見出し画像

【レポート】写真展 「所有者の視点から見た文化財 〜京都 世界遺産 栂尾山高山寺〜」

ヘリテージデザイン×無鄰菴 vol.1 写真展
「所有者の視点から見た文化財 〜京都 世界遺産 栂尾山高山寺〜」

開催概要
開 催 日 2020年8月11日(火)~9月13日(日) ※8月27,28日は展示休止
開催時間 9:00~18:00
会 場  無鄰菴 洋館1階
写真・空間デザイン 相模友士郎

京都の無鄰菴洋館1階で、ヘリテージデザイン初回の展示イベントはじまりました。その様子をレポートします。

前回のインタビューにご登壇いただいた栂尾山高山寺さまの境内地や、日々のお勤めの様子を捉えた写真を、コンテンポラリーな空間デザインで展示しています。写真と空間デザインは、舞台芸術作家でもある相模友士郎さんが担当。

画像1

まず目を引くのが、一段高くしつらえられた舞台状の床の上に、一面に敷き詰められたA1サイズの写真23枚。いろいろな方向に向けて並べられており、周囲を歩きながら見ていく構成です。

画像2

歩きながら見ていくことで、ひとつひとつの写真に記録されたお寺の時間が、見ている人のスピードで目に入り、また、隣り合う写真同士のつくりだす物語も、見ている人それぞれの連想によって歩行とともに多様に広がります。

写真の上には、高山寺山中で採取した山水や、近隣の清滝川の石や土などの現物が配置されています。これらは高山寺という写真の中の場所と、いまここで展示を見ている洋館の空間を飛び越えてつなぎます。

画像3

写真の印刷には、建築図面の簡易的な印刷によく使用されるインクジェットプリンター(プロッター)とロール紙を使用しています。

画像4

また、会場では、高山寺境内で明け方や正午ごろなど、複数の時間に録音された音源を重ねて、小型スピーカーからループ再生しています。時折聞こえる境内の砂利道を歩く音や、ヒグラシの鳴き声、国道を車が通りすぎる音と、無鄰菴の洋館の外から聞こえてくるせせらぎや、セミの声が重なりあいます。

それらの展示物を、天井からつるされた平面的な蛍光灯の光が照らし、洋館の窓から差し込む陽光の傾きと対照をなして、時間の重なりの感覚をさらに増します。

価値を伝えるために、新たな価値を創りだすこと

写真展示という枠組みを使って、ある文化財の存在を伝える方法はいろいろあります。例えば写真自体に映ったものにすべてを語らせる方法もあり、あるいは写真と書かれた言葉を並置して展示する方法もあります。

今回は、高山寺という文化財が「場所」としていまもリアルに(同時に)ありつづけていることを、高山寺に行ったことがない方にも伝わる展示にしたいというオーダーを相模さんにはお願いしました。それが、どのような思考過程で表現に至ったかは、会場内で配布しているパンフレットに記載された文章(下記↓の引用)にあります。

価値を伝えるためには、新たな価値を生み出す必要があると考えます。

ヘリテージデザイン、リアル空間での第1回目の試みでした。

これからご来場の方にアンケートをとって、そのご反応を、またこのページで追ってレポートします。

文責:ヘリテージデザイン 山田咲

展示へ向けて|Toward the Exhibit
 どこかへ出向き、その場所を体験するとき、私たちは視覚・聴覚・嗅覚・触覚、あるいは味覚といった身体の知覚をフル稼働して「場所」を記憶し、経験しています。このようにして「場所を経験する」とは、複数の知覚を入り口にしてその場所へ参入して行くことに他なりません。
 現在私たちはCOVID-19というウィルスに向き合わざるを得ない事態に直面し、それと共に遠隔地で体験可能な映像による視覚情報の経験の幅はより強化されてゆくだろうと思います。しかし、これはこのコロナ禍でようやく起き始めた出来事ではなく、スマートフォンの普及とともに私たちは自由に映像や写真を撮ることができ、インスタグラムなどのSNSでそれらを簡単にシェアすることが可能な社会に生きています。
 それと共に視覚情報の優位性は徐々に高まりを見せ、コロナ禍でのオンラインによる映像の必要性と共にモニタのみが外界に通じる唯一の窓になってゆく現状があるように感じています。
 しかし、視覚という一つの入り口が優位性を持つとき、複数の知覚を入り口とした「場所の経験」は入り口を閉ざされ、豊かさを失ってしまうのではないかという危機感を持っています。
 写真は視覚に依存するメディアです。それは視覚という一つの入口によって経験されるメディアである事を意味します。しかし、今回の展示では、コロナ禍へのささやかな抵抗として、写真のみならず複数の入り口を作る事を空間デザインの基礎とし、写真・音・オブジェクト・鑑賞者が並置され、相互に補完し、相互に齟齬を生みながら複数の「場所の経験」が生み出される事を期待しています。
 どこかへ出かけることをなかなか勧めにくいご時世ですが、この展示が高山寺へ出向くあなたの入口になれば幸いです。
2020 年8月4日/相模友士郎(写真・空間デザイン)

展示会場で配布しているハンドアウトは、こちらからもご覧いただけます↓

※無鄰菴洋館1階は、通常はお庭の解説資料や庭師の映像が流れているレクチャールーム的な展示スペースです。展示期間中は、同じ資料や映像を、場内の別な場所で手に入れていただくことができるようにしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?