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61.働き方改革

“働き方改革”は働く方達が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で“選択”できるようにする為の改革です。
 
…と、厚生労働省が公表している“働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて”には書かれています。
 
働き方改革が必要とされる背景には、大きく2つの社会的要因があります。
 
“少子高齢化による生産年齢人口の減少”と“育児や介護との両立など働き方のニーズの多様化”です。
 
まずは、少子高齢化による生産年齢(15歳以上65歳未満)人口の減少が挙げられます。

日本国内の生産年齢人口は1995年の国勢調査における8726万人をピークに、年々減少を続けています。
 
国立社会保障・人口問題研究所が発表している“日本の将来推計人口(平成29年推計)”では、2029年には生産年齢人口が7000万人を下回り、2065年には4529万人まで減少すると推測されています。
 
日本の労働力の主力となる生産年齢人口が今後ますます減少するとの見通しから、日本全体の生産力及び国力の低下が懸念され、働き方改革の必要性が高まりました。
 
そして、育児や介護との両立など…働き方のニーズが多様化している点も働き方改革が必要とされる理由の1つです。
 
現在、日本では共働き世帯及び単身世帯(世帯主が一人の世帯)の割合が増加傾向にあります。
 
1990年代の中頃に共働き世帯の数が専業主婦世帯の数を逆転して以来、共働き世帯の数と専業主婦世帯の数は年々その差を広げています。

また、未婚率の増加や核家族化の影響を受けて、単身世帯も増加しつつあります。
 
そして、近年は共働き世帯や単身世帯の増加に伴い、家事や育児、介護などと仕事を両立できる柔軟な働き方へのニーズが高まっています。

そうしたニーズに対応する為には、労働における時間的制約の緩和やフルタイム以外の労働に対する処遇改善など…働き方改革の促進が必要になります。
 
働き方改革と関係性が深い概念として“ウェルビーイング(Well-being)”があります。
 
ウェルビーイングは“肉体的、精神的、社会的に満たされた状態”を指す概念のことです。
 
従来は社会福祉や医療などの現場で用いられていましたが、近年では企業の在り方や働き方を考える上でも重要な概念として注目を集めています。
 
日本は深刻な労働力不足に直面していて、多様な働き方への対応や人材が定着しやすい環境作りが企業に求められています。
 
そうした中で、従業員のウェルビーイングを重視する企業が増えてきています。
 
従業員にとって“肉体的、精神的、社会的に満たされた状態”を目指すウェルビーイングの取組と“働く人々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会”を目指す働き方改革は、相互に深く関係していると言えます。
 
この働き方改革は2016年9月に“働き方改革実現会議”が設置されたところから始まり、2017年3月には“長時間労働の是正”、“柔軟な働き方がしやすい環境整備”など9分野における具体的な方向性を示した“働き方改革実行計画”がまとめられました。
 
そして、2018年6月に“働き方改革法案”が成立し、2019年4月から“働き方改革関連法(働き方改革を推進する為の関係法律の整備に関する法律)”が順次施行されています。
 
このように、働き方改革は政府主導による国全体の取組です。
 
働き方改革関連法は、以前から存在していた労働関連の法律に加えられた改正の総称です。
 
労働基準法、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、じん肺法、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法、労働契約法、雇用対策法を総称したものであり、新たに働き方改革関連法という法律ができたわけではありません。
 
働き方改革関連法の施行による変更点として、大きく以下の11個の項目を挙げることができます。
 
①時間外労働の上限規制の導入

臨時的な特別な事情がある場合を除き、原則として残業時間(時間外労働)の上限が“月45時間、年360時間”となりました。

なお、臨時的な特別な理由があり労使の合意がある場合でも“年720時間”、“複数月の平均残業時間が80時間”、“月100時間”などの上限を超過した場合には刑事罰が課せられます。
 
②勤務間インターバル制度の導入促進

“勤務間インターバル制度”は、勤務終了から翌日の出社までに一定時間以上の休息期間を確保する為の仕組です。

労働時間等設定改善法の改正により、企業は“勤務間インターバル制度”の導入促進についての努力義務が明記されました。
 
③年5日の年次有給休暇の取得

労働基準法の改正により、年次有給休暇の確実な取得が定められました。

10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、年に5日間の年次有給休暇を労働者に取得させることを使用者に義務づけています。
 
