私たちは質を理解して物を購入していない?
私たち畳屋は、お客様から見積り依頼をいただくと、お客様の家に行って、畳の状態を確かめる。裏返しでいければ裏返し。表替えでいければ表替え。床がボコボコであれば新畳。私たちが目で見て判断して、お客様の予算に合わせた提案をする。
お客様は言う。「サンプルを見せてほしい」
私はバックから国産畳表と中国産畳表のサンプルを取り出す。お客様はサンプルを手にして、畳表の感触を確かめたり、畳の香りを嗅いだり、擦ったりと畳の質感を確かめる。
数分確かめた後、お客様はサンプルを床に置いて私に言う。
「国産と中国、何が違うの?」
これは畳屋あるあるの話だ。中国産畳表と国産畳表の違いが難しく、どっちが良い畳表なのかわからないというお客様は多い。
確かに以前よりは、中国産畳表の品質が向上したことにより、国産と見分けるのが難しくなったのは事実である。中国産にも艶はあるし、色ムラも少ない。それでも国産畳表に使われているイグサ一本一本の艶には到底及ばないし、中国産畳表とは比べ物にならないほど色ムラもない。
何が違うのか?いや、見たらわかる。
誤解してほしくないのだが、私は何も畳の違いがわからないお客様を責めたいわけではない。私だってスーパーで野菜を購入する時、新鮮な野菜の見分け方がわからなくて怒られることがよくある。
普段スーパーで買い物をしている方からすれば、見分け方なんてあたりまえの知識かもしれないが、見慣れない人からすれば、野菜の良し悪しなんてわからわけもない。
それは畳とて同じで、普段畳に意識を向けて生活している人なんかいるわけもないのだから、畳の違いがわからないのは別におかしなことではない。
ただ、私は思う。私たちは本当に質を理解して物を購入しているのだろうかと。
畳の話には続きがある。
お客様は結局、私のおすすめした畳を選んだ。予算内に収まったというのも理由のひとつだが、プロがおすすめしたからそれを選んだ。つまり、お客様は質を理解して選んだのではなく、私がおすすめしたから選んだのだ。
これは畳に限った話ではない。音楽にしても、絵画にしても、小説にしてもプロや尊敬する人がおすすめするから聞くし、見るし、買うのだ。
私を含めて多くの人は、質を理解して高評価するのではなく、プロが高評価しているものを高評価する。プロが選ぶものを選ぶ。
自分の目で見て判断できる人はこの世界に少数で、ほとんどの人はプロによって選ばされているのかもしれない。
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