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私の卒論公開!はじめての「アール・ブリュット」。 【障害が絵筆に変わる。アーティストの表現の世界 編】

こんにちは。ヘラルボニーの「ふかさわかほ」と申します。
東京都出身、現在は岩手県の盛岡市で働く入社1ヶ月の新卒ってやつです!


実はこれから公開するのは、私が実際に書いていた卒業論文の一部なんです・・・前回、第1回目として【アール・ブリュット編】を公開しました!

今回の第2回目では、 【障害が絵筆に変わる。アーティストの表現の世界編】として、私が感じたアーティストの表現の世界や、その世界に関わる方々から感じたことについてお話ししようと思います。
そして、実際に見学させていただいた岩手県にある「るんびにい美術館」さん、そしてヘラルボニーの紹介もさせていただいています。

ヘラルボニーに出会ってはじめて知った、知的障害のある方が描くアートの存在、個性豊かなアーティストの存在、そして彼等が活動しているアトリエの存在。

"異彩を、放て。"
この異彩の世界が私の心に残ったように、"異彩"の世界が伝わるように、続きを書きます。

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障害の定義と特徴


⑴ 精神障害 
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律によると、精神障害者は『統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう』と定義されている。

⑵ 知的障害
 知的障害者福祉法に知的障害の定義に関する規定はない。これは、程度の判定が自治体の裁量に委ねられているからである。
 主な特徴に「言葉や身体の発達が遅い」「コミュニケーションがうまく取れない」「日常の行動に時間がかかる」「自分なりの独特な手順・こだわりがある」などがあげられる。

⑶ 発達障害
 発達障害者支援法によると『「発達障害者」とは、発達障害のあるものであって、発達障害及び社会的障壁(発達障害がある者にとって日常生活または社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)により日常生活または社会生活に制限を受けるものをいう』と定義されている。
乳児期・学童期・成人期において内容が変化していくことが多い。

※「ダウン症候群」は知的障害を合併していることが多いため、知的障害に含まることがほとんどだが、知的な障害はなく精神的な障害との合併も多いのが現状である。合併している障害により区分が異なるため、ここでは精神・知的・発達と区分することなく別途で記載する。

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特徴的な表現方法

「知的障害のある方が描くアート」に関わる人たちの言葉


 はじめに記載している通り、短い時間ではあったが私自身が知的障害のある方が描くアートに関わったことがあった。その経験、そして周りの方々から感じたことは「障害のある方が描いたアート作品には人を引き付ける何かがある」ということを、アートに関わる多くの人が皆共通して感じているということだったように思える。以下、知的障害のある方が描くアートに関わる方々の考えを記載させていただく。

岩手県花巻市にある「るんびにい美術館」には、様々な障害のある方が制作活動をしているアトリエがある。アートを描く人、織物をする人、パソコンに単語を打ち続ける人など、活動自体も様々だ。るんびにい美術館の紹介文章の一部にも次のような言葉があった。

世の中で流行しているスタイルや、美術史にとらわれず、「いま・ここ」の自分自身の奥深くから湧き出してくる表現。周りのことも、自分のこともすっかり忘れて、ただ一点を深く深く見つめることから生まれた表現。それはもしかしたら、美術でも、アートでもないかも知れない。でもそんなこと、どうでもいい。 その存在のあるがままが、まっすぐ現れたような。その命の鼓動がそのまま伝わってくるような。そんな表現を、たくさんの方にお伝えしたいと思っています。』

そして知的障害のある方が描くアートを、様々な形で世に送り出す活動をしている会社もある。その会社のページにあったのが以下の言葉である。

異彩を、放て。知的障害。その、ひとくくりの言葉の中にも、無数の個性がある。豊かな感性、繊細な手先、大胆な発想、研ぎ澄まされた集中力… “普通”じゃない、ということ。それは同時に、可能性だと思う。

僕らは、この世界を隔てる、先入観や常識という名のボーダーを超える。そして、さまざまな「異彩」を、さまざまな形で社会に送り届け、福祉を起点に新たな文化をつくりだしていく』そして、このような言葉も綴られていた。

彼等だからこそかけるものがある。「強いこだわり」は一見すると障害の特徴であるが、アートを通してその特徴一つ一つが絵筆に代わっていく。つまりは障害そのものが絵筆に代わっていっている

