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2000スキ記念式典! 分冊でお届け(7)

【あわせて読みたい:これは付録付き一話完結連作短編集『大人の領分』の完結記念&こんにちは世界アカウント2000スキ記念エッセイの続きです。大人な人々の大人たる所以、沈黙の中で世間は回っています  ほか】

(1)開会    (2)薫・ユキ
(3)茅瀬・蓮    (4)敦・佳奈
(5)澪里・詢   (6)晴人・梨恵


6番ブース    智史・柚希

≫≫≫   柚希が聴いている音声(智史ついて話す茅瀬)   ≫≫≫

茅瀬:智史…? さあ…はっきりどんな人とは、言えないな。どこに惹かれたわけじゃないの。もちろん、色々、女の人が好きそうな基準をクリアしてるっていうのは、大きかったかもしれないけど…だからって、それをクリアしてれば智史じゃなくても好きになるかって、そんなわけないでしょう。きっと、私が好きだと思ったのは、そういう色々な「客観的な魅力」を作ってる、智史の、智史らしいところなんだろうな。私が誰かを好きになるときって、だいたいそんな感じなの。智史が…でも、違ったのは…ううん、わからない…愛し合うってこんな感じなんだって、わかって、まだほんのすこししか経ってない気がする…。私にはセックスって、こんなに自然なことじゃなかったから…ちょっと特殊な事態というか…非日常的なことで、自分の生活とすごく、切り離されたところにあった。会えばするし、すれば楽しいけど、別に、それだけ。そのうち、することがなくなって、そのあいだに新しい人が現れる。季節が巡るみたいに、淡々と、その繰り返しだった。智史は全然違って…でも、うまく言えないや、私、まるで生まれたての赤ちゃんみたいな気持ち。こんな世界があるんだって、眩しくて、心許なくて、色んな音がして、なにもかも新しくて、すごく、ドキドキする。愛し合うって今、言ったけど、恋もしながら、愛しあえてる。恋愛って、恋か愛なんじゃなくてきっと、恋と愛のセットなんだろうなって、私、智史に会わなかったらきっと、こんなふうには、思えてないな…。これが…智史が誰かを愛する、っていうことなんだとしたら、…私みたいに、こんな気持ちになった人は、今までにたくさんいたんだろうなって、思うよ。それで、そんな人たちを智史は好きになったり、好きじゃなくなったりして…いま、智史が私のこと好きでいるのは、私には特別なことで…そして、私には特別なことなんだっていうのが、私にはちょっと、寂しいことだったりもする。かな…。ん…? …エッチな話? 別に…もう二人ともオトナだから、コドモみたいなエッチはしない。…オトナだからなのかな?  それとも、もともと私、こうだったのかな。智史といるとその辺、わかんなくなるんだよね…。奇を衒うようなこともないし、そんなに流れも変えないし…ずっと同じ、優しい時間が続けばいいなって、思う。智史もきっと同じ気持ちなんだと思うけど…智史はちょっと、性欲、強いほうなんじゃないかなあ。なんだかすごく照れながら、そんなことないよ茅瀬だからだよ、って、言うんだけどね…? 私に好かれたいから、求めてるのかなって思ったり、やっぱりセックス好きなんだろうなって思ったりする…。私は智史としたいって思う自分にまだ、慣れてない…変な話、前は、すれば気持ちいいからしてた。今は、したいからしてるのね、それで、しかも、ちゃんと気持ちいいのは…きっとお互いの経験なんだけど、したいと思う人が気持ちいいセックスできる人で、よかったなって思う。そうじゃない人たち、きっと、たくさんいるだろうな。前は私もそんな感じだっただろうし。私、もう、自分が他の人とどんな感じでセックスしてたか、思い出せない。いま、あんなふうにしても、たぶん気持ちよくないと思う。相性ってきっと、こういうことなんだろうな。


≫≫≫智史が聴いている音声(柚希について話す澪里)≫≫≫

澪里:なんて、言っていいか…恋愛には私、もらうんだから返さなきゃ、っていうのが頭にあって、何かしてもらって、何かしてあげて、それが相手に足りなそうだったら、自分はまだ返せてないんだって感じて、いつも、ちゃんと返せてるか自信がなくて、返せなかったらきっと捨てられちゃうって、それでどんどん、気持ちを取られていっちゃってたんだと思う。けど、柚希さんは違う。全然、違う。なんて言えば…? 柚希さんには「足りない」が無い。私が何をしても、柚希さんにはおまけなの。卑下して言ってるんじゃなくて…何かをしないからって、すべきことをしてないことに、ならないの。私が、…何かするたびに柚希さんは、私が大切な何かを柚希さんにプレゼントした時みたいに、喜んでくれる。何をしても。思ったの…今までの恋愛って、私、色んなことしてもらったけど、柚希さんみたいに素敵な受け取りかた、できてなかった。恋愛って、求めてばっかり、求められてばっかりで、結局、掌に残る砂みたいに、したことの割に手に入るものは大したものじゃなくて、消耗して、疲れるって、思ってた。でも、それは…ううん、私、あの人たちと一緒だったんだ。欲しくないものもらって、欲しがってないものあげて、それでお互いに、足りない、感謝されてないって…馬鹿みたいだよね。手に入れられるものなんて、ないんだよ。所有できるものなんて、ないの。柚希さんといると、…ただ柚希さんといるだけで、なんて素敵なことを経験しているんだろうって…なんて言えばいい? 何かをしてほしいとか、気持ちよくなりたいとか、そんなことは二の次になって、ただ、柚希さんと、繋がりたい。柚希さんが私といてくれる時間があるっていう、ただそれだけで、泣きたくなるくらい、幸せなの。そんな気持ちで、それで柚希さんが触ってくれると、私、…自分でも信じられないの、ほんの少し、撫でてもらっただけで、…その…すごく、感じる。…すごく。




続きます。



みんなは、ここに:


今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。