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灼かれてしまうほどに高い密度で異彩を放つ。変化していく岩瀬俊一の制作に迫る。

岩手に居を構える、今春オープンしたばかりの「HERALBONY GALLERY」。第3回企画展の主役は、水彩ペン一本で人を圧倒する作品を描く岩瀬俊一さんやまなみ工房|滋賀県)だ。

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緻密な線描によって描き出された動物や植物たちは、極端に平面的でありながら、独特の装飾性を以て、私たちをエキゾチックな世界観に誘いこむ。

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ギャラリーの中でいっそう異質な輝きを放つ、岩瀬さんの作品群。
その光源に近づくため、今回は岩瀬さんご本人と副施設長長の早川さんにお話を伺った。

目次
01|アイドルへの憧憬を線の一本に込めて
   ——展示作品への思い入れ
02|羨望から実践、動物から人物、そして色のある風景へ
   ——展開していく世界観
03|楽しく描いて遊びまわろう
   ——展示と未来への抱負
04|最後に

アイドルへの憧憬を線の一本に込めて——展示作品への思い入れ


——今回HERALBONY GALLERYで、岩瀬さん単独の展示が開催されることについてどのように感じられていますか。

早川:岩瀬さんは緊張しいなので、念のため事前に職員からも質問をしていたのですが、今回の企画展について「すごく嬉しい」とお話されていました。

——今回展示している作品で岩瀬さんのお気に入りの作品はどれですか?

早川:事前にお聞きしたところ、岩瀬さんのお気に入りの作品は三つあるそうです。まず最初は「ちょうちょ」。二つ目は「きれいなお姉さん」らしいです。

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「ちょうちょ」
2016年/紙・水彩顔料ペン/767×1087mm

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「きれいなお姉さん」
2014年/紙・水彩顔料ペン/767×1087mm

——「きれいなお姉さん」シリーズは、結構昔にたくさん描かれていた、岩瀬さんにとって思い入れのある作品なのではないかと思います。当時はどのように制作されていましたか?

早川:もともと岩瀬さんは、アイドルやタレントが好きで、それをイメージして制作されています。「きれいなお姉さん」シリーズの他にも「イケメン」というタイトルで、男性をモチーフにした絵もいくつか描いています。

——…面食い、なんでしょうか?

早川:そうかもしれません(笑)
三つ目のお気に入りは「爬虫類と愉快な仲間たち」だそうです。この三つの中でどれが一番好きですか?

岩瀬:……。(微かに手元を見られる)

早川:これ?これが一番ベストだそうです。

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「爬虫類とゆかいな仲間たち」
2019年/紙・水彩顔料ペン/767×1087mm

羨望から実践、動物から人物、そして色のある風景へ——展開していく世界観


——岩瀬さんが絵画作品を描かれるようになったきっかけは何でしょうか。

岩瀬:(早川さんに耳打ちされる)

早川:他の利用者さんが描いているのを見て、自分も絵を描きたくなったそうです。工房に通所されて一年後くらいですかね。もともとは作業と創作を両立するグループにいたのですが、そこで絵を描かれているのが楽しかったようです。

——それからはコンスタントに作品を作り続けている?

早川:そうですね。「もっと絵を描きたい」という想いを岩瀬さんから言っていただいたので、創作がメインのグループに移動して、それ以来飽きることなく、ご自身のペースで作品を描き続けています。

——動植物の他に人物画も多く手掛けられている印象ですが、作品のモチーフやタイトルはどのように決められてますか?

早川:昨日岩瀬さんから返ってきた答えとしては、単純に人物を描く時期が長くて、でも最近はまた動物を描きたくなってきたそうです。

——なるほど?

早川:こちらから補足させていただくと、昔(のグループにいたとき)は動物図鑑を見ながら描かれていました。フクロウやトラとかですね。
そこから次は「自分が好きなもの」を描こうかということになり、(岩瀬さんはAKB48などのアイドルが好きなので)人物画が増えていきました。
最近では色も使い始めたので、また「変化の時期」かもしれないですね。

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——人物画を描くときは、写真などを参考にされていますか?

早川:一応、本や雑誌、写真は見られていますが、それをそのまま描こうとされたことは無いです。あくまでイメージとして参照しているという感じで、例えば人の顔の中にまた人の顔があるといった人物画の独創的な配置も、頭の中でオリジナルで組み立てられています。

——作品には基本的に水彩ペンを使われていますが、画材へのこだわりはあるのでしょうか。

早川:描くものについてのこだわりは、ご本人にはあまり無いようです。
岩瀬さんは水彩ペンと色鉛筆だと、どれが一番好きですか?

岩瀬:(早川さんに耳打ちされる)

早川:色鉛筆が使いやすくて好きだそうです。岩瀬さんは72色の色鉛筆を使われるようになってからカラフルな作品が生まれるようになりました。

——創作を始められた当初から、水彩ペンを選ばれていたのでしょうか。

早川:ボールペンだよね、岩瀬さん。

岩瀬:(小さな頷き)

早川:当初所属されていたグループは作業と創作の両立だったのもあって、使える画材が限られてしまっていたので、最初は黒ボールペン1本で描かれてました。絵の具…は、こちらが使ったら?と言ったら使う、くらいでしたかね。

——作品の中でペンを使い分けたりなどはしていますか?