④月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ

従来、月60時間を超える残業(時間外労働)は“大企業50%”、“中小企業25%”の割増賃金率が定められていました。

2023年4月からは、中小企業においても大企業と同様に割増賃金率が50%に引き上げられています。
 
⑤労働時間の客観的な把握

労働安全衛生法の改正により、労働時間の客観的な把握が義務付けられました。

尚、労働時間を把握する対象は、裁量労働制が適用される労働者や管理監督者なども含みます。
 
⑥フレックスタイム制の清算期間延長

“フレックスタイム制”における労働時間の清算期間が、1ヶ月から3か月に延長されました。

これにより、従来よりも長い期間(3か月以内)の総労働時間の範囲内で、労働者が柔軟に労働時間を調整することが可能になりました。

⑦高度プロフェッショナル制度の導入

職務範囲が明確で一定以上の年収を有する労働者が高度な専門知識を要する業務に従事する場合、一定の条件を満たす場合に限り労働基準法の規定に縛られない自由な働き方を認める“高度プロフェッショナル制度”が導入されました。

尚、同制度の適用には労使委員会の決議および本人の同意が前提となります。
 
⑧産業医・産業保健機能の強化

労働安全衛生法の改正により、労働者の健康確保対策の強化及び産業医の活動環境の整備など、産業医・産業保健機能の強化が事業者に求められます。
 
⑨不合理な待遇差の禁止

雇用形態による不合理な待遇差を設けることが禁止されています。

“同一労働同一賃金”の考えに基づき、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の待遇差を解消することが目的です。
 
⑩労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

従来、短時間労働者や派遣労働者に対する説明義務規定は存在しましたが、有期雇用労働者への説明義務規定が存在しませんでした。

パートタイム・有期雇用労働法の改正により、有期雇用労働者に対しても待遇内容や考慮事項に関する説明義務が定められました。
 
⑪行政による事業主への助言、指導等や裁判外紛争手続(行政ADR)の規定の整備

待遇に関する説明義務と同様、従来は有期雇用労働者についての“行政による履行確保措置”の規定が存在しませんでした。

改正により、有期雇用労働者についても行政による履行確保措置の規定ができています。
 
働き方改革の課題としては3つ…“長時間労働の是正” 、“正規・非正規の格差解消”、“高齢者の就労促進”が挙げられます。
 
働き方改革の実現にあたり、解消しなければならない課題の1つが長時間労働です。
 
日本では“遅くまで残業すること”や“休まず働くこと”を美徳とする風潮があり、長年に渡って長時間労働が常態化していました。

しかし、長時間労働が常態化した環境では、働き手にとって出産、育児や介護との両立が難しく、場合によっては重大な健康被害を招く恐れもあります。

より多くの人々がワーク・ライフ・バランスを実現しつつ、健康的に働ける環境を作る為には長時間労働の是正は不可欠と言えます。
 
正規・非正規の格差解消もまた、働き方改革の課題の1つです。
 
日本国内における正規・非正規社員の賃金格差は、欧米諸国の水準と比較しても大きいと言われています。
 
こうした雇用形態の違いによる処遇の格差は、人々の就労意欲や生産性の低下を招きかねません。
 
働き方改革によって正規・非正規という雇用形態による格差が解消されることで、就労意欲がある人々が主体的に働き方を選べるようになり、働くことへのモチベーション向上や生産性向上にも繋がると考えられています。
 
