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100年続くレストランを目指して vol.2

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしていきたいと思います。
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

Vol.2 「ごきげんファーム」の荒間鶏(前編)

今回も、前回に引き続き「ごきげんファーム」の食材をご紹介したいと思います。と言っても、出会いもお店で使うまでの経緯も、前回の「卵」と全然違います。それどころか「“食材”になるのか?」からのスタートでした。

最初に断っておきますが、「荒間鶏」はネットで検索しても出てきません。理由は、勝手に僕が名付けたオリジナルだから(笑)。でも、もしかしたら前回を読んでくださった方の中には気づいた方がいらっしゃるかもしれませんね。「ごきげんファーム」で鶏卵事業を担当されている「荒間さん」にちなんで付けさせていただきました。

一般的に、採卵用の鶏は生後約5~6ヶ月くらいから産卵を始め、1~2年ほどで産卵率が下がるのだそうです。卵があまり産めなくなった鶏は廃鶏として食鳥処理場に出されます。ただ採卵用の鶏なので、食肉用の鶏に比べて肉質がとても固い。そのため、ミンチにして加工肉にしたりレトルト食品やスープの原料に利用されたり、最近ではペットフードとして利用されたりするのだそうです。

「ごきげんファーム」でも生後18ヶ月くらいになって産卵の役目を終えた鶏を廃鶏として処分に出しているというお話でした。卵を産む力が弱くなったというだけで特に害がある訳でもないのに処分するのは可哀そうだけれど、そうすることで新しいヒナを受け入れていかなければ「経営」にならない。しかし「ごきげんファーム」のように小規模な養鶏場では上記のような加工ルートには乗せることは難しく、再利用されることなく捨てられてしまう。「毎日愛情を注いできた鶏たちを、ただ処分するのではなく、何とか活かしてしてあげたい!」清潔で快適な鶏舎でのびのびと暮らしている鶏たちの様子を実際に目にし、スタッフの皆さんの鶏や卵への接し方に触れながら聞く荒間さんの言葉には、真情のもつ強さがありました。

そして何より僕がシビれたのが、荒間さんの冷凍庫!「大切に育ててきた鶏たちを少しでも食べてあげたい」と、と殺した鶏を食鳥処理場から買い戻し、自宅に持ち帰っているというだけで驚きなのに、それが「冷凍庫いっぱいに入っている」と・・・。ミンチやスープの原料にされるほど硬いお肉です。食べると言っても限界があるでしょう。そもそも廃鶏として処理場に出すのに、「ごきげんファーム」は1羽あたり100円程度支払っています。それを荒間さんが買い戻して、冷凍庫をいっぱいにしながら一人で食べている。
料理人として何とか力になりたい!と思いました。

そしてその2日後には、クレリエールの厨房で僕は荒間さんが送ってくださった「ごきげんファーム」の廃鶏と向き合っていました。「美味しく食べる方法」探しスタートです!
先ずはお肉の調理法で最も一般的な「ロースト」で食べてみました。荒間さんも「焼いて食べている」とおっしゃっていましたが、とにかく硬い!レストランの料理どころか食事として無理と思わざるを得ない硬さでした。次は「赤ワイン煮込み」を試してみました。イメージは「コック・オー・ヴァン」、硬くて食べづらい親鳥を赤ワインでじっくり煮込んで食べるフランスの伝統的な地方料理です。3つの方法で調理してみましたが、どれもダメ。赤ワイン以外で煮込んだり、油でじっくり火を通す「コンフィ」にもトライしましたが、美味しくない。圧力鍋で加熱してみると確かに肉質は柔らかくなりました。しかし、ただ柔らかいだけ。美味しいには程遠い味わいでした。

そこで、ふと思ったのです。「柔らかくすること」=「この食材を美味しくすること」なのか?と。硬いお肉は、よく噛まないと飲み込めません。よく噛むということは何度も咀嚼することなので、食べ物を口の中でしっかり味わうことになります。「ごきげんファーム」の鶏は、栄養豊富な餌を食べ、平飼いでのびのび育った鶏です。お肉自体にはしっかりした旨みがある。だったら硬さを生かして、その旨みをしっかりと味わえるようにした方が良いんじゃないか?それが、この大切に育てられた鶏の魅力を生かせる「美味しく食べる方法」なのではないか?そう考える僕の頭の中に、ある料理のイメージが浮かんでいました。

行きつきたいゴールは見えました。あとは、そこに至る道を見つけるだけです。と言っても、この時点でその「道」はまだ見えていません。考えつく限り全ての方法を片っ端から試し、うまくいかなければ消す。試しては消し、試しては消しを繰り返し、最善の道を探り上げる。それが今までの料理人人生でも貫いてきた「僕の方法」です。フランス料理の力を信じ、トライアンドエラーの日々が始まりました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

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