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日常拾うアポなし取材 東松島市・上区自治会 広報とねり 30周年

 東松島市赤井の上区自治会が毎月発行する広報「とねり」が、今年で創刊30周年の節目を迎えた。当初は編集委員がいたが、ここ15年は自治会長でもある山崎恵章さん(66)が一人で取材、編集、印刷を行う。「人を見つけて話を聞き、写真を撮れば記事になる。なにせ地域が協力的なので」と笑う。車にカメラを積み、きょうも〝アポなし取材〟で地域の小さな日常を拾い続ける。

山崎さん「地域が協力的」

 赤井地区は農村地域だが、平成に入るとサラリーマン世帯も増え始めた。「隣に住むのが誰だか分からない時代が来るのでは」「だったら話題を作っていけばいい」。そんな話し合いが形となり、平成4年4月に自治会広報「とねり」が創刊した。

 「とねり」とは、国指定の赤井官衙(かんが)遺跡群から舎人(とねり)と刻書された土器が出土したことに由来。今から1300年前のことであり、上区はこの遺跡の上にあるため、タイトルにこれを用いた。

 当時、編集委員には分館委員や住民有志約10人が名を連ねた。今と違ってSNSなどメッセージサービスも発達しておらず、もっぱら電話連絡。7―8年過ぎると連絡を取り合うのも手間となり、やがて山崎さんが一人で取り組むようになった。

「ネタ枯れで困ったことはないね」と語る山崎さん

 「住民の間で『とねり』が定着し、取材される側の協力体制ができていたので一人で対応できるようになっていた」と振り返る。その後、約6年間、近所に住む齋藤英彦さん(58)=現在の赤井地区自治協議会会長=が編集を担ったが、齋藤さんが市内での役職業務が増えたことで再び山崎さんが筆を取った。

 上区自治会は構成約130世帯。増減はあるもここ30年で世帯数に変化はない。「とねり」は市報の配布と併せて行政区長が配達しており、編集作業は市報配布日の3日前から行う。B4サイズ両面は30年前から変わらない。プリントした写真を切り、手作業で記事と貼り合わせる。「アナログだが、この方法がやりやすい」と笑う。

 出産、小学校入学と卒業、結婚、転入など住民に転機があればその都度、顔写真入りで紹介。「生まれた赤ちゃんを載せ、その子が大人になって結婚した写真もあったな」と山崎さん。30年の重さを感じる時だ。

 上区の住民全員を載せることを目標にしており、毎年20人近い顔が並ぶ年男年女は恒例企画。写真を撮って抱負を聞いているが、取材はアポなし。「どの家に誰が住んでいて、この時間なら家にいるだろうという見当は付いている」。〝顔が見える地域〟とはこうしたことを言うのだろう。

 自治会副会長の佐藤美智子さん(60)は「毎月届くのが楽しみ。行事も写真入りで分かりやすく、何より上区にとって掲示板的な役割を担っている」と愛読する。話題掲載以外にも行事告知や生活上の周知も兼ねており、きめ細かい情報が重宝されている。

 「とねり」は1月発行で第358号。山崎さんは「続けていくには一人の方がやりやすいかも。最初は1年続けばいいと思っていたが、もうすぐ30年。そういえば市内の会合を見ても上区の出席率は高い。ここは人のつながりが濃い地域なんだね。とねりが人を結びつける一翼になっているならうれしいな」と顔をほころばせた。【外処健一】


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