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『君と明日の約束を』 連載小説 第四十八話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いています。
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毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓
「これか、言ってたのって」
「そう、これ。すごいよね」
「たしかに。すごいな」
その時、彼女がカップに手に伸ばそうとして手が空を切った。二、三度空中で左右に動かしてから「あれ?」と言いながら顔を上げる。
「あ、ここか」
カップを見つけた彼女の視線が上がり、僕たちと目が合うと、真剣な表情がすっと不思議そうな眼差しに変わっていく。
「どうしたの? あ、もう食べ終わった?」
「集中力すごいね」
慎一が椅子に座りながら言う。
「迷惑かけることも多いけどね」
「日織はさ、なんでそんなに集中できるの?」
僕は流れで訊く。
彼女はしばらく考えた後、
「時間がないからかな。私たちには時間がないんだよ。えっと……ほら、もうすぐ面談もあるでしょ」
「それは、そうだけど」
進路を考えているうちに時間がどんどん経ってしまって、気づけば決める時が来てしまっている。高二になった今だと、その感覚はもう分かっている。だから彼女が言わんとしていることはなんとなく理解できた。
「だよね?」
僕の反応にしっかり頷いてから彼女は慎一の方を見る。彼女は慎一が医学部に行くために努力をしている姿を部室で何度か見ていたからだろうか。
「そうかもな」
彼女の質問に即座に答える慎一を見て、なんとなく僕の体の奥にある空気が薄れた気がした。
「だから、私は焦ってるだけだよ」
まあ、焦ってるだけじゃ意味ないかもしれないんだけど、と少し悲しそうに彼女は目を伏せる。
「そっか」
彼女の考えは彼女の普段を見ていたら納得できるものだったし、それに正しいと思った。人生、何が起こるか分からない。お父さんだって、死ぬなんて思っていなかったのだから。
にも関わらず僕が曖昧に頷いただけで留めたのは、僕が悠久に思える時間を普段から大切にしている自信がなかったからだと言う他ない。
「それに、ミツ君が手伝ってくれるようになってからなんだかやる気出ちゃって。ありがとうね、ミツ君」
「急に何」
慎一も驚いたような微妙な表情で僕と日織の顔を交互に見つめていた。
「やめてやめて」
僕は何もしてないから。恥ずかしくなって僕は、無理矢理彼女の話を遮った。
ーー第四十九話につづく
【2019年】恋愛小説、青春小説
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