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【自作小説】カンガルージャーキー

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自作小説。子供と大人の狭間にいる男女3人の青春小説です。少し前に書いたので、設定は古いのですが、お許しを。 答えがあるものがすべてではないのだ、という現実を初めて目の当たりにした…
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#学生

「カンガルージャーキー」ep.5

「カンガルージャーキー」ep.5

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「意外だね。タバコ吸わなそうな雰囲気なのに。」
 

 そう声を掛けて来た時の彼の顔を、私は今でも忘れない。大学一年の、十月の中頃だった。その日は雨が降っていたのもあって、冬の始まりを痛感するほど冷え込んでいた。タバコを持つ右手が冷め切っていたのを覚えている。
 彼はげっそりとしていた。なのに、口元はニヤついて、目はやけに鋭かった。可笑しな男にナンパされたと、ついつい吹き出した。
「あれ

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「カンガルージャーキー」ep.4

 夏休みも終盤に差し掛かった九月、その日は前日から雨がしとしとと降り続け、気持ちも沈んでしまうほどだった。

 俺は前日の交通整備のバイトで雨の中一日外に立ちっぱなしだったからか、せっかくの休みも風邪をこじらせて家で過ごしていた。溜まった洗濯物も洗えず、カップラーメンを食べてテレビを何となく付けてはだらだらと過ごしていた。
 

三時ごろに玄関が開き、朝からカフェのバイトに出ていた真司が帰って

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「カンガルージャーキー」ep.3

「カンガルージャーキー」ep.3

 学校の授業が本格的に始まり、思っていたよりも意外に授業を受けなくてはいけないことに驚いた。大学生というのは一日に3コマくらいの授業で、あとはダラダラと過ごすものだと思っていた。

「よっ。」
 飲み会の翌日に喫煙所に向かうと、真司も喫煙所にいて、俺の姿を見かけると何の躊躇いもなく声を掛けて来た。それからと言うもの、俺は喫煙所に行く度に真司の姿を少なからず意識して探した。
授業の合間に喫煙所

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「カンガルージャーキー」ep.2

「カンガルージャーキー」ep.2

浪人時代を乗り越えてやっとの思いで入学した大学は、ドラマの舞台になるほど厳かな佇まいだった。東京にありながらも伝統的な雰囲気を醸し出すその校舎は、高校生の頃テレビを通して勝手に想像していたキャンパスライフを演出するには最高の舞台だと感じた。

入学式二週間前、長野の実家から上京した部屋には、少しずつ家電が届き始めた。実家から持ち込んだ慣れたベッド以外、部屋には自分以外にも「新顔」と主張する

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「カンガルージャーキー」 ep.1

「カンガルージャーキー」 ep.1

 周りを見渡すと、そこはまるで迷路のように道が入り組んでいた。ただただすべてが白く、俺は諦めたように立ち尽くしている。
 ふと人の気配がして振り返ると、そこには白い壁があるだけで、誰の姿もない。前を向き直すと、誰かが背中に手を置いた。あたたかく、随分と心地がよくて、俺はその迷路の出口を探すことを諦めたようにゆっくりと目を瞑った。

「お前、またこんな所で寝てたのかよ。」
 わき腹を軽く蹴られ、最悪

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