深刻な労働力不足を解消する為には、生産年齢人口に含まれない高齢者の就労促進も大きな課題になります。
 
内閣府が公表している“令和2年版高齢社会白書”によれば、現在仕事をしている60歳以上の人の約4割が“働けるうちはいつまでも働きたい”と回答しています。
 
“70歳くらいまで”もしくは“それ以上”という回答も合わせると、約9割が高齢期以降も就業したいと考えていることが示されています。
 
このような就業意欲を持つ高齢者が働ける環境を整えていくことも、働き方改革を実現する上で必要になります。
 
ここまで働き方改革について、お勉強してきましたが、現状はほとんど、それ以前とあまり変わっていない場所が多いと思います。
 
その中でも、サービス残業なんてものは、やはり日本の文化として根強いと思います。
 
国や企業が残業の管理を徹底したところで、従業員が自主的にサービス残業をしてしまっていては意味がありません。
 
自主的な残業は基本的に労働時間と見做されませんが、業務量が多い場合は暗黙的指示として労働時間に該当し、残業代が支払われていなければ違法になります。
 
また、勝手な持ち帰り残業で情報漏洩が起こる可能性もあるので、注意が必要です。
 
サービス残業は適切な賃金が支払われない時間外労働を指すもので、“従業員がサービスする”という意味合いからこのように呼ばれます。
 
しかし、労働基準法第32条では、労働時間は週に40時間、日に8時間を超えないように定められており、この時間より長く働く場合は“時間外労働”とされて割増賃金の支払いが必要になります。
 
尚、終業後に残って働くだけではなく、始業前の労働も同様に時間外労働として扱われます。
 
法定時間を超えていても正当な賃金の支払いをされない状況がサービス残業であり、労働基準法の重大な違反行為です。
 
企業が従業員を所定労働時間内で勤務させ、残業が発生した際は正当な割増賃金を支払うように心がければサービス残業は発生しません。
 
しかし、サービス残業は現在も多くの職場で黙認されているケースがあります。
 
このようなケースでは企業が従業員にサービス残業をさせるつもりがなくても、現場の運用で恒常的にサービス残業をしなければならない状況になってしまっている場合もあります。
 
サービス残業のうち、非常に多いのが勤務時間を過少に申告するケースです。
 
“通常の終業時刻にタイムカードの打刻だけをさせられて、そのまま働き続けますが、タイムカード上は勤務時間として記録されていないので、書類上は残業していないことになっている”…という状況です。
 
多くの場合、上司が勤務時間の過少報告を命じているケースは少なく、企業内のルールで残業が禁じられていたり、残業時間によって評価が落ちる可能性がある場合に、仕事の終わらない従業員が自主的に過少申告したりするケースが多いと考えられます。
 
賃金請求権は従業員の意思があれば放棄できるので、このようなサービス残業の場合は、その従業員が賃金請求権を放棄したと考える企業もあります。
 
しかし、一般的に従業員が自分の意思で残業代を放棄することは考えづらいので、何かしら背景に環境の問題があると考えられ、多くの場合は従業員の自由意思に基づいていないと判断されて、残業代を請求する権利を放棄させることはできません。
 
企業によっては、残業時間を15分や30分などの一定単位で区切り、範囲に満たない端数時間を切り捨てる方法を採用しています。
 
しかし、本来、勤務時間は1分単位で数えるものであり、一定時間に満たない勤務時間を切り捨てることは賃金全額払いの原則に違反します。
 
勤務時間の端数切捨てを認めると、30分区切りであれば毎日29分のサービス残業になるので、2日で1時間近く無給での勤務をさせることが可能になってしまうからです。
 
尚、端数切捨ては違法になる一方で、切り上げであれば従業員の不利にならないので事務の簡便化目的で認められます。
 
また、1ヶ月分の勤務時間を計算する際に生じた1時間未満の端数は、30分未満ならば切捨て、30分以上ならば切り上げることが認められています。
 
朝に誰よりも早く出社する従業員は、いかにもやる気があるように見えます。
 
このように、朝早く来てきちんと準備をすると業務効率も上がるので、企業としてはそのような従業員が増えてほしいと思うはずです。
 
しかし、上司など上位のポジションの人がこのような働き方を推奨することで、誰もが朝早く来なければいけない雰囲気になってしまうケースがあります。
 
このような早朝勤務も時間外労働に含まれるので注意が必要です。
 
朝早く来て業務を開始している場合は、残業代を支払わなければサービス残業に該当します。

最近では業務後の残業については世間の目が厳しくなったので、勤務時間前のサービス残業が増える傾向もあります。

日本では、管理監督者に残業代を支払う法的義務はありません。
 
その為、実際には法律上の管理監督責任がないのに役職だけ管理職になっている“名ばかり管理職”が問題視されています。
 
通常の管理監督者には、経営面に関与できる立場であることや業務量、時間に裁量があること、収入が他の従業員と比べて高いことなどの管理監督者としての地位や待遇が与えられますが、他の従業員と同じような待遇でありながら“管理職”の肩書を持つ為に残業代を支払わずに時間外労働をさせているケースがあります。
 
