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70年代のハローキティ、震災後のきゃりーぱみゅぱみゅ。平和への願いがKAWAIIを生み出す_富士山展3.0トークショー(5)

(1)日本のアートは2011年を境に変わってしまった
(2)芸術?エンタメ?ファッション?アーティストがぶつかる領域問題
(3)ディスカッションが苦手な日本で、アートが果たすべき役割とは〜あいちトリエンナーレを考える
(4)ブロックチェーンに期待される「アートの民主化」その真の力とは?

登壇者

登壇者

【左】施井泰平【中央】増田セバスチャン【右】藤田直哉
*プロフィール詳細は(1)

増田セバスチャン
NY大学で発表したんですけど、今はインターネットを通じて「デジタルトライブ化」しているという話があって。トライブ、つまり部族ですね。これまでは、土地に由来して衣装ができて生活ができて宗教や思想、つまり文化ができてきたけれど、インターネットができてその壁が崩壊するとどうなるのか。

僕たちのまわりの「KAWAII」を好きな人たちは信念とか思想が似てきて、国境とか性別人種、全部を超えている。KAWAIIはいち早くデジタルトライブ化が起こった。でも、他の部族も知らないだけでいるんじゃないかと思うんですよね。

藤田直哉
おもしろいですね。ARTワールドじゃなくて、KAWAIIワールドみたいなものがある種の評価のトライブをつくってしまう。

施井泰平
KAWAIIを需要してるひとたちの発祥って、子ども的なものから始まったんですか。

増田セバスチャン
そういう風にいう人もいるんですけど、ぼくはいかに世界にKAWAIIが広がっていったかを研究していて。

KAWAIIの発祥の一つの潮流は、まず戦後の少女文化からきていると思っています。戦後の高度経済成長期に男性は働きに行って、女性や少女たちは密かに内部文化みたいなものを作っていった。お手玉とかちょっとしたものを自分たちなりにかわいくしていく、というのが根源。

藤田直哉
サンリオという会社がサンリオという名前になったのって73年でしたっけ。キティが生まれたのが、74年で。世の中では連合赤軍事件が起こった後、映画では『仁義なき戦い』が流行っていたころなんですよね。男どもはヘルメット被って革命だ!戦争だ!っていっていた時代。社会の状況は暴力的に荒れ狂っていた時期に、サンリオやハローキティが出てきている。暴力とか政治とか革命じゃない、優しさとか平和とか安らぎを求める機運が出てきたんじゃないかって思ったりします。

そもそもサンリオの前身である「山梨シルクセンター」って、山梨の奥地でシルクを作っていたおばちゃんたちが、小さいグッズとかを作っていた。おかあちゃんたちの、友達や子供達への思いが入っていたもので、それが『仁義なき戦い』と同時代、リンチ事件のあとに広がっていったっていうのは、政治的なものとか暴力的なものを忌避するフェミニズムでもあり平和を望む気持ちでもあった。その辺りである種の断層が入って、政治・暴力的な感性ではない方に日本が変わっていったんだろうというのが僕の理解。

増田セバスチャン
本当にまさにその通りで、KAWAIIっていうのは、西洋であればフラワームーブメントとか、パンクムーブンメントとか、そういう暴力とか戦争とか時代への平和を望むカウンターカルチャー。世界中のユースカルチャーの中で、西洋にも影響力を持つカルチャーとして、「KAWAII」が東洋で生まれたという点で評価されているんですよね。

施井泰平
ドラゴンボールとかだと、次から次へと強い敵の後に、最終的に出てくるボスキャラは可愛かったりしますよね。あと、「かわいい」が悪や闇に誘うイメージもあったりする。「かわいい」が持つ暴力性を考えると面白い。

最初に僕が子供的なものから始まったんですか、と話をふった理由ですが…、僕は小さいころ世界中から来た多人種の子供たちがいるような幼稚園にいたんですけど、そういうところって素朴な差別はあるけど、コミュニティが成熟していないので子供同士のコミュニケーションに互換性のようなものがある。でも、大人になっていくと、それぞれの国や専門領域というコミュニティの言語をしゃべるようになるし、あるコミュニティのなかで大人になっていくと、他のコミュニティから距離を取るようになっていく。

それが、パンクミュージックってすごく素朴な技術で作った音楽なので、色んなコミュニティで共感を得られ易かったのかなと思っていて。それに「かわいい」も近い可能性があるのかなと。「かわいい」は、子供の頃に、誰もが通っているから。

