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アウグストゥス廟に思う

イタリア・ローマの真ん中に、アウグストゥス廟はある。ローマの初代皇帝アウグストゥスの墓として建てられたものだ。この霊廟の歴史には、悲しい変容の数々がある。
帝国が滅びると、異邦人が攻め込み破壊された。暗黒時代に皇帝の亡骸は盗まれ、もはや墓としての機能を失う。12世紀には要塞となり、闘牛場、火薬庫と、さまざまな変容を遂げた。

映画「食べて、祈って、恋をして」のなかで、主人公リズ(ジュリア・ロバーツ)は、友人たちと廟を訪れる。そこはいまやホームレスの住処となっていた。

彼女は夫、恋人、財産、あらゆるものと別れて旅行中だった。そんな自分の心境とその廟を重ねて思う。
「焼かれても、荒されても、社会が変容しても、適応し、今なおその廟は立っている。」
「混乱しているのは周囲であって、自分ではない。」
リズはこのローマでの旅で、変化することへの恐怖を手放したのだ。

ローマ帝国に生きても、オフィスで働いていても、周囲が変容しないことは有り得ない。その変容はときに破滅を伴い、痛みを伴い、自分の志を阻むものかもしれない。そのとき自分はどう在るべきなのか。じっと耐えていたり、変化を鵜呑みにする態度でよいのか。私も、恐怖を手放すのだ。

映画が公開されたのは2010年。さらに11年の時を経て、アウグストゥス廟は修復され、昨年一般公開が始まったという。しかしながらいまだ修復工事は完了せず、現場にはクレーンが立ち、作業員がせわしなく出入りしているようだ。
廟にとってはまた、混乱。それでもアウグストゥス廟は、力強く立ち続けるのだろう。

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