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蒼唯はこんな人(だと思う)

【あわせて読みたい:これは短編「愛を犯す人々②蒼唯」の付録です。読むと二度美味しくなる裏設定を、全部載せでお届け。花野さんピンチ、変態探偵坂本さん、蒼唯の好きなもの。他】

 いまさら確認するまでもないんですが、蒼唯くんは美青年です。若いです、とはいえいま、社会人4、5年目くらいかな。対して、驚愕の事実としては、フェンと同じ会社の平SEです。フェンは蒼唯のことを、セックス疲れした肌をした、可愛い男の子がいるな(=食っちゃいたいなー、という意味ですね)、蒼唯はいいなーこんな人が顔面騎乗してくれないかな、この人なら唾液コップ飲みできる。とある意味、大変深く想い合ってます。蒼唯くん。具体的すぎるうえ下品です。チームが違うから、定例会の時くらいしかまともに見かけませんが、ものすごく意識し合ってます。とはいえ、やはり二人とも大人なのですね。

 我慢です。

 ということで、発展の余地がありません。可能性が恣意的にゼロ。見ているこちらとしては、残念。会社の皆さんにしてみたら、ほっと一息。というところでしょうか。

 私の心のアシスタントの…花野さんが一生懸命メイクを直しています。いやいや、顔直すほうが先でしょ、と、蒼唯は思いながらも、一生懸命な花野さんの姿にはキュンとするかもしれません。偽悪的なとこあるんだけど、根は誠実で、人に対しては結果より過程を重視する人物。案外、後輩の面倒見も良かったりするんだよね。すぐ決めて、すぐ動くし。なので、性格の割には会社受けがよいです。

 世の男性と蒼唯を分ける点?

 俺がメイク直してあげるよ、ってメイク直してあげちゃうところですかね。

 今ちょうどそういう展開になってます。花野さん、チーク要らなさそうです。可哀想に。では花野さん、頑張ってね。

花:かっこいいですね。
蒼:言われ慣れてます。
花:モテるんでしょうね。
蒼:向こうから好かれてもね。冷めますよね。
花:はあ。そういうタイプですか。
蒼:可愛がるのは好きですよ。あんたがいまそうだけど、そんな蕩けた目で見られて、悪い気がしない人はいないんじゃないの。
花:あ、えっと…。
蒼:別に訊くことなんて無いんでしょ?  いまあんた、自分のこと知って欲しい、自分のこと、見て欲しいって、思ってるでしょ。俺、見たまんまだから何も話すことないし。あんたが話せば?  ね?

 ちょちょちょ、ちょっと待って、花野さん帰ってきてください。そう、自分の話をしだす前に。今はインタビュアーなんですから、個人的交流は欄外でするように。というか、蒼唯は自分の話をしたくないだけだから。勘違いしないように。
 さて。

 蒼唯は見た目の割に複雑な人物です。自分の容姿に見惚れて爽やかサイダー男子してればいいのにね。

蒼:なにそれ。それさ、気が抜けたら、ただのだだ甘い水じゃねぇの。

 サイダー男子は気を抜かないんですよ、蒼唯くん。

 …ごめん。ごめん、死語だったんだね。たったいまググってゾッとした(三ツ矢サイダーのCMをご存知のあなた。30代ですね。)

 蒼唯はねー…複雑というか…モテとか彼女とか友達とか、リア充的なことにも興味ないし、ゲームとか二次元とか内省音楽とか、非リアなことにも残念なほど興味ないんですよね。生きてて楽しいの?

蒼:楽しくないのを忘れてる時はね。

 キリキリ仕事してる時と、ウキウキ恋愛してる時ね。それ以外の時間はどうしているのかちょっと、のぞいてみましょうか。

 仕事と恋愛以外は全然楽しそうじゃない、蒼唯の日々の過ごし方。

休みの日…お腹がすくまで、下宿から窓の外を見てます。昼ごはんを食べたら、また、お腹がすくまで、下宿から窓の外を見てます。人妻って土日あんまり、空かないんです。空いても昼ごはんくらいだし、そこで嘘をつかせるとボロが出やすい。基本、平日の昼か夜ですね。稼働調整とか有給とかを充てられるので、昼が多いかな。ちなみに夕ごはんを食べたら、また、眠くなるまで、下宿から窓の外を見てます。