上記の言葉からも知的障害のある方が描くアートに関わる人は皆、障害のある方の描く世界観や描き方に、他では感じられないようなものを感じているのが分かる。特に知的障害や発達障害で特徴とされる「強いこだわり」や「繰り返し」というものが作品に表れているものが多いのではないか。次の場面で、一人の作品を見てみようと思う。


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アーティスト紹介

 アート作品を描いている方は、障害の種類、特徴が人それぞれである。もちろん、描く作品も、こだわりも違う。例えば、絵のみならず織物、切紙、刺しゅうなど、いずれも緻密で色彩と構成の妙に富む様々な表現を行い、何かの拍子に作風が変化、今は丸を毎日描き続けている人。はたまた一見抽象的な幾何学パターンを描いたように見える絵だが、その作品がすべて独自のアレンジで描かれた建築物であり、子供の頃から半世紀余りにわたってこのただ一つのスタイルで創作し続けて来た人など、個人のこだわりが詰まった作品がたくさんある。そんなアーティストの中から、今回は一人だけ紹介させていただこうと思う。

 小林覚さんは、知的障害のあるアーティストの中でも有名な方の一人である。以下、彼の紹介と作品を記載する。
小林さんは10名ほどの利用者が創作活動を行うアトリエで活動している。にぎやかな周囲とは少し違って、彼はヘッドホンをしたまま自身の世界に入り込んでいく。親しい人に背中を描いてもらうと、いつも以上に伸びやかな作品が出来上がるという。
小林さんの描く作品は一見すると、曲線と直線が複雑に絡み合った抽象画だ。力強い線が交差した図面がところどころだが、明るい色調でカラフルにベタ塗りされ、楽しげな印象がある。しかし、何かに引っ掛かりその既視感の正体をたどっていくと、それが「文字」であることが分かった。描くモチーフは、ポップスの歌詞や地名、万葉集に収録された和歌などの「文字」である。アルファベットやひらがな、漢字を、水性ペンやクレヨン、筆などを使って独特な造形に表していく。下書きはせず、線の伸びる方向は即興的だが、独自の法則に則ったペンの動きには迷いがない。『聴いている音楽を絵に表しているというより、音楽は音楽、造形はあくまでも文字に基づいた造形なんだと思います。曲調によって作風が変化することもないんです。けどやっぱり、“楽しいな”と思っているのは、顕著に表れますね。絵がもう、踊ってるみたいになる』とアトリエの方は述べている。小林さん自身も文字と遊んでいるのかもしれない。そして、アートの始まり方もまた謎が多く面白い。養護学校中等部在学中、学習ノートや日記、テストの回答用紙も不思議な文字で書くようになった。周囲が正そうと試みた時期もあったが、当時の教諭がこの文字をアートとして肯定したことで才能が開花した。

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小林覚「夏の魔物」
 
小林覚さんの好きな音楽家はビリージョエル、クイーン、井上陽水、スピッツ、THE ROOM。この「夏の魔物」という作品は小林さんが大好きなアーティスト、スピッツの『夏の魔物』という曲の歌詞が描かれている作品である。スピッツのアルバムの中から選ばれた歌詞を好んで書いていた時期に描かれた。


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小林覚「数字」
 
この「数字」という作品は名前の通り、作品の中に4,6,8…と様々な数字が隠れている。初めは文字や数字を繋げて描いていたが、時間の経過とともに色を加えていくようになったという。小林覚さんの作品の中でも代表作の一つにあげられる。

 改めて、知的障害のある方々が描くアート作品は、独創的な雰囲気と創造性、そして障害の特性と言い切れるかは定かではないが、特性であるかもしれない「個人の強いこだわり」と「繰り返し」の表現というものが存在している。例えば小林さんの場合は、すべての文字や数字が繋がっていくという彼自身の強いこだわりと、この作風が大きくは変化せず、描き続けるという「繰り返し」の日常である。知的障害のある方が描くアートには、その特性による独自の表現方法などが顕著に表れているということは、このアートに関わる方々、そして私自身も強く感じていることである。


次回、最後になります。
私の卒論公開!「はじめてのアール・ブリュット」。【 新しい扉の入り口。そして私が学んだこと 編】


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自然生クラブのアーティストが描いたアート作品をNORA HAIR SALON(南青山)にて展示中。購入も可能です。
 →https://note.com/heralbony/n/n369d0f18cf68 

◉ 株式会社ヘラルボニー(コーポレートサイト)
  http://www.heralbony.jp

◉ HERALBONY(アパレル)
  http://www.heralbony.com

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