。
 最近では栄養素に関する新しい事実が次々に判明し、医学界から意図的に遠ざけられていた「分子整合栄養医学」に関する論文が見直され有名な雑誌(journal)に採用されることも多くなってきました。みなさんの実践が明日の医療を作っていくのです。


ビタミンCの話 2 ~補酵素としてのビタミンC~

 ビタミンCが美容や風邪に効くことは知っていてもなぜ効果があるのかといわれると案外知らないということはありませんか。また体のあらゆる場所の代謝に関係していることもあまり知られていないように思います。
 ビタミンCはアスコルビン酸、アスコルビン酸モノアニオン、アスコルビン酸ラジカル、デヒドロアスコルビン酸という4つの状態を行き来しながら電子を与えたり受け取ったりしています。そして強力な電子供与体(電子を与える)であることにより抗酸化剤として、また水酸化酵素の補酵素として作用を発揮しているのです。
 補酵素としての働きに注目してみましょう。
 ビタミンCが補酵素となる水酸化反応には

  1. コラーゲンを架橋し形成を助ける

  2. ドーパミンとノルアドレナリンを合成する

  3. カルニチンを合成する(カルニチンは脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶ物質です)

  4. コレステロールから胆汁酸を合成する

  5. 異物を水酸化反応により無毒化する

  6. ステロイドホルモンの合成過程における水酸化反応

などがあります。
 重篤なビタミンC欠乏のことを「壊血病」と呼びます。全身の皮下や歯肉、関節内、消化管や尿路などの臓器に出血が起こり、原因がわからなかった時代には たいへん恐れられました。これらは、毛細血管が脆弱になるためでコラーゲン形成に関係しています。それほど重篤でなくても「知らないうちにあざが出来ていた」「傷の治りが悪い」「歯槽膿漏」などではビタミンCまたは鉄、あるいは両方の潜在的欠乏症の可能性があります。
 ビタミンCは精神や神経の働きに関係しています。特にドーパミンやノルアドレナリンはビタミンCが関係する重要な神経伝達物質です。適正に調節されるためにはまずしっかりと合成されていることが前提です。ストレス時には副腎におけるノルアドレナリンやステロイドホルモンの産生が高まりビタミンCが大量に消費されることが分かっています。この時期には副腎は活発に働き大きくなりますが、ストレスが長引き材料が枯渇すると副腎は萎縮し回復までには長い期間かかってしまいます。
 上にあげた補酵素としての働き以外にも、ヒスタミンの分泌を抑えたり、インターフェロン合成を促進したり、ウイルスを不活化させたりと新しい働きがどんどん解明されています。やっぱりビタミンCはかなりの優れものですね。


食事療法の嘘?本当?~ピロリ菌感染と栄養吸収~

 今回はちょっと趣向を変えてピロリ菌感染の話をしようと思います。
 前号の「胃もたれ」の中で「胃はたんぱく質を消化するところ」と説明しました。
 胃は約3分の2を占める胃底腺の部分と出口に近い 約3分の1の幽門腺の部分に分けられます。胃底腺にはペプシノーゲン(胃酸によって消化酵素のペプシンになります)や胃酸、内因子を分泌する細胞が分布しています。幽門腺にはアルカリ性粘液やガストリンを分泌する細胞があります。
 1979年、オーストラリアの病理学者ウォーレン医師とその助手のマーシャルが慢性胃炎患者の胃の組織にらせん状の菌が付着しているのを発見しました。培養や観察・実験の末に胃炎・胃潰瘍の原因として発表した当初は「胃酸の強い胃の中に細菌が生息するはずはない」とほとんど相手にされませんでした。その後「ヘリコバクター・ピロリ」と名付けられたこの菌が胃の環境を変えたり自分自身や胃の粘膜の遺伝子やたんぱく質発現を変えたりすることがわかってきて1994年、米国 国立衛生研究所(NIH)が公式にこの学説を認めました。彼らは2005年その功績によりノーベル医学・生理学賞を受賞しています。
 ピロリ菌が感染すると、幽門腺の部分が増え胃底腺の部分が減ってしまいます。胃カメラでは「委縮性胃炎、胃粘膜萎縮」という状態です。血液検査ではペプシノーゲンI/II比の低下が起こり、胃酸とペプシノーゲンI、   内因子を分泌する細胞が減っています。ペプシノーゲンや胃酸が減った状態ではたんぱく質の消化・吸収が低下します。内因子ビタミンB12を結合して小腸での吸収を助ける物質です。内因子が減ることはビタミンB12の吸収が極端に悪くなることを意味します。ピロリ菌の影響はそれだけではありません。胃液の中のビタミンC濃度を測定するとピロリ菌感染をした人の胃ではビタミンC濃度が極端に低く、ビタミンCを10gまで飲んでも胃液のビタミンC濃度がほとんど上がらなかったというデータがあります。胃の中のビタミンCは癌を起こす原因となる酸化物質の防止と鉄の吸収を助ける働きを持っており、ピロリ菌感染があると鉄の吸収が悪くなります。
 これらのことから、ピロリ菌が感染したままだと栄養療法を行ってもなかなか状態が改善しません。
 日本でのピロリ菌の保険治療は最初胃潰瘍・十二指腸潰瘍に限られていましたが胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、早期胃癌に   対する内視鏡的治療後に適応が拡大し、ピロリ菌の感染と胃がんの関連を示す論文も多数出ています。
 抗生物質のアレルギーなどの問題がなければピロリ菌除菌のメリットがたくさんあると思います。


※刊行当時の内容のまま掲載しているため、現在の状況とは異なる記述もあります。

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