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MaaS

Mobility as a Service (MaaS/マース)は、複数の移動手段をサービスとして統一し、ユーザーに提供するという考えを指します。持続可能な社会を実現し、個人の生活の質を向上させるキーコンセプトとして、欧州を中心に様々なプレイヤーが参画する巨大市場を形成しています。

そんなMaaSの現状や、将来の産業構造、地域社会へもたらす恩恵などを、幅広い視点で網羅的にまとめた良書として『MaaS』があります。

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特に印象の強かった部分を抜き書きしてみます。

交通版Netflix・MaaSの発祥

MaaSという言葉が初めて使われたのは、北欧フィンランドでの一本の論文。著者は当時(2014年)修士課程の学生で、指導教員はこのMaaSを交通版Netflixと表現しました。定額パッケージで様々な交通手段を組み合わせてシームレスな移動を可能にするという理念を掲げます。

これには政府も積極的に関わり、MaaSを足がかりにクルマ依存社会から脱け出し、持続可能な社会を構築することを政策としています。政府と大学が一丸となり、社会問題解決にむけて努力しているのが印象的でした。

日本のクルマ社会と都市空間

日本は他国に比べ住居可能面積あたりの車の保有台数が突出して高いのにも関わらず、その稼働率(実働時間の占める割合)は4%程度だといいます。また典型的クルマ社会である地方都市では、大きな駐車場のある店舗が軒を連ね、商店街は衰退、駐車場が都市空間の多くを占め、ヒト中心ではなくクルマ中心になっている。

確かに自分自身がパリなどで過ごした経験を思い返すと、街の機能とヒトがよく調和し、歩いて出掛けたくなるような場所が数多くありました。初めての海外旅行で訪れたパリを見たとき、最初に感動したのはまさに

人が街で暮らしている

という強烈な事実の確認でした。

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ヒト中心の都市空間の設計という点では、日本は非常に遅れていると感じます。

完全にクルマ社会になっている日本の地方都市は、一般に、歩いていける範囲に出ていきたくなるような場所がない。中心市街地は寂れているから、休日の過ごし方といえば、特定の趣味がある人を除き、郊外のショッピングセンターに行くのが関の山ということになる。消費の場所は飽きるしお金も使うから、そうそう毎週は行っていられないし、そもそも、ファミリー層以外にはそんなに楽しい場所でもない。独り身の若者や子供が独立した成熟した世代が楽しめるような場所が、日本の地方都市には圧倒的に欠けているのである。行く場所がなければ、外出が減るのは当然で、地方都市圏の外出率の低下は、そこに住む人々にとって外出したくなるような場所が年々減ってきているということの表れなのだろう。対する欧州の地方都市は、そんなに大きくなくても中心市街地に常に人の往来があり、にぎわいがある。中心部には路面電車が走り、クルマがなくとも移動ができて、ウィンドーショッピングをしたり、公園やカフェでのんびりしたりできる。休日は広場にファーマーズマーケットが立つから、朝から大勢の人でごった返す。すべての地方都市がそうだというわけではないが、衰退していない欧州の地方都市に共通するのは、歩いて楽しい町、クルマがなくても移動に困らない町になっているということだ。歩いて楽しくて、移動に困らない町になっているのは、そういう方向での足づくりとまちづくりの努力を弛まずに続けてきたからだ。クルマ社会になるに任せて無計画にまちづくりをしてきた日本とはそこが大きく異なっている。

高齢化とMaaS

ヒトの運転能力には年齢的な限界があります。これからの超高齢化社会では、高齢者がクルマがなくとも負担なく買い物やお出かけのできる環境を整えることが、これらの人々の健康と生活の質を保つ上で重要になると考えられます。

また高齢者でなくとも、お子さんのいる家族や、低収入世帯、運転免許を持てない人々、持っていても運転していない人々は、このようなクルマ社会で生活するという選択肢をとりにくいでしょう。

MaaSがここに活用されれば、無人の自動運転バスが乗りたいときに迎えに来てくれて、電車などの公共交通を適宜介しながら目的地に運んでくれ、その先のサービスまでも提供してくれるような社会が実現できる。こうして地方に移り住む人が増え、地域経済の活性化にもつながるのです。

観光とMaaS

観光の魅力は名所旧跡だけではありません。地方での生活体験も立派な観光資源であり、MaaSによってこのようなサービスと移動手段をまとめてパッケージ化して観光客に提供することができます。

これといった観光資源がなくとも、おいしい料理と水と里山や田畑や海の風景があれば十分だ。事実、イタリアでもドイツでも、グリーンツーリズムやアグリツーリズムが人気で、農家民宿に泊まってのんびりと田舎生活を楽しむ観光客でにぎわっている。食事と自然と丁寧なおもてなし、それに乗馬やトレッキングなどの田舎ならではのアクティビティ。それらが観光資源で、いわゆる名所旧跡は必ずしもいらない。

MaaSは持続可能な社会を実現するための手段

クルマ社会には都市空間の浪費、大気汚染、地球温暖化、騒音、交通事故、渋滞によるストレスなど多くの社会問題が伴います。自由な移動の実現は、人の暮らしの質を向上させるだけでなく、ヒト中心の都市、また新しいビジネスの創造を促すでしょう。これらの課題に対してMaaSを軸に、政府・自治体、大学、企業が一丸となって取り組む必要があると感じました。

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