住友商事で学んだ3つのこと

住友商事を去ってから、そろそろ9ヶ月が経ちます。

この9ヶ月間、ベンチャーという全く毛色の異なる場所で働いてみて、「あ、こんなことも住友商事で学んでたんだ」と思うことも多く、今回はそのうちの代表的な3点について綴ってみたいと思います。

(なお、これは「商社マンがみんなそう」と言ってるわけでも、商社礼賛でもありません。「あくまで僕が学んだこと」の列挙ですので、悪しからず)

その1.「伝わることが当たり前」だと思わないマインド

びっくりするほどズレまくる理解

いきなり抽象的な話かい、と思った方がおられるかと思いますが、でも今この重要性を強く感じています。

私は住商在籍中に約30カ国に出張し、ブラジルに2年、最後はウクライナに3年駐在しました。営業をやっていた7年間の大半は、海外の方と仕事をしていました。

その間、本当にコミュニケーションの「ズレ」が起きまくるんですよね。最初は自分の英語力の問題かと思いましたが、どうやらそうではない。「認知・価値観」の問題でした。

つまり、英単語一つ、英文一文に対する「解釈」が違う。as soon as possibleは一つの典型例として良く挙げられますが、これを読んで「急がなきゃ!」と思うのは日本人とドイツ人くらいですかね、感覚的に。ウクライナの方も結構急いでくれました。

でも多くの人たちは「可能な中で、急いでるよ」という感じで、全然急いでくれません。instantlyとかでもダメな時は「right now!」ですかね笑

海外事業をやっている前半時代は、この「ズレ」にかなり苦しみました。

「ズレる前提」で話すと、全てが変わる

ですが、ある日ふと気付いたのです。「ズレるの当たり前やん」と。家族でも分かり合えないことが沢山あるのに、仕事で一緒になる人なんてDNAも人生も全然違うんだから、「ズレないわけがない」と。

それからは、話しながら、メールを書きながら、物凄い想像するようになりました。「この表現は、相手はこう受け取るんじゃないか」と。

想像力を活かして出来るだけ紛れのない伝え方をしつつも、更にその先を想像し、先回りする。「これってこう理解してる?」と相手に確認をすると、「え、違うよ」と返ってくる。

そうすると手戻りが無くなって、一気にお互いの生産性が上がる。これは革命でした。同じ手法を日本人、そして社内でやっても大きな効果がありました。

他者に寛容になり、人生が楽になる。

周りを見渡してみてください。「なんであの人は言ったことが伝わらないかなー」と文句を言っている人、いませんか?乃至は、思ったことありませんか?

でも「ズレるのが当たり前」と思っていると、ストレスが一気に減るんですよね。逆に「それでもそこをそう取るんかい!」とツッコミに変わる。

そして、そこから最速のリスタートが切れる。生産性も上がるし、人生も楽になる。このマインドセットが築けたのは、間違いなく住商が与えてくれた「環境」によるもので、私一人では間違いなく身に付けられませんでした。

その2.メタ認知による精神的安定性

「自分」が傷ついてしまった海外PMI

過去のnoteでも何度か書きましたが、自身で海外M&Aを2回実行し、その2回とも現地に乗り込んでPMI(Post Merger Integration)をやりました。

それぞれブラジル500人、ウクライナ300人の会社で日本人がPMIをやるのは、まあ上手くいかない。

自分の未熟さも相俟って、現場では自分の意見が幾度となく否定され、振り返れば社内からも叩かれ、その度に自分自身も傷ついていました

そんな時、当時の上司から電話で「とにかくこれを身につけろ」と言われ、「メタ認知」の解説を受けました。それがその時の自分にピッタリとはまり、いきなり翌日から実行でき、それ以降は自分自身が傷つくことは滅多に無くなりました。

メタ認知の個人的解釈

メタ認知の解説は色んなところにあるのでそこに譲るとして、僕は「マリオカートをドライバー目線ではなく、実況目線でプレイ出来るか」と表現しています。

つまり「マリオ=自分の意見」が走っていて、その「意見」に赤甲羅がぶつけられようと、レインボーロードから落とされようと、自分は俯瞰して見ている側だから、何も起こらない。

