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高温岩体発電

 通常の地熱発電は、地下から熱水・蒸気を取り出して発電を行っています。この方式は、地下に十分な水分(熱水・蒸気)が貯留されている場合には適用できるのですが、地下に高温の岩盤(高温岩体)だけがあって、水分がない場合には適用できません。

 そこで、十分な熱水や蒸気がなくても地下の熱を利用して発電しようというアイデアが”高温岩体発電(Hot Dry Rock geothermal power; 略称HDR”です。仕組みは、地上から高圧の水分を送り込んで岩盤を水圧破砕し、人工的に地熱貯留層を創り出すというものです。さらに、気水分離後や発電後に発生する温水を、還元井を通じて再び地熱貯留に戻し、循環的に地下に水を溜めるシステムを作り上げるという仕組みです。高温岩体発電は、通常は深度2~5km 程度、岩盤温度200~300度程度のポイントを掘削対象としています。この人工の地熱システムが安全に、しかも経済的に利用できれば、地球の温暖化防止に役立つと共に、21世紀の日本のエネルギー問題にも寄与できます。

 電力中央研究所は、1989年に秋田県雄勝町(現・湯沢市)にHDR雄勝実験場を設置し、実用化を目指した研究を実施しました。ここで研究が実施されていたころには、私も毎年のように雄勝町を訪れて、主に電気探査(流電電位法流体流動電位法)の共同研究を実施していました。残念ながら雄勝での研究は終了し、日本国内での商業的な発電には至っていませんが、この高温岩体発電に着目した作家がいました。その人こそ、ドラマにもなった経済小説『ハゲタカ』で有名な真山 仁さんです。

 実は、この小説の主人公は、大学の先輩で電力中央研究所で高温岩体を研究していたKさんがモデルになっています。この小説は、文庫化される前に、雑誌カドカワで読みました。物語はフィクションですから、実際の話とは違いますが、高温岩体発電のことが詳細に取材されていることがよくわかりました。興味があれば、読んでみてください。下にAmazonのリンクを張っておきました。

マグマ (角川文庫)  – 2009/8/22 真山 仁 (著)
地熱発電の研究に命をかける研究者、原発廃止を提唱する政治家。様々な思惑が交錯する中、新ビジネスに成功の道はあるのか? 今まさに注目される次世代エネルギーの可能性を探る、大型経済情報小説。


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