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【書籍】非金銭的報酬がもたらす現代のモチベーション戦略ー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/9/17の記事に、「「カネや出世」を欲しがらない部下を動かす、2つの非金銭的報酬」が掲載されていました。

 この記事では、金銭的な報酬や地位だけでは部下を動機づけることが難しくなっている現状を指摘し、今後は非金銭的な報酬による動機付けが必要不可欠であると解説しています。特に、部下の自発性を引き出すためには、上司としての認知と承認、そして言語教示が非常に重要であると述べられています。

 金銭的報酬、地位は限界があります。一方、非金銭的な報酬は限界がなく、それを求めない社員をどのように動機づけていくか、企業全体のモチベーションを上げていく上で非常に重要と思います。考察してみたいと思います。

1. 非金銭的報酬の重要性

 金銭的報酬や地位、昇進など、いわゆる「外発的動機付け」は、依然として働く上で大切な要素ですが、現代の多くの部下や従業員にとっては、それだけでは十分ではない状況にあります。日本の多くの企業では、ある程度の金銭的欲求が満たされているため、純粋に給与や昇進だけを求めて働くという時代は終わりを迎えています。それに代わって、非金銭的報酬、すなわち「内発的動機付け」が、今後の部下を動機づける大きなカギとなるのです。

 この非金銭的報酬とは、仕事を通じて得られる喜びや満足感、自己成長の達成感などを指します。単なる金銭的な見返りではなく、働くことで得られる「お金以外のご褒美」という位置づけです。これには、上司や周囲からの承認やフィードバック、自分の意見や行動が認められていると感じられること、そして仕事そのものに対するやりがいや意義の発見が含まれます。

 特に、部下が「この会社で働き続けたい」と感じるようになるためには、外発的動機付けだけでなく、内発的な動機付けを満たす6つの視点が必要とのこと。その中でも、上司やリーダーが注目すべきは「認知と承認」「言語教示」の2つです。この2つを効果的に活用することで、部下は自己成長や仕事に対する意欲を高め、会社に対する忠誠心や満足感を感じやすくなるのです。

2. 認知と承認の役割

「認知と承認」は、部下が上司に自分の存在や貢献が認められていると感じることです。1on1ミーティングの場で、部下の話に真剣に耳を傾け、積極的にうなずいたり、フィードバックを行ったりすることで、部下は「自分は見られている」「自分の意見が尊重されている」と感じることができます。この認識こそが、部下にとって非常に重要な非金銭的報酬となります。

 例えば、部下が何か意見を述べたり、成果を出した場合に、その行動や発言に対して上司が適切なタイミングで「ありがとう」「素晴らしいアイデアだ」といった具体的なフィードバックを行うことで、部下は自分が評価されていると感じます。また、何か課題があった場合でも、1on1の場で「ここまで話をしてくれてありがとう。改善点がいくつかあるけれど、フィードバックをしてもいいかな?」といった形で、丁寧に指摘を行うことが、効果的なフィードバックとなります。

 このようにして、部下が自分の働きがきちんと認識されていると感じられることが、非金銭的報酬として働き、自らの成長に繋がる重要な要素となるのです。

3. 言語教示の重要性

 「言語教示」は、上司が部下に対して具体的な行動や改善点を言葉で示し、どのようにすればよりよい結果が得られるかを明確に教えることを指します。ただ「もっと頑張れ」や「次は期待している」といった曖昧な言葉ではなく、具体的な行動や改善点を示すことが重要です。

 例えば、「次回の会議では、この部分をもっと掘り下げて発言してみてはどうか?」といった具体的なアドバイスや、「こうした報告書の作り方があるが、これを参考にしてみては?」といった形での指導が、言語教示の典型です。これにより、部下は自分の成長に向けた具体的なステップを理解しやすくなり、自信を持って行動できるようになります。

 言語教示を行う際には、まず部下の話をよく聞き、その上で改善のためのフィードバックを行うことが重要です。そして、そのフィードバックはなるべくポジティブな形で行い、部下が受け取りやすい雰囲気を作ることが求められます。具体的で建設的なアドバイスを受けることで、部下は自分の弱点を知り、それを克服するための道筋を見つけられるようになるのです。

4. 部下が本当に求めているものとは

 昔の上司やリーダーは、部下が金銭的な報酬や地位を求めていると考えるのが一般的でした。しかし、時代は大きく変わりました。現在の多くの若い部下は、金銭的な報酬よりも、自分の存在が認められていること、自分の働きが評価されていること、そして仕事において自分が成長できる環境を求めています。

