多文化主義が個人を文化的にカテゴライズする矛盾 - 映画「The Long Goodbye」を見た話
ショートリストから映画「The Long Goodbye」を見た。
昨年「サウンド・オブ・メタル / Sound of Metal」で話題をさらったリズ・アーメッド(Riz Ahmed)が主演で、2020年にリリースした同名タイトルのコンセプトアルバムと対になる12分の短編(或いはミュージックビデオ)。
配給はWePresent。ここはアムステルダム発のファイル転送サービスWeTransferの一部門。コンテンツマーケティングの一環でエディトリアルチームを立ち上げる企業は少なくないが、取り組みがここまで注目を集めるのは珍しいかもしれない。この辺は別のエントリーでまとめておきたい。
さて、この短編は、ある移民の家族の日常が、突如として奪われる話である。覆面をした暴漢。胸には極右団体のイングランド防衛同盟の印。英国と南アジアとの歴史的な関係、そしてEU離脱を機に過激化する移民に対する差別。具体的な事件に沿って描かれているわけではないという意味ではフィクションだが、想起させる事件は日常的に起きている。
そして最後のモノローグは「Where You From」のリリックで結ばれる。
They ever ask you, "Where you from?"
Like, "Where you really from?"
The question seems simple, but the answer's kinda long
I could tell 'em Wembley, but I don't think that's what they want
But I don't wanna tell 'em more, 'cause anything I say is wrong
Britain's where I'm born, and I love a cup of tea and that
But tea ain't from Britain it's from where my DNA is at
And where my genes are from, that's where they make my jeans and that
Then send them over to NYC, that's where they stack the P's and that
戦後の労働力不足により旧大英帝国植民地(カリブ海諸国・インド・パキスタン・バングラデシュ)から押し寄せてきた移民。英国社会の慣習に同化すべきであるという政策が中心だった戦前と異なり、押し寄せた移民に対する多様性は正当化し、多文化主義政策が導入されていた。
ただ二世・三世と英国生まれの子孫たちが増えていく中で、彼らの文化的な多様性は受け入れるどころか、排他的なナショナリズムが強まってきてしまう。多文化主義が、逆に個人を文化的にカテゴライズしてしまい、終いには「多文化主義は失敗」とまで言われてしまう。
国家のアイデンティティーの統一を妨げ、国家の安全保障が蔑ろにされてしまったという言説が広まり、英国人としての共通の価値観「英国人らしさ / Britishness」について議論されるようになったのだった。
Yeah, I make my own space in this business of Britishness
当たり前だけど、国籍と帰属意識は必ずしも一致しないし、いわんやルーツとアイデンティティも一致するとは限らない。ウェンブリー生まれの英国人であるリズ・アーメッドは、この「英国人らしさ / Britishness」という言葉に弄ばれてきたのかもしれない。そのことは「Where you from」の上記のリリックにも現れている。
それにしてもリズ・アーメッドの活躍は目覚ましい。長編ドキュメンタリー部門と長編アニメーション部門の両ショートリストにも入っている映画「Flee」にはExecutive Producer、そして声優としても関わっており、今年も彼の名前を聞くことが多そう。
140文字の文章ばかり書いていると長い文章を書くのが実に億劫で、どうもまとめる力が衰えてきた気がしてなりません。日々のことはTwitterの方に書いてますので、よろしければ→@hideaki