見出し画像

100年続くレストランを目指して vol.11

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ柴田秀之が日々考えていることを綴っているnoteです。2020年10月「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」からスタートし、「クレリエールの料理」を経て、連載第3弾は「クレリエールを今から100年続くレストランにする」をテーマに食材や生産者さんとクレリエールのお話をしています。今回は少し視点を変えた番外編をお届けします!
★過去の連載は文末にリンクがございます。ご一読いただけたら嬉しいです。

Vol.11 ミシュランガイド東京2023

『ミシュランガイド東京2023』にて、レストラン ラ クレリエールは5年連続で一つ星をいただくことができました!
これも、ご来店くださるお客様、素晴らしい食材や必要なものを用意・提供してくださる方々、そして共に日々戦ってくれているスタッフや支えてくださる関係者の方々のおかげです。心より感謝しています。

実は、僕自身は「今年は星を落とすんじゃないか」と思っていました。お料理やお店について不安や懸念があった訳ではありません。今年も、僕の思うキレッキレのお料理を、全力のおもてなしでお客様に楽しんでいただいた、という自負はありました。それでも僕にはミシュランがそれらをどう評価しているかは分からないですし、授賞式の招待状など毎年届いていたものが届かないこともあって、「もしかして?」という思いが心のどこかにありました。同業の仲間たちに、招待状が届いているか尋ねつつ、そんな思いを話したりもしました。そのたびに「あれだけの料理を作っていて落ちるはずないだろう!」と笑われましたが不安は拭いきれず、迎えた発表の日。「一つ星」を確認できた時は素直にホッとしました。
評価を落とさなかったということ以上に、応援してくださっているお客様をガッカリさせずに済んだこと、大変な中で日々頑張っているスタッフの皆の次へ進む足がかりを守ることができたことが嬉しかったです。

「ミシュランの星」は一つの結果です。僕やお店にとって目的ではありません。このnoteで何度かその辺りの想いや考えをお伝えしているので、よろしければぜひ読んでみてください。
「ミシュランガイド2021で一つ星をいただきました!」(2020年12月10日公開)
「三つ星を目指すということ」(2021年6月25日公開)

レストランにそれほど詳しくない方でも「三つ星」と聞くと何となく「すごい!」「きっと美味しいに違いない!」「食べてみたい!」と思えるほど、「ミシュランの星」は日本で認知されています。その一方で「ミシュランの星」について賛否両論あることも事実です。正直な話、僕も近頃のミシュランの発表内容を見て多少なりともモヤっとする部分はありました。
それでも、「三つ星を目指す」という僕のスタンスは変わりません。ただ、昨年・今年と敢えて積極的に厨房の外に出て、動き、人と会い、話を聞き、初めてのことに挑戦してきたことで、新たな視点を得ることができて、視界も開けました。そうして「自分がやるべきこと」がより明確になったおかげで「より注力すべきこと」が見えてきただけでなく「やらなくて良いこと」にも気づけました。

今の僕の視界の先にある目標は、「世界最高峰のレストラン」。「三つ星」は、その中の一つの要素だと考えています。「三つ星を目指す」けれど、求めるものはもっと先にあるもの。それは「自分+チームクレリエールでしか表現できない、他の誰にもコピーできないモノやコト、時間をお客様に提供し、しっかり満足いただけるレストラン」であり、それが僕の「世界最高峰のレストラン」です。
なんだか漠然としているな、と思った方もきっといらっしゃいますよね。これをどう具体化して、チームで共有し、実現していくか。ぜひ楽しみにしていてください。

さらに、もう一つ気づけたことがありました。それは「今の段階で三つ星にフォーカスすることは現実的ではない」ということ。僕は「三つ星を目指す」と宣言してから、三つ星と取ることをずっと考え、そのために必要と思ったことをしてきました。でも、先を見ることに注力しすぎて、足元が見られていなかった。例えば、今の店舗の構造では三つ星獲得は難しいため移転が必須と考えて移転先を探したりしていました。しかしそれより前に「この店で二つ星を取るためにやること」が山ほどあった。もちろん、一つ星から一気に三つ星を取れる訳はなく、二つ星を経ていくことは百も承知でしたが、気づかぬうちに「三つ星を取るためには今から〇〇をしておかなければ!」という発想に偏ってしまっていたのです。改めて「二つ星」に焦点を当てて考えてみると、調度品などのブラッシュアップやインテリアの見直し、サービス体制もさらに整える必要があるでしょう。お料理についても、僕とスタッフそれぞれの活かし方をもっと詰めていけば、さらなるレベルアップが図れるはずです。そして、ひと皿ひと皿をよりしっかりと作り、お客様にお届けする。

「クレリエールは“維持”で喜ぶ段階じゃないでしょう。」
僕の話を聞いて「落ちるはずがない」と笑った料理人仲間の一人に言われました。
その裏には「いつまで一つ星でいるつもり?」というメッセージがあり、それはそのまま僕自身が思っていることでもあります。料理人として、レストランとして、己の足元を見失わず、目標を見据えてやるべきことをやる。その先にあるものを確実に掴んでいきたいと思っています。
もし来年の発表で一つ星だったとして、その時は「星を落とすはずない」ではなく、「もう一つ上の星をとってないのはおかしい!」と同業者にもお客様にも言っていただけるようになっていたいですね。
「ひとつ上の星」になっていたら、もっと嬉しいですが(笑)
引き続き、全力で頑張ります!

★過去の連載はコチラからご覧ください。

最初の連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ

 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

2つ目の連載「料理集」はコチラからどうぞ

 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第六皿~第十皿)」

*******************
このnoteを初めて読んでくださった方へ
*******************
はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

お店の公式Facebook、youtubeチャンネルもご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?