『aラストティア』~荒野の楽園編~ 第三章グオーレ王国 04俊足な盗賊
第三章グオーレ王国 04俊足な盗賊
村を出発してから3日目の昼頃の時間。
昼食の時間も兼ねて休憩を取っていた優理とカレン。食事の時にはかならずイリィがロイヤリティのある白ベースに花柄のポットとティーカップセットを構えてカレンの横に姿勢良く立っている。
イリィのサイズ感だと人間にとって普通の大きさのポットとカップが半分くらいの大きさに感じられる。
カレンにとってティータイムは一人の時間らしく、全く話しかけてこないし話しかけても聞こえていないのか返事どころか目線すら合わせてこない。
右足を上に足を組んで座り、イリィから差し出したカップの乗ったディッシュを左手で受け取る。左手の親指と薬指と小指でディッシュを下から支えるように持ち、右手の親指と人差し指でカップの持ち手を挟むようにして持ちあげる。唇を軽くすぼめて3回ほど「フーフーフー」と息を吹きかけて冷ましゆっくりと唇に運んでいく。
ゴクン・・・・・・と喉を鳴らし体内に運ばれていった熱が全体を巡っていく感覚を深く感じるように肩の力がすーっと抜けていき脱力している。その後にティーカップに鼻を近づけて香りを愉しむ。
これがカレン流のティータイム。
この間終始カレンは一人の空間に浸っており、半径3メートルは進入禁止と言わんばかりである。
進入禁止区域から離れたところに座りニュートンと昼飯をもぐもぐしながらカレンを見ていた優理は思う、あいつ変わってんなと。
類は友を呼ぶとはまさしくこのことなのだろう。
「よしそろそろ出発するか」
もうそろそろティータイムが終わりそうだったので優理はその場から立ち上がると、例の如くグオーレ王国の方角をたしかめるべくリングをはめた指を突き出す。
その瞬間、何かが目の前を颯爽と横切った。
「うわっ、あぶなっ!」」
何かが通り過ぎていった後で反応は遅かったが反射的に優理は身体を後ろにのけぞる。
目の前を横切った何かはフードで顔を隠した小学生くらいの大きさの子どもっぽいが、どんどん遠ざかっていくので確かではない。ただニホン猿の平均並みの人間離れした速さの持ち主なのは分かる。もうあんなに遠くに居るのだから。
「人なのかあれは、速いなぁ」
優理が感心して見ているとカレンが慌てた様子でこっちに向かってくる。
「ちょっと優理!リングは!?」
「え?」
優理はリングのあった右の人差し指に目をやるとそこには確かにリングの姿が無かった。
「リングが無い!?ついさっきまであったのに・・・・・・」
きょろきょろと周囲を見渡すもどこにもリングは見えない。もしかして・・・・・・。
二人の目線がついさっき通り過ぎていった超人の方に向く。そして優理は道中で耳にした盗賊の話を思いだして言う。
「きっとあの子が盗んでいったんだ!」
「もしかして盗賊!?とりあえず追いかけなきゃ!」
二人は必死で遠くなっていく影を追っかけるもその距離は全く縮まること無く、逆に離れていく一方である。
「まずいあの丘を越えられたらもう見えなくなっちゃうぞ」
優理が走りながら言う。
結局全然追いつくことはできず、小さな影は丘を越えて見えなくなってしまった。それからしばらくして二人もやっと丘の上まで辿り着いたが、どこに行ったか全く検討がつかなくなってしまった。
「どうしよう、リングが無いとグオーレ王国に行けない・・・・・・・。」
カレンは走り疲れてその場に座り込む。
「にしてもあの盗賊、足速かったなーー」
「何のんきにそんなこと言っているんだ、それよりこれからどうする? 」
リングの心配より盗賊の足の速さを気にしていた優理に対して、ムッとするカレン。
「どうするって・・・・・・ちゃんと見てみろよ」
「ちゃんとって何を」
座り込んでいるカレンに、「ほらこっち」と笑って遠くを指さす優理。
カレンも重たい膝をゆっくりと伸ばして立ち上がり、優理の指さす方を見ると
「もしかして、あれがグオーレ王国・・・・・・?」
「そうかもしれないな」
丘を下ったところから道なりに数十キロ進んだ先に見えるのは、半楕円形状の城壁に大きな門が右と正面、そして優理達の角度からは見えないが左にあって計三つ、そこから城下町が広がり中央奥に大きな山を背にしたレンガ造りのお城。
これまでの道やセピア世界のことを考えると凄い建造物に認定されるであろう大きさだ。あれがグオーレ王国で間違いないのだろう。
「盗賊にリングは奪われちゃったけど結果オーライってやつか」
「そうだな・・・・・・」
「優理また何か考えているだろ」
「えっ、なんでそう思う?」
「大抵、優理が考え事しているときは腕を組んで唇を触っているからな」
「なるほど確かに、触ってるな・・・・・・」
優理は自分を見て感心しながら言う。
「で?何考えてたのだ?」
「盗賊の話を聞いたときにさ、今回リングを奪った盗賊はなんで盗賊をやっているのかなっておもったのさ」
「盗賊が盗賊をやっている理由?そんなの考えたこと無い」
小首を傾げるカレンに淡々と続ける。
「このセピア世界はみんな生きることに必死なはずなんだ。元の世界では食べ物に困るなんてこと無かったから宝石とか便利さとかを求め、買って欲求を満たしていた。でも食べ物に困っているはずなのにリングを奪う理由って何だと思う?」
「うーーん、普通に考えたら食べ物に困っていないからになるよねその理論だと」
「食べ物に困っていない・・・・・・。ここまで来る間に出会った人はみんな食べ物や飲み物に困っていたんだ。もし困っていない人が居るんだとしたらそれは・・・・・・」
ここまで聞いてカレンは優理の考えていたことに気がつく。
「私たちと同じティアの所持者(マスター)・・・・・・。でもまって!ティアの所持者(マスター)なのに盗賊、悪人だってこと?」
「もしもティアの所持者(マスター)なんだとしたら、今ばらばらになっているティアの所持者(マスター)が僕らの敵って可能性も無いとは言えない。もしくはイレイザ達のような敵で、その敵はティアの所持者(マスター)と同じく何らかの能力を持っているか・・・・・・」
「前者はあまり考えたくないな」
「そうだな、まだセピア世界は分からないことが多いから警戒は怠らずに慎重に行こう」
「うむ。とりあえずティアのことは他言禁止だな」
二人は丘の上で少し休憩してから丘を下って道なりに進み、日が暮れる頃にようやく城壁の門の前にまで辿り着いた。