企業側が故意に悪用しているケースもありますが、法的に定められている管理監督者と企業が認識している管理監督者の間に大きな違いがあり、結果的に名ばかり管理職になっている…という場合もあるようです。
 
“みなし残業”も場合によっては問題があります。
 
あらかじめ一定の残業時間を定めて、その分を毎月の基本給に加えて支給する制度です。
 
20時間分のみなし残業代がある場合、毎月20時間分の残業をしてもしなくても基本給と合わせて、“みなし残業”代が支給されることになります。
 
このような制度は、残業代を細かく計算しなくても良いメリットや、仕事を効率的に早く終わらせる働き方に繋がるメリットがあります。
 
しかし、“みなし残業”制度があることで残業が常態化し、勤怠管理が疎かになった結果、実際はみなし残業分を超えて残業をしていたというケースもあるので注意が必要です。
 
“サービス残業をしなさい”と言われれば、誰だって、従業員は嫌だと思います。
 
しかし、場合によっては従業員が自分からサービス残業をすることはあります。
 
過剰な業務量や業務意欲の高さなどが主な理由ですが…家に帰りたくない人もいるのかな?…、理由がどうであれ、サービス残業は労働基準法の違反行為です。

従業員がサービス残業をしたがる状況やしなくてはならない理由がある場合、企業側で把握して対策を講じなければなりません。

1人の従業員が受け持っている業務量が多すぎることから、責任感から自主的なサービス残業をするケースが少なくありません。
 
このようなケースでは通常の勤務時間中に仕事が終わらず、翌日以降に持ち越すと更に負担が大きくなるので、残業で終わらせるしかない状況に陥っていることが多いです。
 
企業として業務を適切に割り振れていない場合や従業員自身の意欲や責任感に由来する場合があります。
 
サービス残業防止の為には業務割り振りの見直し、従業員の増員、従業員の意識改革などを行う必要があります。
 
営業などの職種で多いのが、“勤務時間以外の時間帯に取引先と打ち合わせる必要がある為、サービス残業をする”というケースです。

打ち合わせも業務ですから、勤務時間外に行う場合は残業代が発生しますが、“社内での業務ではないから”と、残業を申請しないと考える従業員もいるようです。
 
また、日常的に勤務時間外に打ち合わせる必要がある場合は業務運営自体を見直す必要があります。
 
上司から高く評価されることを目的にサービス残業をする場合もあります。
 
なるべく多くの成果を出すことが目的の場合もありますが、多くの場合は、上司が“よく働く部下”を評価する指導方法をとっている為に、部下がそれに応えようとしているケースが多いです。
 
