『aラストティア』~荒野の楽園編~第二章セピア世界 03赤の剣士
第二章セピア世界 03赤の剣士
キーーーン!
金属がぶつかりあったような高い音が辺りに響く。
「ん?」
一瞬何が起こったのか分からず、ただ固まっていた優理だったが、自分が死んでいないことに気づくと、ゆっくりとまぶたを開いた。
すると目に映ったのは、太もも辺りの色白な肌と膝下まで覆っている長めのブーツ。そして美しくつややかで真っ赤な色をした髪だった。
「誰だてめーは、邪魔するなら殺すぞ!」
カッターがそう叫ぶと赤髪の剣士は何も言わずに、口元を軽くつり上げ笑った。
キリキリとこすれ合う真剣を互いにはじきもう一度構え直す。
気のせいか、優理は辺りの気温が高くなっているような気がした。
数秒見つめ合い、再びカッターが剣で斬りかかろうとしたその瞬間、赤髪の剣士の持つ剣が紅蓮の炎を纏いだす!
「なんだその剣は!?」
驚き固まるカッターに赤髪の剣士は勢いよく剣を両手で左から右へと振る。
「ぐあぁ・・・・・・」といううめき声と共にカッターはその炎に包まれ、苦しみながらその場に倒れもがき苦しむ。
そして跡形も無い灰だけがその場に残った。
その様子を見ていたチンは震え上がり、すぐさまギロの元へと行くと、ギロを抱えて逃げて行った。
「ちっ、逃げられたか」
赤髪の剣士が剣を鞘に納め優理の方へと振り返る
「大丈夫だった・・・・・・っておい、大丈夫か!?」
優理はそれまでの間ただただ呆然と尽くしていたのだが、急に緊張と恐怖から解放されたせいかその場で意識を失ってしまった。
「仕方ないなぁ」
赤髪の剣士はしょうがなく優理を背負って村へと運ぶのであった。
なにかやわらかい感触が右の頬で感じる・・・・・・。
優理は意識を取り戻したが、その心地よさをしばらく感じていた。
しばらくしてようやく目を開けると
「おはよう、気持ちよく眠れたか?」
そう語りかけてくる長くて赤い髪をした女性の優しい顔が見えた。
「うわぁ!」
驚き悲鳴を上げて急に起き上がる優理。
「私の膝枕は最高だっただろう?」
立ち上がり、ふふっと口を手で覆いながら笑う赤い髪の女性。
右頬を抑えながら、まだかすかに残っているその柔らかな感触を思い出す。
あれは間違い無く太ももだ・・・・・・心臓の音が大きい。
「あ、あなたは一体・・・・・・」
「そうだったな、自己紹介がまだだった。私はカレン。君は優理君だよね」
胸元まで伸びている長く赤い髪が特徴のすらっとした体型の女性で、歳は17才くらい、身長は優理よりやや高いくらいかな。きりっとした切れ長の目をしていて、瞳の色は髪の毛と同じく赤色、右目は黒の眼帯をしている。分からないがきっと同じ赤色なのだろう。胸は同年代の女子を考えたら・・・・・・やや小さいかなといった感じだ。
「何で僕の名前を?」
「村長から聞いたよ」
「あっ・・・・・・」
村長という言葉を聞いて優理は崖に落ちていった二人のことを思い出す。
うつむき悲しい顔をする優理を見てカレンがやさしく言う。
「二人のことはその、なんていうか、残念だったな・・・・・・。村長には私から話しておいたよ」
優理はいたたまれない気持ちでその場に立ち尽くす。
「優理君、目を覚ましたか」
そこにこの村の村長である浩吉がやってきた。
「ごめんなさい!僕は、二人を・・・・・・守れませんでした・・・・・・。」
目に涙を浮かべて謝罪する優理。
「謝らなくて良い、君は二人にためにその身を投じて頑張ってくれたのだろ?ありがとう」
村長は責めること無く、代わりに感謝の言葉を口にした。
そんなやりとりをする二人の間にわってカレンがやや重い口調で言う。
「悲しい気持ちも分かるが優理、君にはやってもらわないといけないことがある。」
「やらなきゃいけないこと?」
優理が聞き返す。
「そ、そうだ、はやく自然の恵をくれないと」
また取り乱したように村長が口をはさむ。
「恵はもちろん渡すから待っていてくれ。だがその前にやることがある。優理、昨日逃げていった骸骨が2匹いたのを憶えているか?」
「うん、そこまではなんとなく憶えている」
「その骸骨等はきっと親元へと逃げ戻り、私が仲間を殺したことを報告するだろう。そして近いうちに、もしかしたら今日の夜にでも、復讐しにやってくる可能性が高い。」
「そんな・・・・・・、あの骸骨ですら苦戦したというのに、その親元がやってくるとなったら」
「そうだな、今のままではきっとこの村ごと消されて終わりってレベルだろう」
「ええ!?なんてことをしてくれたんだ君たちは!」
またしても取り乱し叫ぶ村長だが、気にすると話が進まないため放っておく。
「今のままではってことは、なにか解決方法がある?」
「その通りだ、話が早くて助かる。」とカレンが頷く。
「ここからは表へ出て話そうか、村長は村のみんなにこの話を伝えてくれ、そして今日の夜は一カ所に全員で避難すること。できれば村の一番端の家がいい。全体を守りながら戦うのは厳しいからな。」
そう言い残すとカレンは外へ出ていった。優理も後を追う。
残された村長は、なんて勝手な小娘だと呼吸を荒げながらも、言われたとおりに村民へこの話を伝えにいった。
