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へきちの本棚10(タバネルブックスの本)


へきちの二人、松田洋和田渕正敏が、毎月テーマを決めてレコメンドをする企画、へきちの本棚。第10回目はへきち展「#タイムラインを涼しくする」タバネルブックスでの開催に合わせ、タバネルブックスで開催。今回は店主の中野さんも交え、タバネルブックスの本からレコメンドをします。


To je Praha
文 Olga Cerna
絵 Michaela Kukovicova
Year: 2015
Publisher: BaoBab
Design: Juraj Horvath
Printing: Tiskarna PROTISK,s.r.o., Ceska Budejovice

ミロスラフ・サセックの海外ガイドブック絵本This is...シリーズのオマージュとして出版されたチェコの都市プラハのトリビュートガイドブック。本書はサセックの姪であるオルガ・チェルナによって作成され彼が訪れることの出来なかった都市を継続的に出版し続けるというプロジェクトに挑戦し続けています。チェコの生まれだったサセックは政治的な理由で都市から移住しなければならず、二度と戻ってこなかったためプラハのガイドブックは彼の手では作られなかったという背景もあったそうです。コラージュを使った手法が多くプラハのカフェ・街並み・鉄道・人々がユニークに表現されていてやはり豪華な1冊。(タバネルブックス・中野さん)


le garcon
Noemi Schipfer
Year: 2011
Publisher: éditions MeMo

魚を食べるとき、医者に行くとき、学校に行くときなど、何か気に入らないことがあると自分の体から逃げ出すことができる特別な少年の物語。ある日、少年は自分と同じ力を持つ少女と出会い...。この本のグラフィック形式では、縦と横の色の線をじわりとぶつけることによりキャラクターの形と分裂した形が見えてくる不思議な現象が楽しめる絵本です。(タバネルブックス・中野さん)


Jiri Salamoun
Jan Rous
Year: 2011
Publisher: éditions MeMo

1935年生まれのチェコのイラストレーター、デザイナーであるイジー・シャラモウンの300ページを超える大ボリュームの作品集。大きな犬が主人公のしっちゃかめっちゃかやらかすコミック「Maxipes Fik」シリーズが有名ではありますが、シャラモウンの魅力はそれ以外のところにも深く深くあるというのがまるっと分かる、カラーイラストやスケッチなどの資料がたっぷりと掲載されています。この独特なユーモアは一体どこから溢れ出るのか興味深く、フリーハンドの力強さと説明の出来ない、いや必要のないインパクトがお好きな方にはぜひおすすめしたい1冊です。(タバネルブックス・中野さん)


Histoire de l'art
Paul Cox
Year: 2024
Publisher: éditions MeMo

住民は毎日を悲惨に過ごし、ほとんど口をきかない、不気味で退屈な王国。その国に生きる若い画家ルコ・パックスが魔法の絵筆を手に入れ、自分の絵が2Dで生き生きと動き回る不思議な現象を体験することになります。フランスのイラストレーター、デザイナーのポール・コックス描いた166ページにも及ぶ1999年に出版された長編のおとぎ話の復刻版。紙で出来たペラペラのキャラクターが、ハンガーに干され、コピー機で量産されるシュールな様子がツボにハマります。(タバネルブックス・中野さん)


カレル・チャペックの日曜日
カレル・チャペック

訳者:田才益夫
発行日:2004年12月10日
発行所:青土社
装幀:松田行正
挿絵:ヨゼフ・チャペック
装画:ヨゼフ・チャペック『郵便屋さんの話』

ダバネルブックスにはカレル・チャペックの本が豊富に揃っている。僕は著者について殆ど何も知らないまま本を開いた。主に1920〜30年代の文章の選り抜きで構成されている。著者や時代背景を知らずに読むには難しいのではないかという心配は杞憂に終わった。これは悲しいことかも知れない。こんな大変な時代があったねという昔話では無いのだ。戦争は無くならなかったし災害は頻発している(本の中では関東大震災について触れられている)。都市の人口集中など数年前の新聞のコラムかしらと見紛うほどに現在と地続きの問題だ。
装画は兄のヨゼフ・チャペック。なんて陽気で洒落た線画だろうか。彼はナチスの収容所で亡くなっている。(田渕)


