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【M&A】「大企業の社員=買収先の経営が出来る」という妄想(解決編:組織論)

前回は「大企業では経営者としての資質は育ちづらいのに、そういった社員を経営者に据えてしまうことで失敗が起きる」ということを述べました。

前回要約は以下の通りです。本文はこちらからどうぞ。

・経営者に必要な資質の中で特に重要なのは「決断する勇気」と「柔軟性」
・大企業には優秀な人が入ってくるが、それはその人の成果を担保しない
・逆に、大企業では上記二つの資質は育ちづらい
・しかし、買収先に「資質を十分に有していない」経営者を出す
・「社長」はまだしも、「グループ内社外取締役」として機能することはほぼ不可能であり、そういう人の存在が買収案件を破壊し得る
・非効率・不活性な取締役会が買収案件の成長を妨げ、失敗に導く

今回は「では、どうするべきか」を「組織論」の観点から提示していきたいと思います。


解決策① 組織をフラット化し、とにかく権限委譲する

決断を求められるのは何も経営やM&Aだけに限りません。どんな業務だろうと、必ず発生する事象です。しかし、大企業で高いピラミッドを築き上げてしまうと、ついつい決裁権限も同時に上昇し、「ピラミッドの下半分では何も決められない」状態になりがちです。

そうなると、20代・30代という一番吸収力のある時期に経験出来る「決断の絶対数」が少なくなり、必然的に「決断する勇気」が付きません。

上司の成すべきことは「部下に任せ、導き、結果に責任を取ること」。きっとみんな頭で分かっているのです。しかし、人間が集まれば集まるほど、「権限=存在意義」となり、手放せなくなります。結果、権限がどんどん上に昇っていく。

そういった人間の性質に逆らうのではなく、働かせないようにする。そのためにはピラミッドの高さを下げるしかありません。横に長い三角形にする。

Googleでは「最低七人の部下がいないなら組織を作らない」というルールがあるそうです(状況に応じて変えるそうですが)。そうすれば、1+7+49+353+2,501 = 2,801人で、2,801人までの組織であれば社長以下4階層でマネージ可能です。

また、フラット化されて関わる人間の数が減ると、同時に「柔軟性」が生まれます。乗組員が多い大型帆船と、乗組員が少ない小型船のどちらが小回りが利くか、をイメージしていただくと分かりやすいかと思います。

組織をフラット化させると決断する回数が増え、勇気が身につく。スピーディーに意思決定を繰り返すので、思考が柔軟になる。

ここ数年で叫ばれるようになった「組織のフラット化」は経営者を産む、
という観点でも非常に重要なことなのです。

解決策② トップダウンで心理的安全性を醸成する

心理的安全性って?

組織をフラット化させると、決断力と柔軟性が上がる準備が整います。しかし、これまで長らく決めずに生きてきた大企業社員は「精神的にカチコチ」の状態。この状態を解いて上げない限り、中々「自分で決める」ことをしてくれません。

ここで登場するキーワードが「心理的安全性」です。その定義は、

“チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態”

エイミー・C・エドモンドソン, 恐れの無い組織, 英治出版, 2021 年

つまり、「これをやったら怒られないかな。。」とか「これを言ったらバカにされないかな。。」といった恐れを抱かずに発言・行動ができる状態を指します。

学生の人がこれを読んだら、「え、社会人になってもこんな感情を抱くの?!」と思うかもしれませんが、所謂「サラリーマン」の大半が感じていることです。

というか、決裁権限だったり人事権を持たれている場合、感じる方が普通です。だって自分と違う尺度・価値観を持った人間が自分を評価する訳ですから。自分は定規で測るのに、上司は分度器を使うかもしれない。不安を感じるのが自然です。

つまり、「心理的安全性は作ろうとしなければ、絶対に生まれないもの」なのです。これが分かっていない社会人の方はまだまだ多い。

「え、なんで言ってくれなかったの!?」

という発言を耳にしますが、

「うわ、言ってもらえる環境作れてなかったのか・・・」

が先です。

どうやって心理的安全性を作るのか

これだけで一つの書籍があるくらいですから、当然ここでは書ききれません。が、幾つか手法を提案します。

ここで一番大事なのは「心理的安全性はトップが作るもの」ということ。偶然には決して生まれないし、ミドルポジションや下っ端が作ろうとしても作れません。読者の皆さんでその必要性を感じられたら、自分で実行するのではなく、トップに働き掛けてください。

① 「偉い人信号」の撤廃
星野リゾートの星野佳路氏が使っている表現ですが、「役職呼称の撤廃」「個室の撤廃」「座る順序の指定禁止」・・・といった、日々の行動で「上下関係」を意識するアイテムを一つ一つ撤廃していくことで、「心理的フラットさ」を生み出すというものです。

②会議のダイレクト予約許可
ITツールがここまで発達した今でも、秘書がいる人の予定を押さえるときに、直接予約ではなく、秘書に事前にメールで相談したりしてませんか?やめましょう。同じ社員間なのですから。会議を入れて欲しくない時間はちゃんと自分でブロックさせましょう。

③全社員の発信を許可
「何を言うかわからない」という理由で、社員の発信を妨げている会社は依然として非常に多いです。しかし、言論統制は常に独裁国家の常習手段であることからも分かるとおり、「個性・自主性を殺す」最も手っ取り早い方法です。

発信の自由と責任、これを各社員・各個人に「戻して」あげることで、「自分は信用されている」と感じてもらえます。

もしいきなり社外への発信が恐ければ、まず社内のグループウェアでの発信を活発化させましょう。それを通じて、「効果的な発信」や「発信の作法」を感じ、学んでから社外へ打ち出していければと思います。

他にも沢山の手法があります。もしご興味ある方は関連書籍を末尾に載せておりますので、ご参考まで。近い将来、心理的安全性に特化したnoteも書こうと思います。

「決断する勇気と柔軟性」を持ち合わせたら・・・?

経営の話をしているのに、ここまで一言も「経営」という単語が出てきません。そういう話を期待されて本noteを開いていただいた方は、さぞかし落胆されていることでしょう。

しかし、問題提起編の繰り返しにもなりますが、私も曲がりなりにも海外で「経営」と称されるものに関わってきて、また多くの経営者と会話を交わしてきて確信しています。

・経営ノウハウ云々以前に、決断する勇気と柔軟性がない人は経営者になれない
・そして、そういう人材が大企業からは生まれ辛い

と。

そういった人材が生まれやすくする土壌を「組織改変」「組織文化の変革」を通じて作っていかない限りは、大企業から経営人材が生まれる確率は低いままです(変異種は常にいますので、ゼロではないです)。

ですので、まずそういったお話をさせていただきました。

次回は、よりテクニカルな話として、「どういう仕組みを導入したら大企業で事業会社経営が出来るのか」という点に入っていきますので、もう一週間お待ちくださいませ。

細田 薫

<参考文献>

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