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科学に残るイスラム文化の痕跡

一見、科学とイスラム文化は関係ないように思われますが、実は密接な関係があります。と言うか、イスラム文化またはイスラムの科学知識なくしては、西洋の文化や科学は発展していなかったかもしれません。

再生や復活を意味するフランス語のルネサンスは、古代のギリシアやローマの文化を復興しようとする文化運動です。ルネサンスは、14世紀にイタリアで始まり、やがてヨーロッパ全土へと広まっていきました。この時、文化だけでなく、科学的な知識も再生・復活しました。

中世ヨーロッパでは、封建社会の矛盾が深まり、多くの封建領主たちは行き詰まりを感じていました。しかし、同時期の東方のイスラム社会の国の繁栄は、目を見張るものがありました。ローマ法王は、聖地エルサレムの地をイスラム教徒から解放するためという大義名分を掲げ、十字軍を組織しました。

しかし、歴史的な事実が示す通り、十字軍は失敗に終わります。それに反して、十字軍の遠征によって利益を得た商人が台頭してきました。特に十字軍から一番利益を上げたのは、ベニスやジェノバのイタリア商人でした。このとき、イタリアの貿易は地中海全体に拡大したので、古代ギリシャ文化を受け継ぎ、インド・中国とも交流のある当時のイスラム文化がヨーロッパへ流れ込みました。

実は古代ギリシャ文化は、本家のヨーロッパでは廃れていて、このときイスラム文化圏から逆輸入されました。この逆輸入により、15~16世紀に最高潮に達したルネッサンス期には、自然科学も復活して近代科学へと発展していきます。ここでは、イスラム文化と関連が深い”アル”という定冠詞が付いた科学用語を例として示します。アル(al)は、英語でtheに相当する定冠詞です。

化学分野では、アルコール(alcohol)、アルカリ(alkali)などが挙げられます。アルコールは水酸基が付いた化学物質の総称で、代表的なものはエチルアルコール、すなわち酒の主成分です。アルカリとは、水に溶解して塩基性を示し、酸と中和する物質の総称です。

天文学分野では、アルタイルやアルデバランなどの星の名前が挙げられます。さらに、計算機科学の分野では、アルゴリズムがあります。実は、アルゴリズムの由来は、アル=フワーリズミーという人名です。また数学分野では、数学の根幹をなす数字がアラビアから商人経由で入ってきました。これがいわゆるアラビア数字です。アラビア数字はインドが発祥ですが、アラビア経由でヨーロッパへ伝わりました。

タイトル画のアルハンブラ宮殿↑↑は、スペインのグラナダ市南東の丘の上に位置する城塞・宮殿です。アルハンブラは、アラビア語の”赤い城”が由来ですが、後半部分の”城”すなわちアル=ハマラー(the castle)が変化したものです。スペインは、レコンキスタが行なわれるまではイスラム文化の国でした。このように、建築学の分野にもイスラム文化は痕跡を残しています。

ここからは蛇足ですが、ニュースで耳にしたり新聞で目にする言葉の中にも、イスラム文化の”アル”が目を引きます。例えば、国際的なテロ組織・アルカーイダは、基地(the base)という意味です。 また、イスラム圏最大のテレビ局・アルジャジーラは、島(the island)という意味です。

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