見出し画像

恵方巻き初めて買った節分よ

季語:節分(晩冬)
えほうまきはじめてかったせつぶんよ

我が家の恵方巻き(太巻き)事情

恵方に向かってまるかじり、なんて食べ方はさすがに無理。咀嚼しきれない、喉につまる、具がこぼれてくるなどなど、惨憺たるありさまになるのが目に見えている。なので、恵方巻きかじりはやったことがない。太巻きは2口で食べられるくらいに切って、ゆっくりと味わいたい。

歳をとるとそのように思う方が増えてくるのではと思うが、子供がいればまた変わってくるのであろう。うちは両親とわたしの3人なので、太巻きでも数切れずつしか食べない。しかし、甥っ子たちは違う。

わたしには3人の甥がいる。高校生をトップに中学生、小学生の3兄弟だ。もともと照れ屋な面のある長男くんは、さすがに丸かじりはしないかもしれない。が、下の二人はまだまだ食事も遊びも楽しみたいタイプだ。実際に見たことはないが、勇んで太巻きに噛り付いていたのだろう。去年までは。

大きく変化した2020年

去年の5月に父の実家(誰も住んでいなかった)へ転居した。祖父から父が相続したが、既に自宅を構えていたので住むことなく父の遊び場として使われていた古い家だ。

母は間質性肺炎という病を患っている。わたしは引っ越しなんて面倒なことはせずに、今いる住居を母が過ごしやすいようにすべきと思っていた。が、父は独断で引っ越しを強行した。母の体調は素人目にも悪化し、歳を越せないのでないかとも思った。

幸い転居に伴い、通院先を変えたところよい医師に巡り会うことができた。10日ほどの強制入院で体調を整え、毎日の服薬も大きく変えたことで、無理しすぎなければ何とか動けるまで回復した。手の込んだ料理は無理だが、簡単なものなら台所に立てる程度に回復した。

少しずつなら料理ができると自信を持った母は、孫たちにも料理を振る舞いたいと思ったようだ。これまで孫の誰かの誕生日やクリスマス、正月などの季節の行事には、みんなで母の料理を囲んでいた。しかし2020年は、コロナ禍に巻き込まれ、多くの人々が生活様式の変化を強いられた。甥っ子たちも学校が休校になったり、共働きの兄夫婦も仕事は忙しい、でも子供たちが家にいるという事情で相当大変だったようだ。兄夫婦の職場は、休業要請とは無縁だったが、働き方を変えたい企業のインフラを請け負うような業種なので、むしろ返って忙しくなったようだ。

不要不急の外出の自粛、三密の徹底、家族だけで過ごすことなど、コロナを広げないために行政は様々なライフスタイルを住民に求めた。そのような事情もあり、誕生日もクリスマスも正月も孫たちが我が家を訪れることはなかった。

多少は動けるといっても、母に無理はさせたくない。それに兄夫婦も遠出をするより、自宅でくつろぎたいという気持ちも強かったのだろう。わたしはそんな事情をなんとなく察したが、気の弱くなっている母にはどうしても受け入れがたい事実だったようだ。

母得意の恵方巻き

何度も愚痴を繰り返し、時には涙を流しながらも、孫たちに会えない事実を母は受け止めた。コロナが収まれば、兄夫婦の仕事が落ち着けば、孫たちの学校が平常を取り戻せば、またこれまでのように行事ごとに交流できるかもしれない。残り寿命を意識している母にとっては、いつか収まるでは時間が足りないかもしれない。兄夫婦も母の具合の悪さをじゅうぶん把握しているわけではない。

他にも詳しい事情はわからないが、父と兄の間にも確執があるようで、それも実家訪問を控える理由のひとつらしい。

何にせよ、しばらく孫たちには会えない。その事実を飲み込んだ母は、毎年孫たちに届けていた恵方巻き作りもやめてしまった。

ひとつひとつの具材を丁寧に作り、きつすぎずゆるすぎず丁度良い塩梅で巻かれた母の太巻きは見事なものであった。しっかり巻いているので、具がばらけることもない。力を入れすぎてもいないので、米粒は口の中でほろりと崩れる。炊きたてのご飯を寿司桶に開け、酢飯を作るのも大変な技術だ。甘すぎず、酸っぱすぎず、具の風味を邪魔せずふんわりと包み込む。今年の節分は記憶にあるかぎりで初めて母が太巻きを作らない節分になってしまった。

スーパーの惣菜売り場で買い求めた太巻きも決して美味しくないわけではない。なるほど、これが市販品の味か。お腹は膨れても気持ちは膨れない。甥っ子たちはどんな節分を過ごしたのだろうか。母の味を懐かしんでくれていればいいなぁと、そんなことを思った。

しめっぽい話にお付き合いいただきありがとうございます。2月2日の節分は明治時代以来とか?

少しずつ夜明けも早くなってきました。春の訪れが待ち遠しいです。暖かさとともに、何かいいことがないかなあ。



本質的に内向的で自分勝手なわたしですが、世の中には奇人もいるものだなぁーと面白がってもらえると、ちょっとうれしい。 お布施(サポート)遠慮しません。必ずや明日への活力につなげてみせます!