このような状況の企業では従業員が許可を得ずに残業をしたり、持ち帰りの自宅勤務などをしたりする傾向があります。
 
自主的なものであってもサービス残業は企業にとっては違法行為になります。
 
その為、従業員が良かれと思って行ったサービス残業によって結果的に上司や企業、あるいは本人が処分を受ける可能性もあります。
 
また、持ち帰って仕事をする場合は機密情報漏洩のリスクも考えられます。
 
企業側は管理職がしっかりマネジメントができるように指導し、従業員は勤務時間中の業務で評価を得られるようにすることが重要です。
 
従業員に自主的なサービス残業をやめさせるには、最初にその従業員がなぜサービス残業をしているのかを把握する必要があります。
 
サービス残業は労働基準法における違法行為であるだけではなく、対価の得られない労働が続けば従業員の心身の摩耗に繋がります。
 
企業としてはサービス残業を厭わないほどの責任感ある従業員なら、この先も長く働いてもらいたいと思うはずです。
 
その為に適切な対策をして、サービス残業が必要のない労働環境を整える必要があります。
 
サービス残業は企業の制度上の問題ではなく、現場での運用上の問題や、管理職や従業員の意識の低下から発生することが多いとも言われています。
 
このようなサービス残業が恒常化している職場は、マネジメントや労働環境に重大な問題があると考えて改善策を整備していかなければなりません。
 
この改善策は、業務量だけでなく、評価制度や、従業員の増員、勤怠システム、業務効率化など…幅広い領域でやらないといけません。
 
労働量に対して正当な割増賃金が支払われる社会は、結果的に企業にも良い影響があるはずです。

社内の立場や役職を問わず全員がサービス残業をしないで済むような体制を作ることが重要です。
 
働き方改革への取組が日本でも本格化していますが、働き方のロールモデルとされるのがドイツなどのヨーロッパの国々です。

今回はあえてドイツではなく、北欧のフィンランドについて少しお勉強してみます。

フィンランドでは、ほとんど残業はなく、有給休暇は完全消化しています。

夏休みを1カ月もとるのに、1人あたりのGDPは日本人の約1.25倍、マクロ経済(政府、企業、家計を一括りにした経済社会全体の動き)の安定性や制度で世界1位になっています。
 
そして、世界幸福度ランキングでは毎年1位という、ワーク・ライフ・バランスがしっかりした国です。

フィンランドの企業は始業は8時と早めのところが多いですが、その分、終業も早く16時半を過ぎると仕事場にはほとんどの人はいなくなります。
 
国民全体で共有する意識が“1日8時間、週40時間以内の勤務時間は守られるべき”とはっきりしているからです。
 
繁忙期などでどうしても残業が避けられない時は直属の上司の許可が必要で、上司が部下に残業を求める場合は本人にその意思があるかを確認しなければなりません。

そして、残業に費やした時間はお金もしくは休暇として補償されます。
 
法律でも今日の終業と明日の始業の間に11時間の仕事のない時間(インターバル)を設ける…などの労働者が過労に陥らないように配慮されています。
 
日本の企業社会だと、定時に帰ることへの後ろめたさを感じさせる風潮があります。
 
それに比べて、フィンランド人は“人は人、自分は自分、規定の時間数を働いたら帰るのは当然”と考えています。
 
人口が少ないフィンランドでは、少ない人数で決まった時間に最大限の結果を出すことが求められます。
 
その為、長時間労働は避けつつ、効率性を追求する風土が根づいています。
 
例えば、“必ずしも人と直接会うことを重要視しない”ことです。

どちらかというと顔合わせを重視する日本人と違い、フィンランド人は必然性もなく会うことは時間効率の観点から好まない傾向があるようです。
 
その為、在宅勤務も広く普及しています。

メールか電話で済む用件なら、それで済まそうという考え方です。
 
同様に、書類仕事や業務プロセスをITの力で省力化するなどの工夫が得意なフィンランド人ですが、それでも限界はあるので“常に優先順位を考えて、重要度や緊急性の高いものからこなしていく”思考が身についています。

また“ウェルビーイング”を重要視しています。

ウェルビーイングは先述した通り、“身体的、精神的、社会的に良好な状態にある”という意味合いの概念で、職場においてはモチベーションや忠誠心などの向上も加わります。
 
更に創造性を生み出すにしても、ウェルビーイングは欠かせないという認識があり、フィンランドの企業は社員のウェルビーイング実現の為にフレックスタイムなどの柔軟な働き方、オフィス環境の改善、休憩のとり方に注意を払っています。
 
日本も働き方改革によって、このような状態に近づこうとしている段階ということになります。
 
ところで…日本もそうですが、働くと収入を得ます。
 
その中から、国にお金を持って行かれます。
 
でも、それは国民みんながより良い安全で安心な生活を送る為です。
 
北欧……特に、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧3カ国は、社会保障制度が充実していることで有名です。

所謂、福祉国家です。
 
福祉国家(Welfare State)とは、医療保険、社会福祉サービス、貧困層への補助などの社会保障制度の拡充を重視して、それを実現している国家のことです。
 
福祉国家として有名なのは北欧諸国(デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)ですが、実際には第二次世界大戦後の多くの西側先進国が福祉国家化しました。