マイクケリーっていう作家が、人形を作品に使ってるんですけど、彼の作品では子供が大人になるためにサポートする道具として「人形」を位置づけていて。誰もが持っていて、誰もが理解できるものを素材にしていましたしね。

藤田直哉
僕、アメリカのテキサスに行った時に、バスに乗ったんです。バスって社会的に恵まれていない層な人たちが乗るらしんだけど、そういうところに黒人の女の子が、眼鏡をかけたガリ勉姿のキティが描かれたリュックを背負っていて、僕に話しかけてくるんです。「なんでこんなとこに来て、バス乗ってんだ」って。ああ、なるほど、キティちゃんてこういう風に機能しているのかって感じましたよ。

ナードであり、黒人であるというある意味マイノリティの彼女が、たぶん、日本と何かつながりを感じている。それで、こいつ日本人っぽいって思って話しかけてきたんですよね。

キティってのは人種のマイノリティに支持されやすいんですよね。それで、キティはコミュティとか人種とかを超えた役割を果たしてるな、と思ったんです。キティはバカにできない力を持っていると思ったんです。

施井泰平
色んな変装しますしね。

藤田直哉
口がないから黄色人種や女性の声を抑圧し剥奪するものなんじゃとか批判されたりもするらしいですけどね。まあ、僕からすると、キティに口がないことに問題あると思ったことはないですが(笑)。

施井泰平
ばってんの口のは何でしたっけ。

増田セバスチャン 藤田直哉
ミッフィーですね

施井泰平
あれは日本ではない?

増田セバスチャン
オランダです。僕はあらゆるキャラクターと仕事してまして、ミッフィーもキティもドラえもんも。ポケモンはやってないんですけど。キャラクターを作っている会社はライバルかもしれませんが、自分が入るとOKになることも多いみたいで。同業他社が多い時ほど使われたりもします。セバスチャンはアーティストだからしょうがない、なんて、意外と許される範囲も広いみたいで。

藤田直哉
さっきアーティストが表現する上で領域なんてあるのか、とは言いましたが、でもこの世界に分断があることは確かで、そういう意味で領域って存在するんですよね。キャラクターはそこを超えたり、繋ぐ力を持っていて、それはバカにできない。ドラえもんやクレヨンしんちゃんをアジアの人はみんな見ていて、政治的に睨み合っている国でも、同じキャラクターを好きだったりする。キャラクターはまあいいか、みたいなところはある。そこには、別のアイデンティティや連帯感が発生している感は確かにありますね。

でもそれがキャラクターの持つ良い部分だし、悪い部分でもあるのかもしれない。四方田犬彦さんの『「かわいい」論』とかだと、グレムリンを例に出して、かわいいというものは、真に恐ろしいものを隠しているのかもしれない、というわけですよ。

増田セバスチャン
わかります。僕も「KAWAII」っていう恐ろしい力に気づいたがゆえに活動をしていますから。

最近は、LGBTとかジェンダーの話ってよく聞くと思うけど、あなたはL、あたはG、とか分けること自体が領域を作っていて。業界的にもゲイの友達は多いし、LだのGだのって僕自身はあんまり考えたことはなかった。でも、NYのトイレって男女が別れていないことも多くて、女の子が入ってきて驚いたんです。そのとき、あ、自分も知らず知らずに性を意識してるのか!と思ったんですよね。

施井泰平
それ、男が入ってきても、あってなりませんか(笑)。

増田セバスチャン
男だったら、大丈夫でしょう。おしっこのほうだから。でも女性が入ってきたら、あってなるでしょ。

施井泰平
ああ、なるほど

増田セバスチャン
まあ、だったらトイレは機能で分けて欲しいですけどね。

それは小さなことだったけど、壁って知らないうちに作るんだな、と実感して。それが大きくなって、メキシコとの間に壁を作る、なんていう話にもなる。でもKAWAIIにはフラットにする力があって。もし、紛争地帯にキティちゃんをおいたら、子供たちは敵味方関係なくキティちゃんをとっていくと思うんです。そういうパワーがある。それは単純にかわいいだけじゃなく、恐ろしい力を秘めているんですよね。

→(6)原宿発のカウンターカルチャー「KAWAII」がなぜ国や企業の後押しを得るのか

(1)日本のアートは2011年を境に変わってしまった
(2)芸術?エンタメ?ファッション?アーティストがぶつかる領域問題
(3)ディスカッションが苦手な日本で、アートが果たすべき役割とは〜あいちトリエンナーレを考える
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(6)原宿発のカウンターカルチャー「KAWAII」がなぜ国や企業の後押しを得るのか

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