『君と明日の約束を』 連載小説 第六十四話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
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「ひゃっ」
中から小さな悲鳴が聞こえた。驚き、見ると、声を出したのは振り返った日織だった。
怯えた顔で僕を見る彼女が、少し華奢に見えたのは気のせいではないだろう。
彼女は僕を見ながら焦ったように左手で印刷機を操作していた。繋いでいるパソコンは彼女がいつも使っているものだ。
「これ、終わったから」
そう言って机の上に置いてある紙の束を指差す。見ると、保護者面談で使われそうな資料だろう。見ている間に彼女は印刷機のコンセントを抜き、パソコンと鞄を持って僕の隣を通り過ぎていった。
「あ……」
何も話させてはくれなかった。
彼女が逃げるように出ていった後の部室で、僕は暗い海のような静けさに包まれて立ち尽くしていた。
職員室に印刷したプリントを出し、帰宅してからも、心の中に引っかかったしこりは消えてくれなかった。
日織が入院するのは明日からだった。
僕はなんとなく慎一に連絡し、家に泊まらせてもらうことになった。
僕が前回慎一の家に泊まったのは、中学生の時だったから、迷惑をかけることが気になったが、華さんは快く受け入れてくれた。
むしろ慎一の方が意外そうな顔をしていたくらいだ。
家で寝る支度を済ませてから慎一の家に行く。
先に慎一の家に行っていた僕の母は、慎一の家のリビングで華さんと楽しそうに話し込んでいた。明日は仕事がないから、朝まで呑み明かすつもりらしい。
僕が泊まりに来たときは、慎一のベッドの横に布団を敷いて横になる。
「な、ミツ明日バイトある?」
箪笥から出した布団を広げていたら、慎一がスマホを見ながら申し訳なさそうに言った。
「ないけど、何で」
「七三のミスで原本に間違いがあったんだって」
「え?」
「で、明日もし時間あるなら来て欲しいって。今日の明日だから、強制じゃないらしいけど。田内も散々文句言ってた。ひどいよなー」
「確かに」
言いながら、自分は何もしていないから同調する資格があるのだろうか、と考えた。
慎一は明日もテストだろうから、行けない。それで申し訳なさそうにしているのだろう。もし明日自分が行かなければ、日織の努力が無駄になる気がして、頷く。
「まあ、わかったよ」
ーー第六十五話につづく
【2019】恋愛小説
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