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ヘラルボニーの新たな挑戦。従来の規範や構造を変えるための「DE&I研修プログラム」がスタートします

ヘラルボニーは、「異彩を、放て。」をミッションに、「障害」のイメージを変え、誰もがありのままに生きる社会の実現に向けて、アクションしてきました(すこし硬い言い方をすると、福祉を起点とした「新たな文化の創造」を目指しています)。

アクションには、法人向けの事業も含まれます。ダイバーシティ経営に取り組む企業のパートナーとして、空間装飾や新規事業の共創などに取り組んできました。そして、2023年11月27日より、ダイバーシティへの考え方を養う体験型プログラム「DIVERSESSION PROGRAM」の提供を始めました。

昨今はビジネスの現場でも、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)推進が求められています。ヘラルボニーにも「多様性を尊重できる人材育成に取り組みたい」という企業から研修のお問い合わせが増えたことから、研修プログラムを作ることにしました。

プログラムには大きく3つの特徴があります。講演会やワークショップ、福祉施設の訪問を通じた「体感型学習」がベースにあること。その学習を実践へ移すために「日常への浸透」を促す仕組みを持つこと。全てのセッションを通じて、「DE&Iアクション」の基礎を学ぶだけでなく具体化まで伴走することです。

去る2023年12月13日、ヘラルボニーは研修プログラムの提供に先駆けて、トークイベントを開催。定員を上回る申し込みがあり、イベント後には人事やDE&I担当者の交流の場にもなりました。

このnoteでは、イベントのトークセッションより抜粋して、プログラムの前提となる考え方と、DE&I推進のポイントに絞ってまとめました。DE&Iだけでなく、その先にあるダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン&ビロンギング(以下、DEIB)について、プログラムの制作や実践に携わった登壇者が語り合います。


ダイバーシティをジャズセッションのように掛け合わせて

コンテンツ開発責任者 菊永 ふみ(ヘラルボニー)

ヘラルボニーが提供する「DIVERSESSION PROGRAM」のコンテンツ開発責任者は、経営企画室ウェルフェアチームの菊永ふみが務めています。

菊永自身はろう者として、児童指導員として10年間勤務の傍ら、一般社団法人異言語Lab.を立ち上げ、「異言語脱出ゲーム」といったコンテンツを開発。入社したヘラルボニーでは、2023年6月に新設した障害者雇用など、障害のある人の新しいインフラを構築するための新規事業をつくる「ウェルフェアチーム」の立ち上げメンバーとして奔走しています。

プログラムに冠された「ダイバーセッション」は造語です。この言葉には、人々のダイバーシティがジャズセッションのように掛け合わさっていくことへの期待を込めました。ここで大切なのは、フォーカスを当てているのが「深層的ダイバーシティ」であることです。

一般的に言われる「ダイバーシティ」は大きく2種類に分かれます。女性活躍や身体能力など、外見から認識できる違いを指す「表層的ダイバーシティ」。そして、目には見えない違いを指す「深層的ダイバーシティ」です。ヘラルボニーの研修プログラムでは、この内面的な多様性についての理解を深めることに主軸を置いているのも、特色の一つといえます。

「DIVERSESSION PROGRAM」の監修者は「インクルージョン実現のために研究と実践と政策を結ぶこと」をライフワークに掲げる野口晃菜さん。企業や教育機関などに研修プログラムを提供する一般社団法人UNIVAの理事であり、共著書に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』を持っています。

この日、ヘラルボニーが異彩作家のアート(『(無題)(丸)』)を元に作ったフレアスカートをまとって登壇した野口さんは、「DIVERSESSION PROGRAM」基礎でもある「ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、ビロンギング」についての定義を確認するところから講演をスタート。

「DIVERSESSION PROGRAM」の監修者  野口 晃菜さん(一般社団法人UNIVA 理事)

従来からのDE&Iの要点をまとめると、「多様な人がおり(Diversity)、全ての人が公正な機会を得ていて(Equity)、大切にされて参加できていること(Inclusion)」と言えますが、ここに「所属感」を表す「ビロンギング(Belonging)」を追加することが、さらに大切になってくると言います。

たとえば、DE&Iトレーニングなどに年間80億ドルを毎年投資している企業を対象にした研究では、約40%の社員が「職場で孤独を感じる」という結果もあるそう。「多様性を歓迎し、大切にするだけでなく、従来の規範や構造を変え、オープンな対話を推進し、積極的にバイアスや障壁を除去していく必要があります」と野口さん。

