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へきちの本棚7(続・写真の本)

へきちの二人、松田洋和田渕正敏が、毎月テーマを決めてレコメンドをする企画、へきちの本棚。第7回目のテーマは前回に続いて「写真の本」です。




写真と生活
小林紀晴

発行日:2011.11.30
発行所:株式会社リブロアルテ
発売所:株式会社メディアパル
ブックデザイン:トサカデザイン(戸倉 巖、小酒保子)

前回の田渕選書を早速読んだ。それぞれの作家に異なる背景や事情があるにも関わらず、一冊を通して感じるのは小林紀晴の写真・写真家への柔らかい視点だった。何人かの作家は雑誌やテレビで話しているのを見聞きしたことがあったが、その全員の印象が大きく異なった。皆一様に何かその人の大事な部分を差し出してしまっているような、壊れやすいものを扱うような手つきのインタビューだった。単純かもしれないが私はここに載っている作家全員が好きになってしまった。これはやはり、小林紀晴によるものだ。(松田選)



現代写真論 新版
コンテンポラリーアートとしての写真のゆくえ
シャーロット・コットン 大橋悦子・大木美智子 訳

発行日:2016.01.25
発行者:株式会社晶文社
装丁:山本誠デザイン室
写真:Lucas Blalock, Portrait Study(Nina),2009.

SNSで山城功也さんが勧めてくれた本。8章に分け、200点以上の作品・作家について数行ずつ解説される。現代写真のスタートをカラーフィルム(エグルストン→ショアー→アレック・ソス)とし、現代美術との関連に触れながらの解説は、例えそれぞれが数行だとしてもとても面白く豊かなものだった。恐らく本の性質上、作家の名前で逆引きすることも考えられている。つまり、目当ての作家の前後を読むと、他の作家との作品性質上の関連にも触れることになる。ぼんやりと点在していた作品たちを(知らない作家が多かったとはいえ)薄く線で結んでいくような感覚があった。ぜひ手元に置いておきたい本ではあるが(私は図書館で借りた)amazonの古本で2万円を超えている。とても悩ましい。(松田選)



デジタル写真論 イメージの本性
清水穣

発行所:東京大学出版会
発行日:2020.2.14
装丁:川添英昭
cover photo: Wolfgang Tillmans, Double page spread from Neue Welt

前回の選書の際に、自分は松江泰治を(写真家というよりも)現代美術作家と捉えていることに気がついた。自分は大して現代美術に詳しいわけでもないのに、なぜ?と、そのひっかかりについて考えていたところ、この本に出会った。
松江の作品に対する詳細なテキスト(最早解説)はもちろん、写真がデジタルへと移行するにあたりその一回性やサイズを失う以前の、プロヴォーグとコンポラにおけるモダニズムの分岐(リアリティへの反応)に関する章が特に面白かった。というか、大変勉強になった。やはり一つの流れで捉えると格段に構造がわかりやすい。ふんだんに登場する固有名詞は知らなければ飛ばして読んでも十分に楽しいが、一つずつ調べたり写真集を見ながらだとなお良い。(松田選)



写真が終わる前に
菅付雅信

発行日:2023年1月25日
発行所:株式会社玄光社
装幀:尾原史和、川田涼(BOOTLEG)

「コマーシャル・フォト」「PHOTOGRAPHERS NOW」の連載6年分をまとめた一冊。写真家はもとより、時事も扱いながら(Tokyo Art Book Fair、#MeToo、文春砲など)写真の取り巻く状況について語られる。連載という性質上それぞれの節は短いながらも、断片的に引用される言葉によって、丁寧なインタビューによる記事であることがわかる。
私は菅付雅信の著書を何冊か読んでいるのだが、この人は一貫して「世界は移ろいでいくもの」であり「その瞬間をどう捉えるか」をやっている人だと思っている。これは正に写真が持つ機能でもある。タイトルとは裏腹にノスタルジーや懐古的な視点ではなく、未来に視座があるからこそ私は菅付雅信が好きなのだと思う。(松田選)



