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第五十二話 続かない仕事

次の日私は仕事を休んでしまった。久しぶりにマリファナを吸ったのもあったし、仕事が嫌になったのもあった。夕方になると先輩が家まで来てくれた。当時はポケベルが主流だったので連絡をするのもなかなか大変だった時代である。「どうしたの?」と聞かれたので、適当に「二日酔いで」と誤魔化した。「今日行くだろ?」「行きますよ」そんな会話をした。先輩の車に乗り込み先輩の家に向かった。シャワーを浴びて着替えるのを待ってまた車に乗り込んだ。「草引きに行こ~」先輩はノリノリだった。数日は持つくらいの量を買っていつものように居酒屋、キャバクラと梯子していく。草も吸いながらなのでテンションも上がっていた。

私はその後も仕事に行かなくなってしまった。もう辞めようと決めていたが、姉になんて説明するかを悩んでいた。そんな事を考えていたら、姉が私の家まで来た。「仕事行ってないんだって」「どうしたの?」矢継ぎ早に聞いてくる姉に「給料が安くて…」と正直言った。すると「そんなの当たり前でしょ」「働くっていうのは大変なんだよ」と正論を言われ返す言葉もなかった。「紹介してもらったのに悪いんだけど違う会社探すから」と言うと、姉も何を言っても駄目だと思ったのか帰って行った。

そんな訳で仕事探しもそこそこに毎日遊びまわり、先輩の知り合いの売人からコカインも引けるようになっていた。マリファナ、コカイン、酒、女と前の生活に戻ってしまった事にあまり気がついていなかった。

ある日久しぶりに彼女が遊びに来た。家に入ってくるなり彼女が怒り出した。テーブルの上に置いていたパケを見たからだった。「あんなに頑張って抜いたのにまたやってるなんて信じられない」「もう付き合いきれない」と言って彼女は出て行ってしまった。その時初めて自分が抜け出したかった生活に戻ってしまっていることに気がついたが、そこからどう抜け出せばいいかが分からなくなってしまっていた。彼女とはその日以来会う事はなかった。

それからも先輩との遊びは変わらず続いていた。金も段々と減ってきて流石に仕事をしないわけにはいかなくなってきた。求人誌を買い給料の良さそうな所を選んで電話をする。学歴など関係なく給料が良い所はほとんどが現場作業の職人だった。面接をすると大体のところは採用された。しかし毎日薬をやって夜遅くまで飲み歩いたり、仕事がきついのもあって2~3日で辞めてしまう。そんなことが何度も何度も続いていた。

金はどんどん減っていくが遊ぶのを止めることは出来なかった。いよいよ生活費もままならなくなってきて、日雇いのバイトで何とか生活する日々が続いた。日給で8000円を貰い5000円分のマリファナを買い3000円で居酒屋で飲む。こんな生活を続けていたら家賃も光熱費も払えなくなるのは時間の問題だった。働かなくて稼げる方法はないかと本気で考え出していた。

ある日、キャバクラに行く金も風俗に行く金もないのでナンパをすることにした。ナンパに成功して居酒屋かカラオケ店に入る。少し酔わせてからバックから財布を抜き取り逃げる。やってみると意外と成功した。当時は防犯カメラなども今ほど設置されていなかった。金を盗ったら違う駅まで行きそこで遊ぶ。金が無くなったら盗る。

やっていることは以前よりたちが悪くなっていた。幸い捕まったことはなかったため、何度もそれを繰り返してしまったのだ。ただ最初はスリルを楽しんでいた先輩だったがやりすぎていると感じて盗みは止めようと言うようになってきた。「とにかくどんな仕事でもいいからちゃんと働いてあそぼうぜ」と言われてしまった。

そう言われるとまた仕事を探さなくてはならなくなった。何気なく求人誌をめくると日給15000以上というのが目に飛び込んできた。未経験で15だったらかなり良いんじゃないかと早速電話して面接に向かった。それも職人なのだが積水ハウスの下請けの会社から仕事を貰っていて慣れてくればもっと稼げるとのことだった。面接をしてくれた社長は脱サラして今の仕事を始めるから何としても人をそろえなくてはと思っているようだった。元職人じゃない社長の下で頑張れば良い事があるんじゃないかと思った。「明日初めていく現場があるんだけど来れるかな」「作業着は朝買ってあげるから」絶対採用するという強いオーラを感じた。知識は勉強したが職人として現場に立つのが初めての社長。働くなら一番いい環境だと思い「よろしくお願いします」といった。クルマの無い私は社長が毎朝迎えに来てくれるらしい。本当に条件面も環境もいいこの職場なら続くかもしれないと思った。

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