見出し画像

樹氷と雲海

 九州は、火山とフェニックス(ヤシの木みたいな植物)の印象が強く、南国で雪なんか降らないと思われがちですが、内陸部では結構雪も降ります。数は減っていますが、人工スキー場も数ヶ所あります。昔、探査のアルバイトをしていた時には、4月に雪が降ったこともありました。

 私が博士課程の学生の時でした。九重のある場所で、地熱探査の測定アルバイトをしていました。季節は2月で、最も寒い時期でした。流電電位法の調査でしたが、その調査を請け負った会社に流電電位法に詳しい人がいないため、測定業務を任されました。この探査では記録波形を残さないといけないので、ペンレコーダを使ったアナログ測定を実施しました。

 2週間程度、現場近くの民宿に宿泊しての測定作業でした。測定を始めた頃は天候もよく、探査は順調に進んでいました。しかし、何日目かの午後から天気が悪くなりました。夜からは雪に変わりました。雪が多く積もると、測定作業を実施している山の頂上まで車で行けません。

 朝になると雪は降りやんで、小雨になっていました。どうにか測定現場までは行けるだろうと車で向かいました。幸い、雪はそれほど降り積もっていなくて、何とか山の頂上付近にある測定場所まで行けました。そこで、今まで見たこともない光景を見ました。

 昨夜の雪が山頂付近の木々の降り積もって、樹氷になっていました。写真の樹氷は雪が積もっているだけですが、この時の樹氷は後から降った雨のせいで、雪の部分が透明な氷に代わっていました。さらに、雲の切れ目から降り注ぐ日光でキラキラ輝いていました。樹氷を見たのはこれが初めてでしたが、何て綺麗なんだろうと感動しました。

 樹氷の感動の後、いつもの測定作業を続けていると、天気が回復して青空が見えてきました。すると、今度は辺り一面の光景がダイナミックに変化していきました。測定作業を行なっているのは、山の頂上付近ですが、山の中腹付近の低い位置に雲が広がり始めたのです。しばらくすると、その雲のじゅうたんが広がって、山の麓が全く見えないくらいになりました。これが初めて見た雲海でした。雲海の上は晴天ですから、日光を浴びた雲が本当に海のように見えました。

 一日の短時間のうちに、樹氷と雲海が一緒に見られた眼福の一日でした。あの時以来、樹氷も雲海も見ていません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?