そして、「従来の規範や構造を変え」ていくための理論こそが、ヘラルボニーが提供する「DIVERSESSION PROGRAM」の基礎になっているのです。

実は、あらゆる人が、抑圧をどこかで受けている

イベントの参加者のみなさん

もう一つ、「DIVERSESSION PROGRAM」のベースと成る考え方に「障害に関するモデルの違い」があります。

大きく2つに分かれ、一つは「個人の中に障害がある」という前提に立つ「障害の個人(医療・医学)モデル」。もう一つは「個人の機能障害と社会環境の相互作用に社会的障害がある」という観点から見る「社会モデル」です。「DIVERSESSION PROGRAM」は後者の社会モデルからの見地を重視します。

課題に対する解決法も、適用するモデルで見方が変わります。たとえば、トイレの前に車椅子ユーザーが登れない階段がある場合。「障害の個人(医療・医学)モデル」では「車椅子でないと移動できない」という問題を考え、解決法の例としてはユーザー本人の回復や自立を促すでしょう。しかし、「社会モデル」からすれば、「車椅子ユーザーが直面する障害を想定していないこと」が問題だと捉え、構造物の改修など異なる解決法が提示されます。

特に、社会モデルに含まれる「社会的障害」の根本的問題には、組織あるいは社会がマジョリティ(多数派)仕様に作られていることが挙げられます。2023年4月1日より改正障害者差別解消法が施行され、事業者による「合理的配慮」の提供が義務化されることもあって、このような社会的障害を考える局面はより一層、増えていくことでしょう。

あるいは、マジョリティ優先の問題は「障害」だけに留まらず、個人の志向や性格に起因するものもあります。「飲み会が好き/苦手」や「ざわざわした場所でも集中できる/気が散ってしまう」といった、様々な「違い」を私たちは抱えています。DEIBが「全ての人」を対象としている前提に改めて立ち返り、認識してアクションできる機会を持てることも、研修として「DIVERSESSION PROGRAM」が提供できる価値なのです。

「あらゆる人が抑圧をどこかで受けている。それらを開放して、対話をしていく。声を上げることで、組織が変容していく。それによって所属感を一人ひとりが感じることができる」と野口さんは言います。

トライアル満足度は98%!体験型学習でDE&Iの推進を

野口さんの講演に続いて、「DIVERSESSION PROGRAM」コンテンツ開発責任者の菊永も登壇。ちなみに菊永も、ヘラルボニーが作った異彩作家アート(「抱負~いざ勝負 新たなチャレンジ 年男」)を用いたワンピースを着て登場です。

ヘラルボニーは創業してまだ6年ながら、障害のイメージ変革に取り組んできました。ただ、あくまで目標は地球に暮らす「80億人の異彩がありのままに生きる社会」の実現です。誰もがありのままでいられる場を作るための方法の一つがインクルージョン研修であり、今回の「DIVERSESSION PROGRAM」立ち上げにつながった、と菊永は話します。

また、菊永は「社会全体でDE&Iの重要性の気づきが広がっているが、特に企業活動においては、未だに女性役員の登用や外国人採用など表層的な取り組みが多いこと」を指摘。もっとも、そういった取り組みは止めることなく推し進めるなかで、「次のステップはより深層的なところまで進める必要があります。ヘラルボニーとしてもその意義を伝えていきたい思いを持って、プログラムを設計しました」と言います。

野口さんもこの思いに共感を寄せ、「既存のDE&Iコンサルタントなどとは違う、ヘラルボニーらしさのあるプログラムを考えるのは、良いチャレンジだと思って応援しました」と振り返ります。大切にしたのは前述のような障害の「社会モデル」にフォーカスすることに加えて、日常や実際の行動が変わるところまで続けるプログラムにするために、3つのセッションからなる「体験型学習」をベースにすることです。

約半年をかけてプログラムを形にし、トライアルで提供した結果としては、受講者の満足度が98%と高評価。その後も改善を続けていますが、中でも第2セッションの「ボードゲーム型ワークショップ」は好評だと言います。

野口さんは「DE&Iを頭ではわかっている、と思える人ほど体験すると気付きが多いはず。他人事ではなく自分事として腹落ちもできます」と推薦。菊永もそれに賛同し、「野口さんが言うように、社会の中にはマジョリティ側の無意識的な特権がある。今でも問題なく生きていけると思っている人ほど、ぜひ体験してみてほしい」と後押しをしました。

DEIBの実現のためには、従来の規範や構造を変革していく必要があります。マジョリティを中心とする規範や構造を、マイノリティもいる前提へ変えていく。そこには、社会的属性や性質などあらゆる人々の「違い」に着目する観点も欠かせません。それらを推進していくために生まれた「DIVERSESSION PROGRAM」に、ぜひ一緒に取り組みませんか。

執筆 長谷川 賢人
編集 伊藤琢真
撮影 橋本美花

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