五感巡礼
大竹昭子 短文集

発行日:2021年1月22日
発行所:カタリココ文庫
装幀:横山 雄(BOOTLEG)
装画:工藤夏海
ロゴデザイン:宮地美華子(古書ほうろう)

ダバネルブックスにある小さな本(ZINEやリトルプレス)が詰め込まれた木箱を漁ってみるのも楽しい。大竹昭子の名前が目にとまり読んでみた。知らない場所で犬のように放浪、徘徊して心細くなるまで歩く感じ、僕も同じことをする。(著者は自分を犬の様だと思っていたけれど実は猫なんじゃないかと思い直す。)そんな分かりにくい感覚が言葉に変換されている。ついこの間、松田と「お店の前などで見かける段差を解消するためのアレ」「アレは何というものだ」という会話があってGoogle検索して突き止めた。著者には気になる音があって、その音の出処がそのアレだったという話が収録されていて驚いた。因みに著者もその名前を知らず、すぐ検索していた。身に覚えがある文章に感触の描写力が満ちている。(田渕)


Henry J.Darger
In the Realms of the Unreal
ヘンリー・ダーガー
非現実の王国で

著者:ジョン・M・マグレガー
訳者:小出由紀子
発行日:2000年5月20日
発行所:作品社
造本・装幀:阿部 聡

ダーガーの絵を初めて見る人はレコメンド文を読む前にまず画集を開いてみて欲しい。
ダーガーの膨大な絵や文章は彼の死後に彼の家主が発見・保存したことによって明るみに出たものだ。出来ればその時そうであったように予備知識無しに彼の絵に出会えると良いと思う。僕は大学時代に突然友人が画集を勧めてくれたので素敵な絵だなと素朴に感動するという理想的な出会いになった。ダーガーの絵にイラストレーション的な魅力を感じたのは「リトル・アニー・ルーニー」などのカートゥーンや新聞記事の図版のトレースの線に起因する現代まで脈々と続く線画の系譜が根底に流れているからだろう。悪夢の様な残酷さとクッキー缶のパッケージにいかがでしょうかと勧めたくなるようなメルヘンに没入するとだんだんと酔いが回ってくる。(田渕)


短くて恐ろしいフィルの時代
ジョージ・ソーンダーズ

訳者:岸本 佐知子
発行日:2011年12月31日
発行所:角川書店
装丁:鈴木久美

この本を読んでイラストレーションになりそうな物語だと思った。国が小さすぎて国内に国民が1人、残りの6人は周りを取り囲む外国の領地に立っているなんて瞬間的に絵で理解してしまう様な状況だ。 極端にミニマムに設定された世界は現世の縮図だろうか。小さな国と大きな国のナショナリズムのせめぎ合いが可笑しくも悲しい。 
私ごとだが、僕は今マンションの理事長を任されている。ゴミ捨てのマナーが守れないひとりの住人を解決に導く手立てが無い。紛糾する話し合いの評決の有効票の半数以上は欠席者の委任票だ。 こうした小さなピースが歪に繋ぎ合わされたものを世界というのかも知れない。本当に地球は丸いのだろうか。(田渕)

ソーンダースはジェノサイドを描いた寓話を書きたかったらしい。チャペック「山椒魚戦争」もそうだが、現実で起きている戦争を別のものに置き換えられると、それがいかに愚かしく、なんなら冗談としか思えないような理屈で発生している争いだということがよくわかる。
文体はもちろん、可愛らしい装幀も相まって、映画ドラえもんのような御伽の国の諍いを見ているように読めてしまうが、現実に思い当たる節がありすぎて参ってしまう。
ソーンダースはとにかく不条理で不可解なSF的展開を人工甘味料のようなユーモアで包む人だ。 他もぜひ。(松田)


