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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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2021年6月の記事一覧

不発弾、埋めてます!!

 九州大学の伊都キャンパス内の野外実験フィールドには、不発弾を埋めています。でも安心して下さい。本物ではありません。本物そっくりに作った、模擬不発弾です。  図中の青く塗られたモノが、50キロ爆弾の模擬不発弾です。もちろん火薬や信管は入っていませんが、爆弾の材質、重さ、形状はそっくりに作っています。50キロ爆弾の他にも、2.5インチ砲弾を埋めています。これらは、磁気探査による不発弾探査の効率化の実験をするために埋設しました。現状では雑草が繁っていますので、まずは草刈りが必要

地球の大きさを測った男 エラトステネス

エラトステネス(Ερατοσθένης)は、ヘレニズム時代のエジプトで活躍したギリシャ人の学者であり、エジプトのアレクサンドリアにあったアレクサンドリア図書館の館長を務めていました。業績は文献学、地理学をはじめ多岐に渡りますが、特に数学と天文学の分野で後世に残る大きな業績を残しました。数学で有名なのは、”エラトステネスの篩”と呼ばれる素数判定の方法です。この方法は素数の一覧を得る手法として広く知られ、最古のアルゴリズムと考えられています。 またエラトステネスは、地球の大きさ

電気を食べる微生物

 人間は自ら栄養を作り出すことはできませんが、一部の生物は生命の維持に必要な栄養分を自ら合成します。しかし、栄養分を作るにはエネルギーが必要です。例えば植物は、太陽光をエネルギーとして二酸化炭素からデンプンを合成します。一方、太陽光が届かない環境には、化学合成生物と呼ばれる水素や硫黄などの化学物質のエネルギーを利用する生物が存在します。二酸化炭素から栄養分を作り出す生物は、これまで光合成か化学合成のどちらかを用いていると考えられてきました。しかし、どちらの方法も使わない微生物

ゲーテの石 Goethite

 小説『若きウェルテルの悩み』などで有名な、ドイツを代表する文豪・ゲーテには、自然科学者としての一面もありました。ゲーテは多才で、学生時代から自然科学研究に興味を持ち続け、文学活動や公務の傍らで人体解剖学、植物学、地質学、光学などの著作・研究を残しています。  ゲーテは20代半ばのころ、ワイマール公国(現ドイツ)の顧問官としてイルメナウ鉱山を視察したことから鉱山学や地質学に興味を持ったようです。ゲーテはかなり石が好きだったみたいで、ヨーロッパ各地の石を蒐集した彼の岩石コレク

物探の略語について

 物理探査学では多くの略語が使われます。例えば、タイトルにある物探(ぶったん)は物理探査の略語です。また地震探査は震探(しんたん)ですし、電気探査は電探(でんたん)と略されます。ちなみに、昔は対空レーダのことを電波探知機の略で電探と呼んでいました。  略語は日本語に限ったことではありません。物理探査の手法やキーワードの英語名は2-3文字の英字に省略されて使われています。2文字の例では、自然電位法(Self Potential method)はSP法、強制分極法(Induce

ミューオンラジオグラフィ

 宇宙空間に飛んでいる高エネルギーの放射線が、大気中に突入すると、大気中の原子や分子と衝突して、様々な粒子を発生させます。この現象は、シャワーのように見えるので、宇宙線シャワーなどとも呼ばれます。様々な粒子のうちミュー粒子は地表まで到達し、地下にまで透過します。ミュー粒子は、電子の約200倍という重さがあり、電子と同じ大きさの負の電荷を持っています。乱暴な言い方をすれば、200倍重い電子といえます。  ミュー粒子は、素粒子標準模型における第二世代の荷電レプトンで、ミューオン

