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第四十八話 売人失格

売人には自分の商品を自分で食ってはいけないという暗黙のルールがある。とは言っても薬をやらない売人はいないので到底無理な話なのだが、商品に手を出し始めてしまうと取り返しがつかないことになってしまうのだ。

特に末端の売人だと自分で食ってしまった分の売り上げを詰めることがとても難しいのだ。私も売人になって1年半が過ぎて居た。年ももう18歳になっていた。兄貴分たちはもう20歳を過ぎていたので何をやるにもパクられないように気をつける必要があった。

私は先日姉の家に行って色々な話をして今自分がしていることが果たしていい事なのかを悩む毎日であった。毎日薬を売り捌き、その金でコカインなどを買う。覚醒剤、コカイン、大麻、MDMA、向精神薬も簡単に入手できた。

向精神薬と大麻をやっていると、性欲がなくなっていくのがはっきりわかる。そんなときはじっと薬の効き目を楽しむのがいい。逆に女とSEXするときにはコカインをバッキバキにキメてやるのが最高だ。

効き目だけで言えば覚醒剤のほうが持続時間も長いし一気に全身が覚醒する感じがあって、値段もコカインより安いのだが、私はコカインの少しマッタリした感じが好きだったのだ。もっとぶっ飛んだ感じにキメたければ、金さえあれば色んな薬物を一緒に食って遊ぶことが出来る。

そうやって色々な薬物を混ぜ合わせたり、アルコールを加えたりとしていると、自分が何をしているのかが分からなくなってしまう。だがそんな状態になっても覚醒した状態で楽しく遊ぶことが出来るのだから凄い事だと思う。後になって覚えてないだけでその場はとても楽しいのである。『お酒を飲んでいるときは楽しくても飲みすぎると次の日記憶がない』という経験をしたことがある人は結構いるのではないだろうか。そんなイメージで考えてもらえれば伝えやすい。

もう依存状態になってしまうと、薬の効き目も短くなり、効果が切れてしまうと不安感や、幻覚、幻聴といった中毒症状が出てきてしまうようになる。薬を売るのはそっちのけで、自分で薬を買い食っている毎日が続いていく。

そんな事をしているうちに入って来る金より、出ていく金の方が多くなってきてしまうのだ。最初の方は何とか金を作って金を入れていたのだが、段々とそれが出来なくなってきてしまう。もう私は廃人同然になっていた。あれだけ稼いでいた金があっという間に溶けていく。

シンナーや大麻を売るのは友達たちが手伝ってくれたので精算分の金は用意できていたのだが、周りは私の身体の事を心配してくれていた。私は薬物依存症で食事もほとんど取らないような状態だった。そんな私をどうにか薬物中毒から立ち直らせたいと思ってくれていたのは当時付き合っていた彼女である。売人を辞めるよに何度も言われその度に喧嘩をしていたことをよく覚えている。彼女の献身的なサポート、姉からもちゃんと仕事しろと言われた話、友達もやりすぎだからちょっと抑えた方が良いという心配の声。私はどうすればいいのか悩んでいた。その悩みから逃げるためにまた薬を食う毎日。

今回は薬物中毒状態で自分自身にもこれからについての不安があり、幸いなことに私を薬物から抜け出させようとしてくれた人達が周りにいたというエピソードになります。次回は組を抜けて真面目に働こうとしますが、なかなかうまくいかない様子を書いてみたいと思います。

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次回に続く

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