 そのため、上司やリーダーは、部下一人ひとりが何を大切にしているのかを理解し、それに応じたサポートを行う必要があります。
 例えば、育児休暇やフレックス制度を利用して、家族との時間を大切にしたいと考える部下には、積極的にその希望を尊重し、サポートする姿勢を見せることが重要です。また、仕事とプライベートのバランスを取りたいと考える部下には、柔軟な働き方を提案するなど、上司からの配慮が必要です。

5. 外発的動機付けとのバランス

 外発的動機付け、すなわち金銭的な報酬や地位、昇進といったものも、働く上では依然として重要な要素です。しかし、これらだけで部下の心を動かすことは難しくなっています。特に、現代のビジネスパーソンにとっては、内発的な動機付け、すなわち仕事を通じて得られるやりがいや満足感、自分の成長に対する期待感が大きな動機となります。

 もちろん、全ての部下が同じように内発的な動機を持っているわけではありません。中には、外発的動機付けが非常に強く、給与さえもらえればそれでいいという部下もいます。そうした部下には、無理に内発的動機付けを与えようとする必要はなく、その人の価値観に応じた接し方をすることが重要です。

 内発的、外発的動機付けについては、以下の記事も参考にしてください。

6. 新しい時代のリーダーシップとは

 上司やリーダーが時代の変化に対応し、新しい価値観に基づいて部下をサポートすることが求められます。かつての「アメとムチ」の手法や、自分の成功体験を押し付けるやり方では、部下は動かなくなっています。上司やリーダーは、今の時代に求められることを見極め、一人ひとりの部下に合ったアプローチを取ることが必要となるでしょう。

人事の視点から考えること

 この記事の内容を人事の視点からさらに深く掘り下げると、現代の組織における動機付けとリーダーシップのあり方が大きく変化している点に着目する必要があります。

 特に、金銭的な報酬や地位といった「外発的動機付け」だけでは、従業員の心を動かすことが難しい時代になっていることがわかります。

 人事部門としては、非金銭的な報酬を重視し、従業員の成長意欲や内発的な動機付けを促進するための制度設計やサポートを行うことが求められます。ここでは、3つの重要な視点から、人事が取り組むべき具体的な施策やアプローチを考察してみます。

1. 非金銭的報酬を重視した人事制度の設計と導入

 現代の従業員は、以前の世代に比べて金銭的な報酬だけでなく、仕事を通じて得られる自己成長の機会や、働く上での喜び、意義といった「内発的動機付け」を非常に重要視しています。そのため、企業の人事制度には、これらの内発的動機付けをサポートする仕組みを組み込むことが重要です。具体的には、以下のような制度を導入することが考えられます。

キャリアパスの明確化と成長支援プログラム
 
従業員が自らのキャリアパスを明確に描けるようにすることが、人事の役割として非常に重要です。キャリアパスが不透明であると、従業員は自らの成長を見通せず、モチベーションが低下する原因になります。そのため、企業内での昇進や役割変更のプロセスを明確にし、従業員が自分の将来を見据えた計画を立てられるような支援プログラムを提供することが求められます。
 例えば、定期的なキャリアカウンセリングの機会を提供し、従業員が自らの成長目標を設定し、それに向けて取り組むためのアドバイスやフィードバックを得られるような仕組みが必要です。

 また、成長支援プログラムの一環として、研修や教育プログラムの充実も重要です。技術的なスキルの向上やリーダーシップの育成、あるいは自己啓発のための学びの機会を提供することで、従業員は自己成長の可能性を感じ、働く意欲が高まります。これにより、企業内での長期的なキャリア構築が可能となり、従業員の離職防止にもつながります。

承認制度の強化とフィードバック文化の醸成
 
従業員が自分の努力や成果が上司や同僚に認められていると感じることが、内発的動機付けを高める重要な要素です。そのため、企業全体で「認知と承認」の文化を広めるために、人事は評価や承認に関する制度を整備する必要があります。例えば、定期的な表彰制度や、同僚同士が互いを評価するピアレビュー制度を導入することが考えられます。

 また、上司やリーダーからのフィードバックが従業員の成長を支援するためには、単なる評価だけでなく、具体的かつ建設的なフィードバックが不可欠です。このため、人事部門としては、リーダーやマネージャーが効果的なフィードバックを行えるように、トレーニングやワークショップを通じて支援することが重要です。従業員が何を求めているか、どのように成長したいと考えているかを理解し、それに応じたフィードバックを提供する文化を組織全体に浸透させることが、長期的な組織の成長に寄与します。