キャパシタ電極を用いた比抵抗法

 従来の比抵抗法では、一対の金属棒電極を地面に刺して直流電流を流し、別の一対の金属棒電極で電位差を測定します。そして既知である電流値、測定電位差、各電極の位置関係から地盤の比抵抗分布を測定します。このとき、電流電極間のオフセット距離を大きくすると、探査できる深度が深くなります。しかし、この方法は土が露出している場所では有効ですが、アスファルトの舗装道路など電極を打ち込めないところでは使用できません。  そこで、キャパシタ電極と呼ばれる特殊な電極を使った比抵抗法が開発されまし

高温超電導

 一般に高温超伝導とは、ベドノルツとミュラーが1986年に発見したLa-Ba-Cu-O系の超伝導物質と、その後続々と発見された転移温度が液体窒素温度(−195.8 °C, 77 K)を越える一連の銅酸化物高温超伝導物質と、その超伝導現象のことを指します。この高温超伝導を示す物質のことを高温超伝導体といいます。高温超伝導における高温とは、従来の超伝導体と比較すると高温である−200〜−100°C程度の温度を意味しています。なお、ベドノルツとミュラーはこの研究業績により、1987

高温岩体発電

 通常の地熱発電は、地下から熱水・蒸気を取り出して発電を行っています。この方式は、地下に十分な水分(熱水・蒸気)が貯留されている場合には適用できるのですが、地下に高温の岩盤(高温岩体)だけがあって、水分がない場合には適用できません。  そこで、十分な熱水や蒸気がなくても地下の熱を利用して発電しようというアイデアが”高温岩体発電(Hot Dry Rock geothermal power; 略称HDR”です。仕組みは、地上から高圧の水分を送り込んで岩盤を水圧破砕し、人工的に地

未来の重力計

 光格子時計と呼ばれる世界で最も高精度の時計を東大の香取教授らの研究チームが開発しました(図)。この時計はGPSなどに使われる原子時計の数百倍の精度を持ちます。詳しい仕組みはわかりませんが、レーザ光の力で約1000個のストロンチウム原子を宙に浮かせ、振り子の代わりに利用します。  原子の持っている振動数は一定なので、この原子の振り子を使うと正確な時計が作れるそうです。同じ光格子時計を2台作って、時間のずれを比べた結果、ずれは1ヶ月あたりおよそ約1兆分の5秒で、クオーツ腕時計

困った依頼!?

 物理探査の研究をしていると、様々な共同研究や仕事以来の話がやってきます。公的または公共性があるものは問題ないのですが、時々私的な仕事依頼もあります。例えば、「その昔、うちの土地には金が出たという言い伝えがある。是非探してくれないか」とか、具体的な場所は言えませんが「○○という場所には、△△長者の埋蔵金伝説があるので探して欲しい」等です。個人的には埋蔵金には興味がありますが、依頼者の土地でもない場所を勝手に探査することはできません。  名前を言えば多くの人が知ってい某企業A

地球に『ゼロ磁場』の場所はありません

 ”ゼロ磁場”とは、”磁気のN極とS極がお互い拮抗して打ち消しあい、磁力が存在しない状態”を言うそうです。ゼロ磁場の場所は、プラスとマイナスのエネルギーの均衡がとれた”気の整った場所”と言われ、パワースポットの一種だと考えられているそうです。  パワースポットの正確な定義がわからないので、パワースポットは否定できませんが、ゼロ磁場は否定できます。一見もっともらしく聞こえますが、地球上にゼロ磁場の場所はありません。なぜなら、地球には”地磁気”と言う大きな自然の磁場が存在してい

樹氷と雲海

 九州は、火山とフェニックス(ヤシの木みたいな植物)の印象が強く、南国で雪なんか降らないと思われがちですが、内陸部では結構雪も降ります。数は減っていますが、人工スキー場も数ヶ所あります。昔、探査のアルバイトをしていた時には、4月に雪が降ったこともありました。  私が博士課程の学生の時でした。九重のある場所で、地熱探査の測定アルバイトをしていました。季節は2月で、最も寒い時期でした。流電電位法の調査でしたが、その調査を請け負った会社に流電電位法に詳しい人がいないため、測定業務