平日…そういうわけで有給消化率高いから、仕事は結構、頑張ります。文系からSEになったんだけど、某国立経済学部からの基幹系なので、理系SEから頼りにされてます。

通勤…仕事関係のインターネット記事をチェックしてます。結構な速度でスクロールします。読むの速いです。

ランチ…毎日、一人で外に出て、女子受けするレストランを回って女の子たちを見て、女の子たちに見られてます。会社は私服で、割と自由な感じ。本人は興味ないんだけど、歴代の彼女たちに着せ替え人形みたいに服を選んでもらったり、付き合いで服を見に行ったりしてたので、その延長で蒼唯はオシャレなんですよね。その気ないのに、ほとんど常に女心を持っていくよね、花野さんも突然芽生えた恋心に、大変困っていますよ。

夜…女性と会わない日は基本的に会員制図書館行ってます。なんでかというと、同じタイミングで出るとたまに、寂しそうにしてる大人の女の人に奢ってもらえるからですね。蒼唯はインテリ好きなんですね、それでインテリを狙って出没します。金曜の夜の美術館とか、国立劇場の公演とか。純喫茶とか、フランス語学校とか。蒼唯も、まあまあなインテリなんだよね。New Yorker毎週読んで、日経新聞なんか毎朝読んでるのにね、しかも家ではだいたい勉強してるのに。誰にも言わないよねそういうこと。

蒼:言う人がいないし、いても言う必要ない。何を読むかじゃなくて、何をするかなんでしょ。あんまり苛々させんな?

 はい。
 すみません、蒼唯は真面目なんです、とても。同時進行で抽出作業はしますが、二股はかけないので、常にプロテクトなしでストレスフリーです。ただし、ここが蒼唯の大変よくないところなんですが、略奪趣味なため、相手にだけは専用のメアド作らせたりと色々イニシアチブを発揮します。別れる前にちゃんとパスワードをゲットしてアカウントを抹殺したいんです。泥沼になるのが嫌なので、結構、下心のある人妻狙いです。彼氏と別れられちゃったりすると、重いからね。

 しかしながらなぜ蒼唯が、略奪好きも含めてまるっと、こういう趣味になったか? これには深い訳がありますね。老若男女問わず、お美しい方々は特に、同情の念を込めて以下、お聞きください。

 実は、こんな蒼唯ですが弱点があり、それはセックスがちょっと弱めだということ。蒼唯に惹かれて付き合った子が、され子ちゃんになっちゃうなんて割とザラでした。なんかキープされちゃうんですね。蒼唯は普通に好きなんだけどね、必ずと言っていいほど体で裏切られる。その頃の蒼唯は、まあ今も結構そうなんですが、ずっと付き合うにはハードル高かったんですよね、見た目いいし、器用だし、重たくしないし、趣味ないし、興味持ってくれないし。見せないし、言わないし、追わないし。その割に誠実だし、セックス弱いし。書き出すと、容姿にしか助けられてません。そりゃキープだよ。で、中高ではトロフィーみたいな扱われ方をし、大学1・2年では合宿の醤油差しのように女子連にたらい回しにされ、だんだん女子疲れしてきた矢先、ついに大学3年の時ですが、インターン先のマジキチおじさんにストーカーされた結果、炭酸系男子(←言い直してみた)路線は完全に捨て、全力でいけて・やりたいようにやれる相手を探して打つようになってしまいました。炭酸系で頑張ってたんだよ、それまでは。そういうわけで、蒼唯が自宅を明かさないのも、会社でいい子してるのも、おじさんがドアの前に立ったまま3日間どいてくれなかった恐怖体験に由来しているようですし、以来、蒼唯が手を出すのは、蒼唯に迫られた時に「え、私がこんな子に?」と腰が引けちゃうような、蒼唯が捨てたら泣き寝入りするような、容姿的には控えめな性格のいい女性ばかり。ただねーこういう人に限って、根はむっつりで、欲が深いんですよね。特に性欲が。恋人を大切にしがちな蒼唯ですから、アブノーマルなことなんかにも手を出すようになりました。それはそれで需要があったため、蒼唯は真面目を発揮して、ここでも頑張ってみました。実を言うと、そういうのには蒼唯はエロは感じるけど、愛してるって感じにならないので、蒼唯は(心の奥底の深みの裏側の、自分でも気づかない所では)寂しく感じていますが、お相手はムラムラしてますから結構な確率で喜ばれ、いっそう、蒼唯の恋愛感情と愛情表現はこじれることに。

