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動く、腹減る、飯を食う

今朝、ランニング仲間が開催する「朝ごはんラン」というオンラインイベントに参加した。

朝起きて好きな時間に走り、午前9時にZoomで集合。各々自宅のキッチンで朝ごはんを作り、9時10分にみんな揃って「いただきます」する、といういい感じにゆるいイベントだ。

午前7時30分にスマホのアラームで起床した私は、ぐったりしていた。低気圧と、前日の夜に食べた横浜家系ラーメン(味玉トッピング)のせいだろう。少し気分が悪く、体も重い。とはいえ、イベントのために前日から材料の買い出しや仕込みを済ませてしまった。参加しないわけにはいかない。のろのろと着替えて家を出る。とにかく体を動かして、お腹をすかせよう。最近はランニングではなく、ポールを持って4本足で歩く「ノルディックウォーキング」にすっかりハマっているので、今日もノルディックスタイルで歩くことにした。目指すは家の近所にあるやや大きめの公園だ。

外に出ると、地面はしっとりと水分を含んでいるものの、幸い雨は降っていない。ついさっき止んだのだろうか。ひんやりとした空気を鼻から大きく吸い込む。ちょっと気分が良くなってきた。ポールを握りしめ、歩き出す。4本足での歩行はまだ少しぎこちないが、肩甲骨がガンガン動いて楽しい。1歩あたりの運動量が多いせいか、歩き始めて5分もすると、背中がじっとりと汗ばんできた。

目的地の公園に着く。濡れた土の上を、ポールを使いながら走り回ってみる。楽しい。日中は幼児やスケボー少年で賑やかな公園だが、朝は人がほとんどおらず、体を動かすのに最適だ。ちょっと疲れたのでまた歩く、また走る。そんなことを30分ほど繰り返した私は、あることに気がつく。

「腹が、減った。」

横浜家系ラーメン(味玉トッピング)は、無事に消化されてどこかへいったらしい。「お腹を空かせる」という当初の目的を果たしたことに満足した私は、家路を急いだ。

家に帰ると、時刻は8時40分。私の空腹は限界に達していた。本日のメニューは、トマトとベーコンの味噌汁・玄米・卵黄の醤油漬け。味噌汁は、参加メンバーが作り方を事前にレクチャーしてくれていたもので、あとは各自で好きなものを用意するというルールだ。寝坊してイベントに参加できないことを恐れていた私は、前日の夜から具材のカットと卵黄の仕込みを済ませていた。あとは具材を炒めてだし汁で煮込み、味噌を加えるだけ。早く食べたい、フライングしてしまいたい。

ベーコンを生でむしゃむしゃ食べてしまいたい衝動をなんとか抑え、無事に9時になった。Zoomを起動すると、画面の向こうでは、調理を始めているメンバーや、すでに作り終えているメンバーもいる。このフリースタイルな感じが、心地よい。私も早速調理に取り掛かる。

小鍋に顆粒だしと水を入れ、火にかける。十分に温まったところで、カットしておいたトマトを入れる。だし汁で煮込まれているトマトを見るのは初めてだ。なんというか、縁側に佇むビキニのお姉ちゃんのような、「なぜキミがここに?感」がある。同時進行で、ベーコンを炒める。もうすぐ旬が終わってしまう新玉ねぎも追加した。これから味噌汁を作るとは思えない、イングリッシュブレックファーストなにおいがキッチンに漂う。

一抹の不安を抱きながらも、炒めた具材を鍋に入れ、味噌を溶く。塩加減をチェックするべく、味見。瞬間、私の脳に衝撃が走った。

うまい!トマトの酸味がちょっとあって、ベーコンの脂でコクが出て、最高にうまい!

早くちゃんと味わいたい、その一心で、猛スピードで玄米と卵黄の醤油漬けも器によそり、パソコンの前に持っていく。ふとモニターに映った自分の顔を見ると、「いないないばぁ」をされた赤ちゃんもびっくりの、満面の笑みだった。

全員の準備が整い、「いただきます」をする。オンラインとはいえ、大勢で集まって朝ごはんを食べることなんて滅多にない。合宿みたいで楽しい。さっそく食べようと思ったが、他のメンバーが自分の作った朝ごはんの写真を撮っているのを見て我に返り、自分も撮る。

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腕の影が映り込んで薄暗いうえに、器たちがソーシャルディスタンスを保っている。前日から慎重に扱ってきた卵黄も割れてしまった。せっかくの朝ごはんが最高に映えていないが、「早く食べたい」という思いが伝わる、良い写真だ。

さぁ、待ちに待った実食タイムだ。さっそく味噌汁をすする。やっぱりうまい。空っぽな胃に「未知の超うまい汁」が染み渡っていく。贅沢にぶつ切りにしたベーコンも頬張る。うまい。炒めたことで香ばしさがプラスされ、味噌汁なのにジューシーだ。卵黄も、ご飯に乗せて混ぜてしまえば割れていようがいまいが関係ない。一晩漬け込んだ甲斐あってか、卵黄自体によく染み込んでおり、後から醤油をかけるよりも断然うまい。何を隠そう、私は味の染みた卵が大好きなのだ。

一息ついたところで、SNSに投稿された他メンバーの写真を見てみる。ナスやアスパラなど、皆味噌汁に思い思いの具を入れて楽しんでいる。中にはサッポロ一番味噌ラーメンにトマト缶とベーコンを投入する猛者も。猛者は「トマト缶を入れすぎてトマトの味しかしない」と嘆いていた。フリースタイル。

食事が終わると、コーヒーやお茶を飲みながらの雑談タイムへと以降していく。今後のイベントや最近書いたエッセイの話、体調を崩してしまっているメンバーの話などが話題にのぼった。時刻はあっという間に10時になり、「良い一日を~」の挨拶とともに、Zoomが終了した。

新しい料理に挑戦する豊かさ、仲間と顔を合わせて朝ごはんを食べる楽しさなど、色々感じたことはあったが、何より「動く→食べる」という営みの健全さに改めて気付かされたイベントだった。

動かなくても、時間が経てば腹は減る。腹が減っていれば、どんなご飯もそれなりにおいしい。しかし、「運動後の空腹状態で、はやる気持ちを抑えながら食べる飯」のおいしさには敵わない。

体を目一杯動かしてお腹が減り、おいしいご飯で空腹を満たす。その一連の動作で得られるものは、味覚による刹那的な幸福感だけではない。「動いたら腹が減る」という、当たり前なことを当たり前にやれる、己の健康な心身に感謝できるのである。

そんなことを考えながら、おかわりのごはんと味噌汁をよそる。動いて、食べて、私は私のやり方で自分の居場所を守るのだ。

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