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【第10回】性教育で最初に伝えたい“ プライベートパーツ” とは?

執筆:遠見才希子(えんみ・さきこ)筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野/産婦人科専門医

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「親に迷惑かけたくない…」悩みを言えない中高生たち

 「中絶したことを親に言えなかった」「性感染症で治療が必要なことを親に言えなかった」。これまで私にそう打ち明けてくれた中高生は少なくない。彼らは、親に言えなかった理由を「怒られると思ったから」「迷惑をかけたくなかったから」と話してくれた。しかし、その一方で、親に妊娠のことを打ち明けたら「さっさと処分しないと…」と言われ、“処分”の2文字が悔しくて悲しくて、それ以降、親に相談できなくなったという女の子もいる。私は性教育講演会のなかで、「わかってくれる大人がいるはずだから、自分だけで解決しようとするだけじゃなくて、大人に相談してほしい」と伝えていたけれど、「相談しなさい」ということ自体が、相談できなかった子や相談しても傷ついた子にとってつらい呼びかけになっているかもしれないと気づかされた。

子どもが相談できる大人はどこにいる?

 家庭での性教育で最も大切なことは、何か困ったことがあったときに子どもが打ち明けられる、そして親が否定や批判をせずに子どもを受け入れて、一緒に考えられる関係性を築いておくことではないか。しかし、例えば、性暴力被害を打ち明けたときに「あなたにも悪いところがあった」と自衛しなかったことを責めたら、子どもはどんな気持ちになるだろうか。被害者に落ち度があったと責めることは、典型的な「二次被害」だ。まずは、日頃から“おかえり”という声かけから始まるようなオープンなコミュニケーションがあること、そして、相談される側の大人たちが正しい認識を持ち、受け皿として機能できることが大切だ。

グローバルスタンダードは5歳からの包括的性教育

 「寝た子を起こすな」と、長年、日本では蓋をされてきた性の問題だが、今や幼児や小学生でも、スマートフォンやインターネットがつながるゲーム機器の普及などによって性情報に晒されている。多くの大人たちが性教育の必要性を感じながらも、一体何をどのように伝えればいいのかがわからないのかもしれない。実際、私も0歳と2歳の子どもの親であるが、性教育を受ける機会がないまま大人になってしまった一人であり、幼い子どもたちへの性教育については、正直、手探り状態のところがある。そんなときは、やはりグローバルスタンダードを知ることが重要だ。ユネスコが刊行する「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」という世界的な性教育の指針では、「人権尊重」がベースにあることが強調されている。性の多様性やジェンダー平等への理解を深めつつ、避妊、性感染症、性暴力、情報リテラシーといった問題を体系的に5〜18歳頃まで繰り返し学ぶ、「包括的性教育」が推奨されている。5〜8歳の学習目標には、「すべての人の体は特別でかけがいのないもの」「人権はすべての人を性暴力から守る」「卵子と精子が結合して赤ちゃんができる」「プライベートパーツに好奇心をもち、自分で触るのは自然なこと」などがあげられている。

子どもへの性教育で最初に伝えたいこと

 “人権”という言葉を聞くと身構えてしまう人もいるかもしれないが、「自分の体のことを自分で決められる権利」があることをまず知ってほしい。本連載でも度々触れているが、「性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health & Rights;SRHR)」とは、性や子どもを生むことにかかわることすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態で、自分の意思が尊重され、自分の体のことを自分で決められることである。他人の権利を尊重しつつ、安全で満足できる性生活をもつ、子どもを産むかどうか、産むとすれば、いつ何人産むかを決定する自由がある、適切な情報とサービスを受ける。そのような権利は誰もがもっている。

プライベートパーツ「大事大事は自分で洗う!」

 プライベートパーツは、水着に隠れる部分(胸、性器、おしり)と口といわれている。男性の場合、胸はプライベートパーツではない、というわけではないし、この部位以外にも、その人にとってプライベートパーツはあるだろう。プライベートパーツに興味をもって、自分で触ること(マスターベーションを含む)は、性別を問わず自然なことだが、安全でプライベートな空間で、清潔にやさしく触ること。原則として、自分のプライベートパーツは、じっくり見るのも、触るのも、自分だけの大切なところだ。ほかの人のプライベートパーツは、じろじろ見ない、触らない。写真や動画で撮らない、撮らせて送らせない。これが基本的で大切なルールだ。
 私はとりあえず、2歳のわが子とお風呂に入って体を洗うときに、「おしりもおまたもおっぱいも全部、大事大事よー。○○ちゃんの体は○○ちゃんのものよー」と歌うことから始めてみた。すると1〜2カ月経った頃だろうか、ある日突然、子どもが風呂場でギャン泣きした。「自分で洗う! 大事大事は自分で洗うの! ママ、触っちゃダメ!」子どもが泣きながらその理由を言う姿に胸が熱くなってしまった。絶賛イヤイヤ期でなんでも自分でやりたい時期ということも影響しているのかもしれないが、プライベートパーツの大切さは2歳児にも伝わっているのかもしれない。それからは、「洗い残し、ママが洗ってもいい?」と聞いてから体を触るようにしている。「ママのおっぱいも大事大事?」と子どもが聞いてきたので、「大事大事だよ、だから自分以外の人の大事大事は何も言わずに触っちゃダメだよ。もし誰かに触られそうになったらダメって言って、逃げてママに言うんだよ」と伝えた。
 プライベートパーツを伝えるときに大切なことは、被害だけでなく加害も防ぐためという視点をもつことだ。自分だけでなく、自分以外の人のプライべートパーツはその人だけの大切なところであると認識することは、自分や他者を尊重することにつながるだろう。

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【著者プロフィール】遠見才希子/ えんみさきこ:筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野/産婦人科専門医。1984年生まれ。神奈川県出身。2011年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。大学時代より全国700カ所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。正しい知識を説明するだけでなく、自分や友人の経験談をまじえて語るスタイルが“ 心に響く” とテレビ、全国紙でも話題に。2011〜2017年 亀田総合病院(千葉県)、2017年〜湘南藤沢徳洲会病院(神奈川県)などで勤務。現在、大学院生として性暴力や人工妊娠中絶に関する調査研究を行う。DVD 教材『自分と相手を大切にするって?えんみちゃんからのメッセージ』(日本家族計画協会)、単行本『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)発売中。

※本記事は、へるす出版月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです。

2023年2月号 特集:おなかが痛い,気持ちわるい:子どもの腹部疾患
2023年1月号 特集:サブスペシャリティを極める学修;小児看護の実践力を高めるために
2022年12月号 特集:みんなで築こう!協働関係;日常から話し合える環境に必要なこと

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