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第五十一話 悪魔の誘惑

二日目の朝目を覚ますと起き上がることが出来ない。筋肉痛だった。全身の力を振り絞って起き上がる。きっと姉の紹介でなかったら辞めていただろう。それくらいきつい仕事だった。足を引きずりながら工場へ向かう。毎日同じことの繰り返しの単調な作業に一週間も経たないうちに飽きていた。それでも気力だけで仕事を続けていたのは今思い返してみても良くやったと自分を褒めてあげたい。

二週間を過ぎた頃、同じ工場で働いている一人の先輩が声をかけてきた。ほとんどが30代過ぎのおじさんばかりの職場で、一人だけ私に近い年の頃の人であった。ちょっとトッポイ感じのその先輩は、話してみると面白い人で、年は私の2歳上なので話も合った。初めて話した日に仕事が終わってから飲みに行く約束をした。給料日はまだ半月先だが金はまだ残っていたので居酒屋くらいなら大丈夫だろうという思いがあった。
仕事を終え、家に帰ってシャワーを浴びて待ち合わせ場所の駅前に向かう。駅前にあったチェーン店の居酒屋に入った。酒が入ると二人ともよく喋り仕事場で話した時よりも盛り上がった。久しぶりの人との交流だったので楽しみも大きかった。居酒屋で勢いがついてしまってキャバクラに行こうという事になった。嫌いではないし金もあったのでそのままキャバクラへ行き12時過ぎまで飲んだ。次の日も仕事であったためそろそろお開きにしようという事になって家に帰った。

若かったためか、二日酔いもなく朝起きて工場へ向かった。先輩は先に来ていて私に気がつくと笑いながら手を挙げた。昼の休憩の時に話をすると、今日も飲みに行こうと言ってきた。私は楽しかったので断る理由もなかった。
そんな感じで週に3~4日飲みに出かけた。居酒屋に行ってキャバクラ、たまには風俗に行ったり、ナンパをしたりと楽しかった。

飲みに行くようになってから半月後、給料日だった。仕事が終わった後手渡しで給料を受け取った。金額は手取りで17万、愕然とした。姉の紹介であったため詳しい話などは何もしていなかったのでその日初めて給料を知ったのだ。『これだけ辛い仕事をして17万しか貰えないなんて…』そんな思いだった。毎日遊びまわって月数百万稼いでいたのが、滝のような汗を流して月17万、正直やる気が一気になくなっていた。

当然給料日の日でもあってその日も先輩と飲みに行く約束をした。ちょっと寄る所があるからと言っていつもより遅い待ち合わせだった。合流すると車に行こうと言われ先輩の車に乗り込んだ。「良いもの仕入れてきたからよ」先輩が笑いながら言う。手元を見ると見覚えのあるものがあった。『マリファナ』だった。「やったことある?」と聞かれたので曖昧に「少しだけ」と答えた。「給料安いからあんまり買えないんだよね~」と笑いながら言う。正直やっていいのか判断に迷った。散々辛い思いをしてやっと薬を抜いたのにまた薬物にのめりこんでしまうのではないかと不安になった。そんな事を考えているとは知らずに草をジョイントペーパーで器用に巻いていく先輩。悪魔の誘惑を私は断り切れなかった。せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまう事が嫌だったし、薬が好きな自分がよみがえってきたような感じがした。

久しぶりに吸うマリファナは最高だった。良い感じになったところで居酒屋に行って酒を飲む。格別だった。アルコールが入った私は歯止めが効かなくなっていた。「金なら多少あるんでもっと引きましょうよ」私は言った。先輩は喜んで「明日買いに行こうぜ」と嬉しそうに言った。仕事にも嫌気がさしていた私には自分を止めることが出来なかった。

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