 沙織と会ったのはこういう、こじれきった頃合いになります。沙織のガードが思ったより堅いうえ、ガードの堅さから想定されるより早く堕ちたので、蒼唯は普段以上に頑張れて、結果も出せて、大変満足。ただし、そのぶん「狩りは終わった」感がひどくて、何回でも強調します、根が善良で誠実な蒼唯は、自分のそういう気持ちに向き合いかねてました。

 はい。ああ、長かった。この通り、蒼唯は見た目の割に複雑な人ですが、人間性の面では割と、見る人をせつない気持ちにさせるような透明感のある人なんですね。躊躇わない。まっすぐ。与え切る。それでいて、報われず、満たされない。そんな、蒼唯の、透明感あふれる切ない恋愛模様に流し込まれた真っ黒な墨、沙織の夫の奇抜な登場…は、本篇にて、ご堪能ください。

 蒼唯の好きなもの。を聞こうとしたら、

 特にありません。

 ということでした。そうですか。
 いいですよ。帰ってよろしい。いらん暴露までされて、ね、お疲れ様でした。

 …蒼唯くん、帰りましたね。確認確認。
 え…? 残念ですね。大丈夫です。
 むしろ、大丈夫なんです。私の手元には、蒼唯が沙織と接触して以降、蒼唯をマジキチストーカーおじさん並みに熱烈に見つめていた、探偵の坂本さん(偽名・男性)の詳細なレポートがあるのです。時に、法を犯して調査に励んでましたからね。実に二年近く張り付いてましたからね。実際のところおじさん以上に熱烈です。※坂本さんは「おじさん」一歩手前のお兄さんです。外見の特徴が全くないです。おじさんかもしれない。
 それにしても…坂本さんの撮った蒼唯の写真にはとても唆られます。美しく撮れてますね。なかでも、入浴中の写真があるのが恐ろしいですね。蒼唯の下宿、浴室に窓ないよね。

坂:趣味と実益を兼ねられる、類い稀な案件でした。

 料金のほうは正規のお代、提出した方のレポートもお代の範囲の内容でしたが、軽く20倍は働いてましたね。部屋に侵入してクローゼットの中で深呼吸、なんてのは序の口で、ラブホで蒼唯が捨てたコンドームから採取した精子、検査に出したりしてましたから。難度高い。人間の愛情というのは時々、計り知れないです。

 この、犯罪的に有能な探偵、いえ、探偵のふりをした犯罪者、坂本さんのレポートによりますと、蒼唯の行動頻度からみる蒼唯の好きなものは…。

 仕事から寄り道せずに帰った日、帰宅一番に飲むキリン一番搾り。日曜日の夕方に部屋をくまなく掃除した後、まっさらなシーツの上にボクサーパンツ一丁で寝転がって、今週のNew Yorkerの短編に目を通す時間。H&Mの試着室の鏡で見る、見事に似合ってる自分。ファイルを転送してる時に、だだだだーって画面に出ては消える、あのログの嵐。専門書まで置いてある大きな書店の、コーナー別の平積みの新刊を、1時間以上かけて片っ端からチェックすること。気分が落ちてる時にナチュラルローソンで買う馬鹿高い入浴剤と、毎月ジンズで買い足す、ブルーライトカットの伊達メガネコレクション。普通の神経を持ち合わせている人間には理解しがたいレベルの、えげつないAVをチェック、してからの、グラビアを見ながらの自●。色白で小さくてあどけない感じを装ってる、バリキャリお姉様。あてもなくふらりと見に行く東京湾。コンビニスイーツ、あるいはハーゲンダッツのストロベリーかバニラ。雨の後、急に晴れ上がった時の、眩しくて、じっとりした感じ。

 おまけ。坂本さんの好きなもの。こんなに粘着質で、ちょくちょく心理的な分析まで入れてくる薄気味悪い坂本さんに全然、気付かないで、ただただ普通に毎日を過ごす、たまには悪いこともしちゃうのになぜか素朴でスレない、若くて、美しい、青年。というか、蒼唯。

以上です。


本篇は、こちら:

沙織は、ここにいます:


今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。