早川:基本は一本使いです。0.5や0.8の、太さの異なるものを何本かは持たれているのですが、使い分けるということは殆どしてないですね。

——一本ですか?密度高く描かれているので、かなり消耗が激しいのではと想像しますが…。

早川:消耗は激しいです。すぐに買い替えます(笑)

——岩瀬さんの作品はモノクロのイメージですが、後年の作品は多色使いの作品が増えている印象です。使用される画材の幅が拡がったという変化もあったと思うのですが、岩瀬さんの心境の変化のようなものもあったのでしょうか。

早川:昨日岩瀬さんに聞いたところでは、「色をつけるのにチャレンジしたいと思ったから」だそうです。
スターバックスコーヒーさんから、施設の作家さん達に作品制作の依頼が来たことがあって。それに岩瀬さんも挑戦されたんです。その時から色鉛筆を使い始めるようになったんですよね。

——そのような転機があったんですね。それまでモノトーンで描かれていたはずなのに、単色づかいではなく、全ての色合いをまんべんなく使ってカラフルな世界観を表現されているのが興味深いです。
ちなみに岩瀬さんご自身は、モノトーンの作品とカラフルな作品だとどちらがお好きなんでしょうか。

早川:岩瀬さん、どっちが好きでしたか?

岩瀬:(早川さんに耳打ちで伝える)

早川:色がついた方が好きだそうです。

——となると、今後もカラフルな作風の新作が生まれる可能性が高いということですね。これから岩瀬さんの作品がどのような進化を遂げられるのか楽しみです。
作品によって異なるとは思うのですが、制作にかけられる期間、一日の制作時間はどのくらいですか。

早川:大体は3か月、長くて半年かかるものもありますね。
やまなみ工房では一日3時間くらい創作の時間を設けているのですが、その時間帯にお散歩に行く場合もあるので実質の時間は1時間半~2時間ほどで、それが数ヶ月という感じです。
岩瀬さんは次の作品へのインターバルがほとんど無いので、完成したらすぐに次の作品に取り掛かられます。

——コンスタントに作品を描かれるんですね。岩瀬さんの創作意欲の強さを感じます。そうすると、一つの作品にたいしてガーっと一心不乱に集中して描かれているのでしょうか。

早川:どちらかというとゆっくりマイペースに描かれていますね。集中してガツガツと、という感じではないです。ときどき描きながら居眠りをされていることもあります(笑)。
岩瀬さんは運動やお散歩にも積極的に参加される方なので、制作時間も絵だけをじっくり描くというよりは、体を動かす時間と絵を絵を描く時間、半々のサイクルですね。

——岩瀬さんの作品はダークな印象なので、前者のイメージでしたが、実際はマイペースに描かれていたんですね。そのギャップも素敵です。

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楽しく描いて遊びまわろう——展示と未来への抱負

——岩瀬さんご自身のお人柄や趣味、好きなものについてお聞かせください。

早川:岩瀬さんは恥ずかりやさんで、緊張しいな方なので、感情を表に出されないのですが、誰かに絵を見てもらったり紹介されることが嬉しいと以前おっしゃっていました。
気配り上手な方なので、工房に来る以前はご自宅で家事手伝いされていたということもあって、施設でも率先してお手伝いをしてくださっているのですごく助かっています。
お笑い番組も好きで、よく見られているそうです。施設で職員がお笑い番組の話を振ると岩瀬さんもじつは見られていた、ということがよくあります。好きな食べ物はハンバーグでびっくりドンキーがお気に入りだそうです。

——岩瀬さんにとって「絵を描くこと」はどんなことですか?

早川:描くことは「楽しいこと(活動)」だそうです。

——絵が実売されたら、そのお金で何をしたいですか。

早川:(岩瀬さんに確認して)「旅行に行きたい」そうです。僕も今聞いてはじめて知りました。飛行機にも乗ってみたいそうです。

——最後に、ギャラリーに訪れるお客様へひとことお願いします。

岩瀬:……。

早川:職員が質問したときは、「ぜひ見に来てほしい」とおっしゃっていました(笑)

——ありがとうございました!

最後に

熱帯にいるかのような、灼かれてしまうほどに高く熱い密度で、世界を組み上げていく岩瀬さん。
寡黙でマイペースでもある彼の制作は、創作の純粋な喜びと、それゆえの柔軟な挑戦と変化に富んでいた。尚、今回の原画展では、8月28日(土)より、本記事やギャラリーで披露していない、3作品を新たに入れ替えて展示する。
是非現地に足を運んで、圧倒的な力で迫ってくる作品群と対面してもらいたい。

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HERALBONY GALLERY 
岩瀬俊一展 SHUNICHI IWASE EXHIBITION
会期:2021年8月7日(土)〜 9月12日(日)12:00-19:00
※8月28日より、一部作品を入れ替えて展示披露
場所:岩手県盛岡市開運橋通2‐38 @HOMEDLUXビル 4F
定休:水・木
主催:株式会社ヘラルボニー
協力:やまなみ工房 (http://a-yamanami.jp/)
SNS:@heralbony_gallery

↓HERALBONYの公式ECサイトにて、企画展の詳細情報の掲載と岩瀬俊一展の原画作品を販売しております↓




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