言うことを聞かない部下にコーチングで接してみた
僕は複数の会社でPLや管理職を経験しているので、すでに何回か部下の入れ替わりを経験している。
部下は当然ながら人間なので、同じ人は二人としていないし、みんなそれぞれにタイプが違う。
それでも、部下のタイプを大きく二つに分けるなら、上司の言うことを素直に聞くタイプと、聞き入れないタイプに分けることになると思う。
もちろん、「上司の言うことは絶対に聞け!」などというつもりはないが、他者からのフィードバックを受け入れない部下は成長させようがない。
僕のかつての部下、Uさんも上司の言うことを聞き入れないタイプの人だった。
スキルは高いし後輩の面倒見もいいのだが、ポリシーがあるのか仕事の進め方にこだわりが強く、口出しされるのを極端に嫌っていた。
口出しされるのを避けるため、報連相すらロクにしない有様だった。
Uさんの前の上司は、そんな態度を何度となく注意し、時には怒りをあらわにしたこともあったようなのだが、それでもUさんは変わらなかった。
僕は怒ることが好きではないし、同じことをしても意味がないと思ったので、名著「一兆ドルコーチ」を参考に、コーチングで接することにした。
特定を避けるのため一部フェイクも入れさせてもらうが、言うことを聞かない部下に、僕が上司としてどうコーチングで変化を促したか、話していきたいと思う。
Uさんの困った言動
ある日の僕とUさんの会話はこんな感じだ。
僕「Uさん、案件Aの進捗どう?」
U「特に問題ないです」
僕「案件Aは1か月後にリリースだけど、検証は進んでる?」
U「はい、進んでます」
僕「検証が終わるのは来週末ぐらい?」
U「そんな感じですね」
本人としては一応回答しているつもりなのかもしれないが、状況説明がないまま「問題ない」としか言われないので、僕としては常に「本当かよ」という気持ちだった。
本当に問題なければまだいいのだが、実際には依頼元から問い合わせが大量に来ていて、Uさんは別件対応もあってそれをさばき切れていなかった。
返答がないことにしびれを切らした依頼元から、「どうなってるんだ?」と僕のところにクレームが来る始末だった。
急いでUさんに確認するも、「後で回答しておきます」という返事で全く回答しようとしない。
それならせめて依頼元を無視するようなことはせず、「確認の上、後日回答します」とだけでも返事するように言っても聞き入れなかった。
一事が万事そんな調子なのでUさんは悪い意味で目立ってしまい、僕の上司やさらにその上の上司にまで直々に注意を受けることになったが、それでもUさんは変わらなかった。
コーチングで接してみた
Uさんの困った行動はそれだけではなかった。
Uさんは日報もロクに書かないし、毎月の進捗報告会での発表すら渋る始末だった。
今思えば、自分の仕事に関する情報を周囲に見せることで、何か口出しされることを恐れていたのかもしれない。
ただ、Uさんの行動を変えるならここだ!と僕は思った。
仕事の進め方そのものに口を出すと頑なになってしまうので、最初は進捗報告会に取り組む姿勢から変えてもらうぐらいが丁度いいのだ。
進捗報告会でどんな話をするかについて、本人に「発表内容を決めてください」とボールを投げると、「発表できるようなことがありません」というのがいつものパターンだったので、僕はここでコーチングで接ししてみることにした。
1対1の話し合いの中で質問を繰り返して、Uさんの思考を整理してもらうのだ。
僕「今月の進捗報告会だけど、どの案件の話をする?」
U「これと言ってないですね・・・」
ここでめげてはいけない。すかさず次の質問に移る。
僕「では、ここ1か月で一番時間を割いた案件はどれ?」
U「案件Aですかね。」
僕「何の作業に時間がかかった?」
U「検証の準備ですかね。」
僕「検証そのものより、準備のほうが時間かかった?」
U「はい、これまでと違うやり方なので調査が必要でした。」
いい流れだ。ここでとっておきの質問を繰り出す。
僕「調査で分かったことで、後輩達に共有したい知識はある?」
U「はい、効率的な検証の方法が分かりました。」
僕「では、今月の進捗報告会ではその話をしてください。」
U「分かりました。」
コーチングの効果はてきめんだった。
毎月あれだけ苦戦していた進捗報告会の内容決めが、ものの数分で終わったのだ。
気をよくした僕は、「Uさんが頑張って対応している仕事の中には、後輩の参考になる知識が必ずあるよ」と付け加えて、話し合いを終わった。
Uさんは変わったのか?
結論から言うと、Uさんは変わらなかった。
正確に言えば、大きくは変わらなかった、というべきだろう。
もちろん、先述の話し合いをきっかけとして、進捗報告会の内容は以前よりも苦労せず決められるようになったし、日報も以前よりはしっかり目に書いてくれるようにはなった。
ただ、問題の根本である「仕事に口出しされるのを嫌がる」という姿勢は変わることがなかった。
Uさんの経歴であれば、次期管理職候補に名前が挙がってもおかしくなかったのだが、相変わらず報連相すら嫌がるのでそうはならなかった。
先述の名著「一兆ドルコーチ」にも登場する「馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない」という言葉が重くのしかかる。
Uさんに変わってほしいと願う人は僕だけではなく、実に多くの人が働きかけたが、とうとう実を結ばなかった。
しかし、それもある意味当然のことなのかもしれないと思う。
中堅以上の社員なら、これまでの人生の中で自分の仕事のスタイルを確立しているのは当たり前だし、それを簡単に変えられると考える方がおこがましいのだ。
ほんの少しでも変えられたなら、御の字ではないだろうか。
それに、大きく変えられなかったからと言って、無意味だとは僕は思わない。
今Uさんがどうしているか、僕にはわからないが、きっと今も「Uさんに変わってほしい」と思っている人がいることだろう。
そして何度も働きかけていることだろう。
その繰り返しが人を少しずつ変えていくと、僕は信じている。
僕たちの試みもきっと無駄にはならない。
だから、どんなに言うことを聞かない人が部下に来ても、諦めずに成長を促すことが管理職の使命だと僕は思う。
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