でもドライバー目線でいると、赤甲羅がぶつかったらマジで腹立つ。

つまり、皆さんの周りにいる「やたらメンタル強い奴」は、メンタルが強いんじゃなくて、そもそもダメージを食らってない。HPが高いのではなく、回避力が高いのではないでしょうか。

また、何かをチャレンジするときは、必ず軋轢が生まれます。転職も起業も、なんでもそうでしょう。でもメタ認知が出来ていると、リスクリターンの分母が下がるのでチャレンジもしやすくなる。そういう効果もあるように思います。

いずれにしても、あの八方塞がりの環境と当時の上司がいなかったら身につけられなかったアプローチであり、本当に感謝しています。

その3.あれもこれも、ある程度分かる

求められる広範な知識

就活時に「商社マンは究極のジェネラリストだ」的な表現を聞いていましたが、意外とそうだったんなと思います。「究極」とまではいかないまでも、「なかなかの」くらいは言えるのではないでしょうか。

例えば、営業職だとしても「営業」に関わることだけやっていればいいのではなく、そこに関わることの多くについて学び、専門家と対等に話せるようになることを求められます。

アカウンティングとファイナンスは当たり前として、それに加えて税務、法務、データ分析などなど。法務は、法律知識があるというだけではなく、自分で契約書をある程度書けることが求められます。和文だけじゃなく、英文も。(そうじゃないと、弁護士費用がトンデモないことに。。)

また、アカウンティングも「仕訳分かる!」とかじゃなく、自分が英語で監査法人と交渉出来るレベルに到達しないといけないので、簿記の試験がどうこうというレベルではありません。

冗談抜きで、世の中のビジネスマンは全員そうやって仕事をしてきているのだと思っていたのですが、そうではなかった、ということを最近知りました。

好奇心さえあれば、なんでも教えてもらえる

でも、どの会社でもそれらの業務はどこかにあるはずです。「なんで商社にいるとそういう知識が身に付くのですか?」と先日聞かれて、いろいろ考えた所、結論は以下の通りになりました。

①聞きに行くと、マジでなんでも教えてもらえる
②ビジネスと事業会社が多すぎて、担当でマネージしないといけないことが多い

住商のコーポレートの人たちは聞きにいくと何でも教えてくれました。風通しがいい会社だったかと言われると「?」ですが(笑)、風が流れてなくても聞きに行けば、幾らでも教えてくれました。

理由は分かりません。そういう人が少なかったのでしょうか。でも、時間を見つけて勉強しても分からない事があるんだから、聞きに行くしかない。

彼らは本当に良く勉強しているので、こっちの悩みは大抵すぐ解決しますし、そうでなくても調べてくれます。最高のOJTでした。

若手が見ないと回らない数の事業数と会社数

総合商社はバカみたいにビジネスの数と会社数があるので、小さいものはもう若手で処理するしかありません。

以下のnoteにも書きましたが、私は積極的に「鶏口牛後」に走ったので、大抵のことを任せて貰えましたが、そうするとその頃から全部分かる必要があります。

「ちょっと税効果会計はよく分かりません。。」とか「Rep/Wara・・・はじめましてです」とか言ってる場合じゃなく、強制的に自分やるしかなくなります。

でも分からないから、聞きにいく。教えてもらえる。そのサイクルがとても機能していたな、と思います。

ただ、これは「部署」にかなり寄るので、そこは配属ガチャというか、自分の面接・面談時のアプローチ次第で大きく変わると思います。

住商に入って良かった

僕が退職エントリnoteを書いたら、揶揄、賞賛、中傷、心配、、、多様かつ大量の反応をいただきました。まさか自分のまとめサイトができる出来るとは思ってませんでした笑(これの他に、もう一つあります笑)。

何度読んでも僕は「50:50」、公平に書いたと思っていますが、そこは読み手にバイアスがあるので仕方ないですね。

でも、在籍時も退職時も今も、「住友商事に新卒で入社したこと」は全く後悔していませんし、当時の自分の過ごし方にも後悔はありません。

当時得ていたものが思っていたよりも大きかったことが、離れてみて分かるのはとても嬉しいことですし、就活相談を受けたら、これまで以上に自信を持って勧められそうです。

では、また次週。

細田 薫

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