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『aラストティア』~荒野の楽園編~第三章グオーレ王国 02貧しい親子

 第三章グオーレ王国 02貧しい親子

 それから2時間くらい経っただろうか、広い荒野を抜けごつごつした岩だらけの坂を下ったところにある谷の間の道を抜けたところで、優理達は有るものを見つけた。
「あれは、テントじゃないか?」
 谷を抜けた少し先の脇に人の住んでそうなテントが3つほど立てられていた。
 村を出てから一度たりとも人に出会うことが無かった中、始めて人の気配がしそうな場所を見つけたのだ。
「よかった・・・・・・やっと近づいてきた感あるね」
カレンがそういうのも不思議では無い。グオーレ王国というくらいだから、人の姿が見えてくれば占領地の可能性があり、それはつまりゴールが近づいていることにもなるのだ。
「あのー、すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」
優理がテントに近づき声をかけるが反応は無い。カレンも優理に続く。
「私たちグオーレ王国を目指して旅をしている者ですが、どなたかいないだろうか?」
すると、テントの入り口からやせ細った男の顔が覗き出てきた。目の下に深いくまができており、歯も欠けていてみるからに健康ではない身体をしていた。
そのゾンビのような男に驚き背筋がピンと立った二人に対して男が口を開く。
「あんた達グオーレ王国に行くのか」
「そうです。やらなければいけないことがあってここから4時間くらい歩いたところに有る村から来ました。」
優理が答えると男はすかさず返す。
「あそこには行かない方がいい」
「どうしてですか?」とカレンも聞き返す。
「あの王国は偽物だ・・・・・・」
そういうと男はテントの中へと戻っていった。
「偽物ってどういうことだ?」
「私も分からないけれど普通の王国ではないってことは確かね」
「やっぱりイレイザのような悪の存在がいる説が濃厚だな」
「ここから先、より注意して行こう」
二人は話し合いを終えてテントから離れようとした時、中から子供の声が聞こえた。
「ねぇおとーさん誰?おきゃくさん?」
「違うよただの旅人さ」
「たびびとさんはご飯くれる?」
「くれないよ・・・・・・」
「くれないのかぁ・・・・・・おとーさん今日のごはんは?」
「もう少し待っててね、おとうさん探してくるから」
「わかった、待ってるね・・・・・・」
「ああ、行ってくるよ」
男が娘との会話を終えてテントから出てくる。
「・・・・・・・・・・・・。人が悪いな。家族の会話を盗み聞きするなんてよ。」
 まだテントの前に居た優理とカレンを見て男は言い放った。
「ごめんなさい」
 二人とも悪気はなかったものの失礼を働いてしまったと謝った。
「あの、娘さんと一緒なんですね。その、なんていうか・・・・・・お腹すいてるのみたいな」
「ちょっと優理」
 カレンに腕で小突かれて優理は気付いた。
「ご、ごめんなさい!決して悪気があったわけじゃなくて、その僕達なら助けてあげられると思って。」
 ティアの所持者(マスター)は恵みを分け与えることができる。だから優理は目の前のお腹をすかせている親子を助けたいと思ったのだが、上手く言葉にできずに余計に相手を傷つてしまうような言葉を言ってしまった。
男はしばらく黙っていたがようやく口を開いた。
「俺は元々グオーレ王国にいた。だがわけあって王国を出たんだ。今じゃこんな外れにテント建てて神の恵みを探しては食いつないでいるホームレスだ。」
「そうだったんですね・・・・・・」
淡々と語る男に合わせてカレンが相づちを打つ。
「あの実は僕達ティアの所持者(マスター)なんです!」
優理がそう言うと男は「ティアの所持者(マスター)か・・・・・・」と一瞬目を丸くしたが、より険しい顔をする。優理は勢いで続けた。
「だから自然の恵みを貴方と娘さんに分けることができて、たすけて・・・・・・」
「助けは要らん!」
 助けるという言葉で反射的に放たれた声はこれまでで一番感情の入った声であった。
優理とカレンは驚き立ちすくむ。そしてまた余計なことを言ってしまったのかと優理は悔やむ。
「すまなかった急に大きな声を出して、だが助けは要らん」
「どうしてなんですか?」
「どうしてか・・・・・・お嬢ちゃん考えてごらんよ。今まで満足いく味・量の飯をたべられなかった人間が、一度高級な料理の味を覚えてしまったらって」
「それは・・・・・・」
「一度その味を知ってしまったら、また食べたいって感じるのが本能だろ。しかもこれまでの不味い少ないものじゃ満足どころか食べたくないって思っちまう。俺は大人だから理解できるが子供はどうだ?」
 ここまで聞いて優理とカレンはこの男が拒む理由を理解した。
「だから悪いが助けはいらん、ほらさっさといってくれ」