2. マネージャーのフィードバックスキル向上とサポート体制の充実

 この記事で特に強調されている「認知と承認」「言語教示」というフィードバックスキルは、マネージャーが部下に対して適切な指導や支援を行う際に非常に重要です。人事部門は、このようなスキルをマネージャーに提供し、彼らが部下を効果的に動機付けできるようにサポートする役割を果たすべきです。これには、フィードバックトレーニングの導入や、定期的な1on1ミーティングの実施を推奨することが考えられます。

フィードバックトレーニングの実施と継続的支援
 
まず取り組むべきは、マネージャーが部下に対して適切なフィードバックを行うためのトレーニングを提供することです。単なる「頑張れ」や「期待している」といった抽象的なフィードバックではなく、具体的な改善点や行動計画を示すフィードバックができるようにするための教育が必要です。例えば、フィードバックの際に「改善のための具体的な提案」を含めることや、部下が自身の課題を自覚できるように促す「質問の仕方」など、具体的なスキルを磨くためのトレーニングを実施することが効果的です。

 また、フィードバックトレーニングは一度のセッションで終わらせるのではなく、継続的に実施し、フィードバック文化が組織全体に根付くように支援することが重要です。人事部門は、フィードバックに関する定期的なワークショップやコーチングセッションを提供し、マネージャーが常に最新の方法論やベストプラクティスに触れられる環境を整えることが求められます。

定期的な1on1の導入推進と評価
 
1on1ミーティングは、上司が部下と定期的に対話を行い、仕事の進捗や課題、成長に向けたフィードバックを提供する貴重な機会です。人事部門としては、これを組織全体に浸透させるための施策を講じる必要があります。たとえば、1on1の実施をマネージャーの評価項目に組み込むことで、リーダーが積極的に1on1を行うよう奨励することが考えられます。

 また、1on1の効果を最大化するために、人事部門がその実施状況を定期的にモニタリングし、改善点をフィードバックする仕組みを整えることも重要です。1on1が単なる形式的な会話に終わることなく、部下の成長を支援するための有効な手段となるようにサポートしていくことが求められます。

3. 多様な従業員の価値観を尊重した柔軟な働き方の推進

 この記事で述べられているように、従業員一人ひとりが持つ価値観やライフスタイルは多様であり、これに対応した柔軟な働き方を提供することが、従業員の満足度やモチベーションを高めるためには不可欠です。特に、仕事とプライベートのバランスを大切にする従業員が増えている現代では、人事部門が柔軟な働き方を推進する役割を担うことが重要です。

フレックスタイム制度やリモートワークの推進
 
従業員が家庭や個人のライフイベントに応じて柔軟に働けるようにするために、フレックスタイム制度やリモートワークを導入することは、人事としての重要な施策です。これにより、従業員は自分のライフスタイルに合わせて働くことができ、働く環境への満足度が向上します。特に育児や介護を行う従業員にとっては、フレキシブルな働き方が仕事と家庭の両立を可能にし、結果として内発的動機付けが促進されると考えられます。

育児・介護休暇制度の利用促進とサポート
 
特に男性従業員の育児参加や、介護を必要とする従業員に対する支援を強化するために、育児休暇や介護休暇の利用促進を図ることも重要です。これには、育児休暇を取得しやすい環境づくりや、制度を利用する従業員に対する経済的なサポートを提供することが含まれます。また、育児や介護を行う従業員が、復職後もスムーズに職場に適応できるように、サポート体制を強化することも考慮すべきです。

まとめ

 人事部門としては、この記事で述べられているような「非金銭的報酬」に注目し、従業員の内発的動機付けを促進するための制度設計やサポート体制を強化することが重要です。従業員が自己成長を感じられるキャリアパスの提供や、マネージャーのフィードバックスキルの向上を図ることで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。また、多様な価値観に応じた柔軟な働き方の提供は、従業員の満足度とモチベーションを高めるための有効な手段となるでしょう。

 人事部門がこれらの取り組みを進めることで、組織はより強固で持続可能な成長を遂げることができるでしょう。

現代のオフィス環境で、リーダーが部下との1対1のミーティングを行っています。リーダーは具体的なフィードバックを伝え、部下が認められ、意欲を高めている様子が見て取れます。明るいオフィスの背景には、チームワークや個人の成長を強調するようなモチベーショナルなポスターも見られ、非金銭的な報酬の重要性が表現されています。このシーンは、上司の承認と具体的な言語教示によって部下のやる気が高まる状況を象徴しています。


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