イギリスが先頭を切り、アメリカやカナダ、日本、フランス、ドイツなども福祉国家でした。
 
しかし、福祉国家路線の政策は“恒常的な財政赤字”という問題を生み、各国が福祉国家路線に制限を加えざるを得なくなっているのが現状です。
 
その結果、大きな政府から小さな政府へ……新自由主義的政策に移行する国家が多くなりました。

新自由主義は、“小さな政府、市場の自由”を目指す考え方です。

主要産業が国有化されて公共事業が広く行われる“大きな政府”をやめて、様々な産業の民営化を進め規制緩和を行うことで、市場を活性化すべきであるという主張を持っています。

しかし、福祉国家路線の政策は大切なものだと思いますし、それを時代遅れのものとして切り捨てるのではなく、これからの時代にどうやって実現するべきかを考える事が大事になってくると思います。

なぜなら、私も含めて、いつ誰が社会的弱者になるか分からないからです。
 
弱者の立場に立つと“福祉”や“医療”が生きていく最後の命綱になります。

福祉国家は国民幸福度が高いことでも知られていて、一見すると理想的な国のように感じます。
 
しかし、手厚い社会保障は高い税金がなければ成り立ちません。
 
北欧の福祉は、“高福祉、高負担”と言われています。

良いサービスを受けるなら、高い税金や社会保険料を負担しなければならない…という考え方です。
 
これに対して、アメリカの社会制度は“低福祉、低負担”と呼ばれています。

基本的な生活は国民の自己責任とし、税金や社会保険料は安くなっています。
 
日本は今のところ、中途半端です。
 
北欧3国の福祉サービスや医療制度を支えているのが消費税です。
 
ノルウェーの標準消費税24%・食料品消費税12%、スウェーデンは標準消費税25%・食料品消費税12%、フィンランドは標準消費税22%・食料品消費税が17%となっています。
 
日本は標準消費税が10%で食料品消費税が8%なので、北欧の消費税がかなり高く設定されていることが分かります。
 
北欧3国の税金や社会保険料の高さは国民負担率からもわかります。
 
国民負担率は、税負担と社会保障負担の合計が国民所得に占める割合のことで、国民の負担を知る指標になっています。
 
2019年の国民負担率はノルウェー54%、スウェーデン56%、フィンランド61%です。

これに対して、日本の国民負担率は44%であり、やはり北欧3国の税金、社会保険料負担が大きいことが分かります。

こうした高い負担を課されている一方で、北欧3国では手厚い社会保障サービスが提供されています。
 
ノルウェーは消費税が高く設定されている一方、出産や子どもの学費が無料で提供されています。

日本と同じく高齢化が進んでいる国ですが、高齢者向け社会保障サービスを充実させる一方で元気な高齢者の社会参加を促す取組も行っています。
 
スウェーデンは子育て支援に力を入れている国で、児童手当と両親手当の両方が支給されます。

出産費用や20歳までにかかる医療費、大学の学費も無料で、病気や障害がある子どもには別途手当が支給されます。
 
フィンランドは教育大国として知られており、大学までは無料で教育が提供されています。

学力格差を極力なくすことで国全体の力を底上げするのが狙いで、教育制度や設備が非常に充実している国です。
 
北欧3国は税金や社会保険料が高いですが、“国が責任を持って国民の面倒をみる”という考えによって政策が行われています。
 
学費や医療費の無料化、各種手当や援助など、国民にわかりやすい形で社会サービスが提供されているので、負担が大きくてもその見返りが実感しやすくなっています。
 
また、政府や役所の透明性が高く、高い負担率にも関わらず不満が出にくいと考えられています。
 
これに対して、日本では税金の使途や増税の理由が明確になっていないことが課題になっています。
 
待機児童問題や年金受給開始年齢の引き上げ、生活保護費削減など、国民が公的サービスを実感しにくくて、生活の現状や未来に大きな不安を持っています。
 
だからと言って、おそらく、北欧の社会制度が素晴らしくて日本が劣っている…ということではないのかなと思います…思いたい…。

考え方や政治体制が異なることを理解しておく必要があります。

人口を見ても、大きく違います。

日本は東京だけで1400万人ほどいます。
 
国の土地面積が非常に小さいので、人口密度が大きいということが特徴の国になります。
 
それに比べて北欧はノルウェー542万人、スウェーデン1044万人、フィンランド551万人、デンマーク581万人、アイスランド36万人…合計しても2754万人です。
 