男はそういうとテントから離れていった。きっと神の恵みを探しに行くのだろう。背中が物語っていたのは守らなければならないという責務の重みだった。
「ちょっと行ってくる」
「ちょっと・・・・・・」
カレンの言葉を待たずして優理はティアを使ってその場から消えた。
しばらくして自然の楽園(フォレストピア)から戻ってきた優理の手には食料と水、つまりは自然の恵みがあった。
「優理あの人の気持ち分かってないの?辛いんだよ?本当はのどから手が出るほど欲しくて仕方ないけど我慢しているんだよ?」
 カレンも助けてあげたい気持ちを抑えて、諭すように言った。
「わかってる、わかってるけど!今の僕にできることはこれしか無いんだ」
「だったら・・・・・・」
カレンはそれ以上の言葉は出さなかった。それはカレンも助けたい気持ちは同じだったからとか、もう言っても仕方ないと諦めたとかでは無い。わなわなと身体を震わせぐっと拳を握りしめている優理は、きっと自分で自分を責めている。助けられるはずの力があるはずなのに助けることが叶わない。そんな自分を責めている、そう感じたからだった。
両腕に抱えたその自然の恵みを片腕に持ち替え、落とさないように膝で支えながら優理はテントの入り口の布を下から上へとめくる。
「こんにちは、初めまして」
中には4歳くらいの小さな、同年代の子と比べても小さな女の子がちょこんと座っていて、テントに入ってきた優理にすぐに気がつくと目をかっと開いて大きな声で叫ぶ。
「おにーちゃんだれ!!??」
優理はさっきまでの顔色を一瞬にして消し去るかのように変えて優しく語りかけた。
「急に入ってきて驚かせてごめんね。悪い人じゃ無いよ。君と君のお父さんを助けてあげたいんだ」
本当に悪い人は自分のことは悪い人じゃないよって言うのだろうか。言うか言わないかは分からないが実際に口にしてみると怪しさを感じる。
「悪い人じゃないの?でも知らない人はだめっておとーさんが・・・・・・」
悪い人じゃないことはすんなりわかって貰えたみたいだったが、警戒はまだ解けていない様子だ。
「実はお父さんのお友達で、お腹すいて困っているって聞いたからほら、これ持ってきたんだ」
咄嗟に出た言葉に、心の中で「ごめんね嘘ついて」と謝りながら両手に抱えたフルーツやら野菜やらの自然の恵みをそっと下に置く。
まだ警戒しているのか優理と下に置いた自然の恵みに目を行ったり来たりさせその場から動かない女の子。
これ以上余計なことは言わないようにしようと思い、「お父さんと一緒に食べてね」と言って優理はテントから出た。
テントを出るとカレンが心配そうな顔を向けてきた。
優理はそれに対しては答えることをせずに「先を急ごうか」と道に戻る。
カレンは肩の力を抜いてフゥーと一度深呼吸をしてから優理の後を追った。
かろうじてテントの形が分かるくらいの距離を作ってからそれまで黙っていた優理が口を開く。
「僕気付いたことと思ったことがある。」
カレンは黙って優理の様子を伺う。
「僕の中で良かれと思ったことが相手にとっても良いことではないってこと、これは気づき。そして思ったことは、それでも僕が良いと思うことをしたい。」
さっきの出来事で優理は相手から望まれていないことを頭では理解していた、理解していたにもかかわらず、想いは行動に変わっていた。目の前の困っている人を助けたい、その想いは間違ってないと優理は信じたいのだ。
カレンは「喜んでくれるといいね」と相づちを打つがなにやら思い詰めた表情になる。
誰にだって頭では理解していても心が違うって叫んでることはあるよ、私も・・・・・・。
眼帯越しに右目が疼き咄嗟に手で抑える。
優理はそれに気付く様子は無く、さっきまでより声のトーンを2つくらい上げ気合いを込めて言った。
「よしっ早く世界を救えるように頑張るか!カレンよろしくな!」
振り返って右手の拳をカレンに向ける優理。
「そうだな、でもまずはグオーレ王国にいる仲間を助けることからだな」
「もちろん」
カレンも拳を差しコツンと優理の拳に合わせた。
するとニュートンもお腹のポッケから這い出てきて腕をよじ登り優理の拳の上まで行くと、その小さな拳を二人に合わせる。
優理もカレンもニュートンを見てクスッと笑う。
「ニュートンもよろしく」
カレンが声をかけるとニュートンは短い手をピンと上げて敬礼をするも短すぎて手に届いてない。
「ニュートンも成長して大きくなったら頭に手が届くかもな」
嫌みっぽく優理が言ったのでニュートンは地団駄を踏みならし、ぷんぷんと怒るとひょいっとジャンプして自慢の鋭いとげとげを優理の手に突き刺した!
「いっっッッッターーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
優理の叫び声が荒野に響き渡った。

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