「どこまで行くんですか?」
村を出てから数分歩いたところでカレンに尋ねる。
するとカレンは「ここらへんでいいか」とつぶやいて振り向いた。
「まず、先に聞いておこう。優理はティアについてどのくらい把握しているのだ?」
「何でティアについて知っているんですか?」
「それは後で教えるから質問に答えろ」
やや強い口調でカレンが言った。
「そうですね、ティアに選ばれし者は、自然の恵みを受け取ることができると村長からききました。」
「それだけか?」
「それくらいです・・・・・・」
「そうか、優理がどのくらいティアについて知っているのか確認しておきたくてな」
「いいですけど、ティアのこととこれからやることがなにか関係しているんですか?」
「そうだな、超重要だ」
そう言うと、カレンは優理の前に手を差し出し開く。
優理が顔を近づけてその手を見るとそこには、綺麗な赤い輝きを放つ、雫形の宝石が。
「これは・・・・・・ティア!そうか、だからさっき恵みを渡すって言ってたのか」
「そうだ、私は赤のティアに選ばれし赤のティア所持者(マスター)だ」
昨日優理を骸骨兵士から守ってくれた赤い髪の女性の正体は、優理と同じくティアに選ばれし者でそのうちの一つ、赤のティア所持者(マスター)だったのだ。
「優理と同じく私も記憶が曖昧な部分が多いが、ティアについては私の方が詳しいようだ。そこで君にはティアの能力で今必要なことを教える。それを習得してもらいたい。」
本当にこのセピア世界にはティアの所持者(マスター)と呼ばれる勇者的存在が居て、元の世界に戻るために楽園を探す、そんな使命を僕が担っている・・・・・・。
にわかに信じがたいことで、今の今までなにかの冗談か夢のどちらかだろうと思っていた優理だったが、こうしてティアの所持者(マスター)と出会ったことや、昨日みた骸骨の存在で、それがほぼ確信へと変わっていった。
「まだ現実を受け入れるのは難しいかもしれないが、時間が無い、端的に話すぞ。ティアには共通に使える能力と、色ごとに存在する特殊能力がある」
そう言うとカレンは腰の剣を引き抜いてなにか口にしながら、腕に力を込めてハッと叫ぶ。すると剣が炎を帯び始める。昨日優理がみたのと同じものだ。
「これが、ティアの能力?」
「そうだ、これは私の持つ赤のティアの能力で〈火炎(ファイア)付加(エンチャント)〉だ。あらゆるものに炎を纏わせ威力を上げることができる」
「僕にもできるのかな・・・・・・」
優理が不安げにつぶやくと、カレンは少し笑ったように
「できるさ、だって君はもうやってのけているからな」
それを聞いて不思議そうに見つめる優理を、カレンはまた笑って続ける
「自覚は無いかもしれないけど、君は昨日、骸骨と戦った時にただの木の棒だったはずのものを〈付加〉させていたんだ。私もその強い魔力を感じて君のところに来た」
たしかに優理は昨日、ただならぬ空気をまとい、ただの木の棒だったものを、柄の長い竹刀ののようなものに具現化させていた。
「なるほど、あれが〈付加〉なのか・・・・・・、それで僕は何をしたら良いの?あれは偶然できた者で意識してできることじゃないし・・・・・・」
「だから、それを意識的にできるように今から特訓する」
親指を立てた手を前に突き出し、「頑張ろう、君ならできる!」と言わんばかりの眼差しをこちらに向けられる。
そんな眼で見られてもと恐縮する優理だったが、再度確認する。
「ちなみに炎は出せるの?」
「出せないな。〈火炎付加〉は赤のティアが持つ特殊な能力だ。〈付加〉自体はそれぞれのティアに存在していると思うよ」
「なるほどね。じゃあ〈付加〉を習得する上で何かコツとかないんですか?あれは本当に偶然で、なにをしたらいいのか分からないから・・・・・・」
「そうだった、大事なことを言い忘れていた。〈付加〉に限らず、ティアの能力を最大に活かすためには想像力が欠かせない。例えば私の〈火炎付加〉も、自分の剣に炎が纏うことや、その火がどんな色をしていて、どれほどの威力があるのかとか想像してやっている。実際にその通りになるとは限らないけど、その想像による力は無限大だと私は思っているよ。」
想像が力に変わる・・・・・・、魔力や技術にも左右されるが、その力は無限大という言葉に優理は胸の奥が熱くなる。
「ということは、昨日の僕はもしかしたら、木の棒では戦いづらいから、多少は使い慣れていた竹刀の形を想像して〈付加〉させていたのかもしれない。」
優理は孤児院にいたころ、部活で剣道をやっていた。もちろん自分には合わないと思い練習はサボってばかりだったが、他の武器に比べたら扱いは慣れていた。
「まあそれもあるとは思うけど、一番は二人を守りたいという想いだと思うよ。」
「想い?」
「そう、誰かを想う気持ち。これも一種の想像というわけだ」
「なるほど」と優理が納得する。
「〈付加〉も想像することで使える能力の一部だ、だから想像することでもっといろんな能力や技を使えるようになる。とりあえずは昨日のやつを習得することだな」
まだまだ計り知れないティアの能力、優理は失った二人のためにも強くなることを心に誓うのであった。