このように日本と比較してみると、北欧が小さい地域であることがわかります。
 
それでも、IKEAやLEGO、Spotify、marimekko、Mozなど様々な分野で世界を牽引する企業、ブランドが数多くある豊かな国々です。
 
北欧3国の充実した社会保障制度は非常に魅力的に映りますが、実現する為には当然、大きな国民の負担が必要になります。
 
そして、北欧の社会保障制度をそのまま日本に持ってくれば良い…というのも短絡的なのかもしれません。
 
上記のように、北欧の社会は教育や基本的な社会保障、福祉が無料で充実しています。

一方で、基本的には税率が凄く高いです。

なので、経済的自由は制約されていると考えられます。
 
たくさん稼いだとしても、その分、たくさんの税金を国に持って行かれます。

それでも北欧の国々は福祉国家として君臨しています。
 
政府に対する国民の信頼が厚いからです。

そうでないと、国民は高い税率を受け入れられないはずです。
 
日本でも税率を引き上げて福祉を充実しようという議論が時々出てきますが、税金をたくさん持っていかれて、いい加減に使われたり、どう使ったかわからないようでは困ります。
 
森友学園問題や加計学園の問題、昨年の元総理大臣の国葬費用の公開だってまともにできないなど…の最近の統計不正などを見ても、公文書やデータを隠蔽や改ざんをする政府や省庁では信頼できるわけがありません。
 
黒塗りが多すぎるというか…、なぜ、国民に向けて公表するものなのに、黒く塗らないといけないのか…頭の悪いガキがやるようなことです。
 
どうして、学歴高い凄い人たちが平気でやってしまうのか…そんな学歴は必要ない。
 
あの黒塗り…モザイクは、日本の伝統芸…マーガリン塗ってこすったら消えたりして…。

話が逸れてすみません。
 
日本の問題点は、寛容、不寛容にも通じる“信頼関係の欠落”にあるのだと思います。
 
働き方改革……、日本独自の文化とも言える“年功序列”、“終身雇用”、“新卒一括採用”、“サービス残業”といった規範も徐々にですが見直され始めてはいます。
 
しかし、まだまだ課題は山積みです。

就職活動も就職難の氷河期時代には意味のある制度だったはずです。

しかし、時代は変わってきていて、古いしきたりや制度によって失われる時間や人材がないように、柔軟に時代の変化に対応していくことが求められます。
 
自分の好きなことを仕事にできている人なら良いのですが、それが出来ない人がほとんどだと思います。
 
それなら仕事に時間をかけるのではなく、プライベートを充実させた方が良いと思います。
 
生産性を上げるなら、まずは自分を大切にしなければいけません。
 
仕事なんて1日24時間のうち8時間しかしてないわけで、寝る時間が8時間だとして、あと8時間は自分の時間です(今の時代は、残業制限が設けられているので、少なくても6時間ぐらいはフリーです)。
 
1日多くて10時間仕事して、残り14時間は完全にリセットすれば良いわけです。
 
それが週7日間のうちの5日間として、残りの2日は完全に自分の時間です。
 
週168時間のうち仕事50時間として、仕事なんて生活の3分の1にも満たないわけです。
 
そうではない人はブラックな仕事場に居るということです。
 
未だに月に100時間残業やったり、休日出勤したりしなきゃいけない人が居ます。
 
そしてその場合、全ての報酬があるわけではなく、ほんの1部だけとか全てサービス残業になっている人もいます。
 
そうでもしないと運営できないなら、その事業所は閉じた方が良いのだと思います。
 
それは利用者や従業員の為にもなりますし、何よりも社会の為になります。

社会の為になる…企業の本望でしょう。
 
何度も言いますが、日本の問題点は、国と国民ひとりひとりや、企業と従業員ひとりひとりの“信頼関係の欠落”にあるのだと思います。

仕事なんて、人生の中心ではなく、ほんの1部だということです。

仕事で苦しんでいる人には、まずはこう開き直ってもらって、そこから人生を立て直してもらいたいものです。

今とは違う、たくさんの生き方の選択肢があるはずです。


写真はいつの日か…恵庭市で撮影したものです。
 
 


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