ジェンダー写真論 1991-2017
笠原美智子

発行日:2018.2.26
発行所:里山社
ブックデザイン:服部一成/佐藤豊
表紙写真:Nony Singh from Dayanita Singh
Little Ladies Museum ——1961 to Present

私がなんとなく考えていた「ジェンダー」が、いかに稚拙なものであったかを思い知らされた本だった。著者の専門が写真・美術である以上、やはりこれは写真論ではあるのだが(同時に読んでいた本に「セルフポートレートに行き着くのはなぜか」についての記載があり、その対応で読むとまた興味深い)、そこに書かれているものは社会の成り立ちと問題だ。女性・老人・マイノリティがどのように自身を扱われてきたか(扱わざるをえなかったか)、作家・作品が求めるもの、「美しい」という価値観。対立関係で一方を浮かび上がらせるのではなく、一つの長い糸で紡がれた歴史として編み直すかのような文章だった。被害の記憶は消えないが、加害の記憶は引き継がれない。これはマイノリティの問題ではなく「私たちの」問題であることに気がつく。(松田選)



Ode
Melissa Schriek

Year: September, 2003
Publisher: Guest Editions
Edit: Thomas Coombes and Melissa Schriek
Design: Thomas Coombes, Guest Editions
Poem: To be your friend by Lin An Phoa

一番最近買った写真集。昨今メディアで目にするシスターフッドなどの扱いに違和感を持っていた著者が、口コミやSNSで出会った複数の女性2人組の撮影を通してその繋がりを表現している。ヘンリー・ロリンズかイアン・マッケイのインタビューで「自分の姿を自分で見ることはできない。鏡で見る自分は反転していて、本当の自分ではない。本当の自分を見ているのは親しい友人だけだよ」(という内容だったと思う)と話していたことを思い出す。実像は他者の目線によってはじめて輪郭を持つ。この写真集には親しい間柄の中で発生する世界の揺らぎや歪みが写っている。そして真ん中あたりと巻末にあるテキストが、本当に素晴らしい。(松田選)



たのしい写真 よい子のための写真教室
ホンマタカシ
発行日:2009年6月1日
発行所:平凡社
ブックデザイン:服部一成+山下ともこ

本書は膨大な写真史の中から「決定的瞬間」「ニューカラー」「ポストモダン」の3つに焦点を絞って取り上げる。前回のへきちの本棚⑥で触れたカルティエ・ブレッソンや父親の影響で「決定的瞬間」に洗脳気味だった僕にとって「ニューカラー」への接続は容易では無かったので、著者が「決定的瞬間」と「ニューカラー」を対極の概念として別々の山とする捉え方がしっくり来た。僕のように昔はよく写真を撮ったものだけど最近はめっきり...とか言ってるうちに写真がどんどん分からなくなってしまう!という写真迷子の方に強くお勧めしたい。(田渕選)



板尾日記6
板尾創路

発行日:2011年3月3日
発行所:Little More
装幀:小野英作
写真:加瀬健太郎

子供の頃にテレビで見た板尾創路の歩き方がヤンチャでカッコ良かった。板尾日記6の加瀬健太郎によるカバー写真にはその感じが出ている。表4側の写真も歩いている別カット。後ろからチャリで迫る女性の顔が「定価」「リトルモア」の文字で隠れているレイアウトも面白い。最終的に10巻まで続いたこの日記本は毎回異なる写真家がカバー・巻頭の写真を撮っていてフォトセッションが毎回楽しみだった。見覚えのあるテレビのセット、舞台袖、楽屋、映画、板尾さんはどこにいても異星人のようだ。(田渕選)



彼らが写真を手にした切実さを―《日本写真》の50年
大竹昭子

発行日_2011年6月20日
発行所_平凡社
デザイン_五十嵐哲夫

前回松田にオススメされた本。「たのしい写真」(ホンマタカシ)を読んだ影響か、「自己」と「大衆」、「芸術」と「芸能」、「写真」と「現代美術」、「戦後」と「その後」...を巨視的に巻き込み全ては一律に写真であるという地平から解き明かされるそれぞれの写真家が巨大な山のように思えてきた。その山々が「日本写真」という大地で繋がって、写真家達の切実さが地層になって迫ってくる。

