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『君と明日の約束を』 連載小説 第五十四話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします!
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
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 ほっとした表情で頷いた後、彼女はとってつけたように饒舌になった。本当に、とってつけたように。

「昨日の夜頑張って書いてたら、ちょっと体調崩しちゃって、別にそれだけだよ。集中力が裏目に出ちゃったかなー。なんかフラッとなって。でも疲れ溜まってただけだから大丈夫。大したことない」
「大したことないって……」
「本当に大丈夫だって。根詰めすぎちゃったかなー」

 腕に点滴の針を刺しながら笑う彼女のそのわざとらしいその口調が大事なことを隠しているように聞こえて、不安が掻き立てられる。実際そうなのだろう。経験したことのある感覚だった。

「だから心配してくれてありがとう。別状なかったらしいし、明後日には退院できるって」

 ごめんね、心配させちゃって、と軽く謝る彼女と目を合わせる。
 その不自然な軽さが、気に入らなかった。

「日織」

 予想以上にドスの効いた声が自分の口から出た。彼女も驚いた顔をする。
 僕自身、あまり感情を表に出すタイプではない。だからこの時、自分でも気づかないうちに苛立ちがうずうずと溜まっていたのだろう。

「なに? そんな怖い顔して……大丈夫だよ?」

 どうしても彼女に父親の姿が重なる。

「手術ってなんだよ」

 実際、質問の裏に、さっきの言葉は聞き間違いなのかもしれない、そんな期待がなかったと言ったら嘘になる。そんな期待めいた思いは的外れでしかないということに気付かされるのに、彼女の言葉は何も必要なかった。

 訊いた途端、へらへらと微笑みを浮かべていた彼女の顔が一瞬にして強張るのが見えた。

「……聞いてたんだ」
「ちょうど来た時に聞こえたんだ」

 彼女は口をつぐんだまま僕を見据えている。

「……」
「ちゃんと話して」

 彼女は僕と合わせた目をそらし、言わずにこの場をやり過ごすことは不可能だとも思ったのだろう、諦めたように深く息衝いた。

「私、病気なの」

 彼女はそれまで隠していたことを全て話し始めた。

ーー第五十五話につづく

【2019年】恋愛小説、青春小説
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