深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと
スズキナオ

発行日:2019年11月22日
発行所:株式会社スタンド・ブックス
デザイン:戸塚泰雄(nu)
カバー・表紙・小扉イラスト:ポッポコピー
本文イラスト:SuzukiMakiko

子供の頃は、テンションが高い人が面白いと思っていた。だが大人になってみると、テンションの高低は面白さにあまり関係がないことがわかってきた。スズキナオはテンションが低いままに面白い。
友人の実家でラーメンを食べる。半額肉を買ってきてよく知らない人と一緒に焼肉パーティーをする。適当な人かと思いきや、唐揚げ一個の数から計算する割り勘で飲んだりもする。ほとんどタイトルを列挙しているだけだが、タイトルが出オチじゃなく読むとジワ〜〜っと面白い。「やってみたい」欲に忠実で、結果はただの結果として楽しむ。なんとなく、学生時代に無限に時間があったような気持ちを思い出す。
ちなみに田渕からお勧めされて読んだ本だ。(松田)


赤ちゃん盗難事件
カレル・チャペック短編集Ⅱ
カレル・チャペック 田才益夫 訳

発行日:2008年4月10日
発行所:青土社
装幀:松田行正+相馬敬徳
装画:ヨゼフ・チャペック

チャペックといえば「ロボット」の名付け親として有名だし、社会派なイメージも強い。そんなチャペックの中でも比較的「軽くて面白い」(訳者あとがきより)短編をまとめたもの。チャペックは児童書も多く手がけていることもあり、ショートミステリー仕立てとはいえあからさまな残酷描写はない。市民はもちろん、泥棒や刑事なんかもどこかほのぼのとした空気を纏っていて、人々の生活に起きる出来事が優しい語り口でユーモラスに描かれる。一方で通底して荒唐無稽さや人間の非道さも同居しているから面白い。
チャペックは旅行記も良い(そこでも独特なニヒルさを感じられて愉快です)ので、小説を楽しく読めた方はそちらもぜひ。(松田)


日本でいちばん小さな出版社
佃由美子

発行日:2007年5月1日
発行者:株式会社晶文社
装幀:本山木蓮
イラストレーション:佃由美子

曲がりなりにも「自費」出版を繰り返している私には、刺激的で大興奮な出版社奮闘記だった。ほとんど愚痴のように言いたい放題しつつも、「後からわかったんだけど」と断りを入れてされる解説もありがたい。ちゃんと出版社をやるのって、すごくハードだ。というか、出版業界、こんなに閉鎖的で大丈夫なのか!?
自費出版に対しての考え方はなるほど2007年刊行かと納得する、今の感覚からすると少し古い感じもする。私も「ISBNがついていないものは本と認めない」と言われたこともある。 他人に値踏みされるのはいい気持ちがしないが、それでもやっていくしかないのだ。なぜならこれがやりたいことだから。(松田)




へきち

田渕正敏(イラストレーション)と松田洋和(グラフィックデザイン・製本)によるアート/デザイン/印刷/造本の活動です。


田渕正敏

イラストレーター

最近の仕事に「アイデア402」装画(誠文堂新光社/2023)、「ゴリラ裁判の日、須藤古都離著」装画(講談社/2023)、ナチュラルローソン「飲むヨーグルト」パッケージイラストレーションなど。

最近の賞歴、第40ザ・チョイス年度賞優秀賞、HB File Competition vol.33 鈴木成一賞など。


松田洋和

グラフィックデザイナー

最近の仕事に「2023年度東京都現代美術館カレンダー」、「Another Diagram、中尾拓哉」(T-HOUSE/2023)、「奇遇、岡本真帆・丸山るい」(奇遇/2023)など。

最近の賞歴、ART DIRECTION JAPAN 2020-2021ノミネート、GRAPHIC DESIGN IN JAPAN 2023 高田唯 this oneなど。


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