・・・ナンゴールディン「性的依存のバラッド」のスライドショーに複数の写真家が言及していて、とても気になっている。(田渕選)


きっと誰も好きじゃない。
髙木美佑

発行日_2020年12月28日
発行所_TALL TREE
装丁_𠮷田昌平(白い立体)

著者は出会い系アプリを通して出会った複数の男性それぞれにデートの別れ際にカメラを手渡し著者自身のポートレートを撮影させている。男性達との出会いやデートの様子が冷静な文章で綴られ、最後のページには男性達が撮ったポートレートが写真のプリントを貼り付けたように実際に別紙で挟まっている。男性が撮ったポートレートに収まる著者は一様に笑顔で彼氏が撮った何気無いデート写真という印象だが、テキストやその写真が別れ際のショットであることや何よりも著者はこの写真を見たい(撮りたい)が為に男性に会っているということを考えると、壮大なセットアップ写真として見ることもできる。(田渕選)


鳥を見る
野口里佳

発行日_2001年1月15日
発行元_P3 art and environment
発売元_河出書房新社
book design_Kimikazu Muka

2005年頃に買った初めての写真集。写真のコンペを調べる中でCanon写真新世紀のWebを見て、1996年のグランプリ作品「潜る人」に惹かれるものがあって購入した。この写真集は「潜る人」「鳥を見る」「フジヤマ」の3つのシリーズで構成されている。どの写真の人間も表情が写されず、その服装やスケールによって異世界感が漂う。
当時、写真集を見ることも少なく写真について考えることも無かった。この写真集もぼんやり眺めるように度々開くという読み方だった。この本の巻末には3名の解説が付いていてテキストに触れる契機にもなった。その後、今に至るまで本棚にあり続ける長老本となったが、今でも取り出せば無心で写真をブラウジングしていた感覚を思い出せる特別な一冊です。(田渕選)


話す写真
畠山直哉

発行所_小学館
カバー写真_畠山直哉
カバーデザイン_ミルキィ・イソベ(ステュディオ・パラボリカ)gn)

「爆発は芸術か?」という気になる見出しで始まる本書。著者はこの問いを立てることで、そもそも「アートとは?」というゼロ地点に立ち戻ろうとする。我々が人工的に構築したルールを還元して「文化度ゼロ」の地平を想像する。写真の始まりへと遡り、カメラの発明から考える。徹頭徹尾、還元主義が貫かれている。そのお陰で高度と思えるような議論も始点が明確になり、親近感を持って読み通すことが出来た。「僕の好きな写真は、意外性を持って、僕たちの暮らす世界を別の角度から照らし出してくれるような、そんな写真です。」その言葉通り原点から生まれる様々な問いに光を当てる。(田渕選)


へきち

田渕正敏(イラストレーション)と松田洋和(グラフィックデザイン・製本)によるアート/デザイン/印刷/造本の活動です。


田渕正敏

イラストレーター

最近の仕事に「アイデア402」装画(誠文堂新光社/2023)、「ゴリラ裁判の日、須藤古都離著」装画(講談社/2023)、ナチュラルローソン「飲むヨーグルト」パッケージイラストレーションなど。

最近の賞歴、第40ザ・チョイス年度賞優秀賞、HB File Competition vol.33 鈴木成一賞など。


松田洋和

グラフィックデザイナー

最近の仕事に「2023年度東京都現代美術館カレンダー」、「Another Diagram、中尾拓哉」(T-HOUSE/2023)、「奇遇、岡本真帆・丸山るい」(奇遇/2023)など。

最近の賞歴、ART DIRECTION JAPAN 2020-2021ノミネート、GRAPHIC DESIGN IN JAPAN 2023 高田唯 this oneなど。


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